軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

異世界のドラゴンが何だって?

何も考えられない。

頭の中に靄がかかり思考がはっきりとしない。

ただずっと聞こえて来る言葉がある。

胸の奥から溢れるようにずっと聞こえる言葉だ。

『殺せ。壊せ。全てを……全てを』

何も考えずその言葉に従えば楽になると分かっている。

分かっているが決して従えない。従えば"彼"ですら殺さなければいけない。

(護る。それが……私の、全てだから)

耐え凌ぐ。今までずっと我慢して来たのだ。

一時の誘惑などに屈する程、柔な人生を歩んで来ていない。

(負けない……。私の全ては彼のものよ)

深く濃い闇を湛える瞳の奥で、微かな光を宿し……フレアはまだ完全に屈してなどいなかった。

ユニバンス王国王都内

「この辺で使えば良いよな?」

自分に確認するように呟き、男は懐から宝玉を取り出す。

後はこれを握りさえすれば……と聞かされた通りに宝玉を握り潰そうとする。

腕に力が入らない。理由は一目瞭然だった。

宝玉を持つ右腕の根元、右肩に矢が突き刺さっていたのだ。

「いてぇえぇぇぇ! いてえよぉ~!」

突然のことに驚き大声を出してのたうち回る。

大通りに面している場所で大声を上げる彼に駆け寄る者も居ない。そもそも人が居ない。事前に近隣から住民など避難させられていたからだ。

今回の指揮を担うアルグスタは、静かにのたうち回る男の元へと歩み寄って来た。

「横着するから襲撃場所を絞られるんだよ。襲撃するならさ……もう少し努力した方が良いと思うよ?」

「ふっざけ! お前かっ! この矢を撃ったのは!」

「違うって。弓持ってないし」

「うるせえよ! お前死んだぞ! 今から殺してやるからな!」

右手で掴む宝玉に鼻曲りの男が左の拳を叩きつける。

宝玉が割れた瞬間、矢が飛んで来て男の左肩を貫いた。

「ルッテ遅っ」

「いってぇ~! いてえよ~!」

のたうち回る男の方は射撃手に任せ、アルグスタは割れた宝玉から姿を現そうとしている存在を見る。

「あはは~! お前死んだぞ? それは異世界のドラゴンで、こっちのドラゴンとは比べようもないほどに」

「アルグスタパ~ンチ」

気の抜けた声と軽く振っただけの金色に光る拳。

拳を食らった異世界のドラゴンは、姿を現すことなくそのまま内側に吸い込まれるようにして消えて行った。

「で、異世界のドラゴンが何だって?」

「……嘘だ。あり得ない」

「でも一撃だよ?」

「あり得ない! そんな馬鹿なことっ!」

男はジタバタと慌てだし懐から宝玉がこぼれ落す。

咄嗟に落ちたそれに足を向け、足の裏で踏み抜いて割る。

今度は黒い煙が湧き出し形を作ろうとする。

「アルグスタヤクザキック」

気の抜けきった声とただの蹴りで、また黒い煙が抉られ消える。

流石に二度もそんなあり得ない攻撃を見せられ、男は恥も外聞もなく背中を見せて逃げ出した。

もう十分だと判断し、アルグスタは片手を上げる。が……矢は飛んで来ない。

『あれ?』と首を傾げてまた手を振ってみるが、矢は飛んで来ない。

しばらくそうしていると、巨乳を揺らしてルッテが駆けて来た。

「アルグスタ様~。捕まえましたか?」

「だから足を狙ってって指示出してたじゃん」

「ふぇ? そんな指示知りませんよ!」

「言ったって。『僕だと取り押さえられないから、攻撃の手段を奪ったら足を狙って』って」

「聞いてませんよ!わたしが聞いたのは、『攻撃の手段を奪ったらあとはどうすっかな~』までです」

「その後に言いました~」

「言ってません~」

「なら誰に言ったと言うんだよ!」

「えっと……あっ?」

ルッテは何かを思い出し手を叩いた。

「確かあの時王妃様が、『おにーちゃん。ケーキ頼んでも良いです~?』って」

「あっ。それでチビ姫を見て確か『足を狙ってじゃなくて太るぞ』と」

「「……」」

結論が出た。

「後でチビ姫を泣かす」

「わたしが悪くないんで、責任はどうぞ~」

「上司権限でルッテのせいにしてやる」

「何ですかそのミシュ先輩っぷりの非道はっ! そんなこと言ってると結婚出来ませんよ!」

「君がね」

「はううぅぅ~」

色々と弱みを握られているルッテは、決して上司には逆らえなかったのだ。

「まっ逃げたのは」

ドガーン!

突然の爆音にアルグスタは片手で耳を押さえて何となく視線を巡らせた。

たぶんオーガのトリスシアに任せた化け物が居る方で土煙が昇っているのだ。

「調子に乗って失敗した方にケーキで」

「ならやりすぎて色々と破壊した方で」

目を閉じてルッテは自身の祝福を使う。

上空からの視点で土煙の根元を見ると……どう見ても笑えない大きさのドラゴンが居た。

「調子に乗り過ぎてドラゴンが出て来て色々と破壊しちゃった感じですね」

「引き分けか。でオーガさんは?」

「あ~。怒って殴りかかってます。お~凄い。化け物同士の戦いですね」

「そうなると被害が膨れ上がりそうだから……急いで行こうかね」

「はーい」

アルグスタとルッテは急いで現場へと急行した。

「ふざけるな。ふざけるなよ!」

両腕に怪我を負い、それでも鼻曲りは次なる目的地に来ていた。

体を震わせて宝玉を地面に落とすと、それを蹴って屋敷の門にぶつける。

割れて中から黒い煙が噴き出した。

「あっちは失敗したがこれで」

ただ両腕の怪我もあり、それ以上は出来ないと判断して急いでその場から逃げだす。

故に彼は見ていなかった。恋人でも待つかのようにのように門に寄りかかり佇んでいる黒髪の少女の姿を。

煙を噴き出し転がって来る玉を見て、モミジはようやくそれに気づいた。

「待たなくて良いんですよね? 断空」

手にしたカタナを一閃し、放たれた剣気が黒い煙を裂く。

「あっ……これ、苦手な奴です」

何度も何度も剣気を放って煙を斬るが、一向に煙は消えない。

流石に焦りだしたモミジは両手でカタナを握り連続で剣気を放つ。

「うわ~。ダメな奴です。せめて断崖が使えれば……うわっちょっと!」

段々と膨らむ煙に危険を感じ、モミジは一端それから離れる。

上空に何かしらの気配を感じ視線を向ける。

見えないが何かが存在していると直感する。

ゴクリと唾を飲み込んだモミジはそれを見た。

何かしらの力が上から圧し掛かって来て、そして煙が潰され……完全に消えたのだ。

「何でしょう? 今のは?」

彼女は知らない。自分の存在が、アルグスタが一応の為に配置しただけだと言う事実を。

何よりその屋敷には、家族を護る為に特化した大陸屈指の実力を誇る女性が居ると言う事実を。

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