軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

奇遇ね。私もよ

ユニバンス王国内某所

黒いドレスの胸元に手を触れ……固まった血が指に張り付く。

本来なら綺麗であろう金髪をどこか曇らせ、それでもただ一点を見つめて呟き続ける。

「どうして受け入れてくれないの? どうして受け入れてくれないの? どうして……」

壊れたように同じ言葉を繰り返し、女性……フレアは自分の胸の内にある黒く暗い存在に耳を向け続ける。

『壊せ。殺せ。全てを……抗う者は全て消せ』

冷たく狂ったように声を発する存在を、フレアは胸の上から手を当てる。

「殺す。邪魔をするなら……彼以外全てを殺す」

肩を震わせ狂ったように笑い出す。

その目から止まることの無い涙を溢れさせて。

「アルグ様?」

「ん? ノイエは寝てて良いよ」

「はい」

だけど彼女は僕の背後から抱き付いて来ると、肩越しに手元を覗き込んで来た。

今見ているのは『あの日』に関する全ての資料だ。

この部屋にはリア義母さんから貰い受けたカミューの資料もある。たぶんこれで全て揃ったはずだ。

僕が読み進める紙を、ノイエが一緒になって眺めている。

もしかしたらノイエ以外の誰かが見ているのかもしれないが、今は正直どうでも良い。またこの資料が消失するかもしれない。だから全てを暗記するのは無理としても……ノイエの中に居そうな主要メンバーは覚えておきたい。

「アルグ様」

「ん?」

「みんな?」

「そうだね。きっとこれがノイエの家族だったんだね」

「……はい」

ちょっと甘えてノイエが頬を擦り付けて来た。

軽く頭に手を伸ばして撫でてやると、彼女は増々頬を擦り付けて来る。猫みたいで可愛いな。

「全部覚えるのは流石に無理そうだな」

「頑張って」

「そうするよ」

ちょっと夕方の出来事を思い出し、僕は全部覚えようと心に誓った。

帰宅していざ取り出そうとしたら……関係の無い物が多数出て来た。

どうやらノイエがお菓子とかを収納していたらしいが、時間の経過で腐っていたりしたのだ。潰れてグチャグチャの果実なども発見され、生ものは入れない方が良さそうだと判断した。

本当にそれから色々なゴミを吐き出し、ようやく資料の山が出て来た。

ノイエにはメイドさんたちと一緒にゴミの片づけをして貰いました。躾です。

たぶん全部出ているはずなんだけど、ノイエのあの様子から取り出せていない物もありそうで怖い。

そんなこともあり、僕も横着をやめて全部覚える方向にスイッチしたのだ。

「アルグ様」

「ん?」

「朝」

「はっ!」

彼女の声で朝日と言う存在に気づきました。

登城してから仮眠を取っていたら、クレアに起こされた。

流石に姉の一件で弱々しくなっているが、それでも新妻は気丈にも振る舞っている。

良い子良い子と頭を撫でたら……何故か泣き出しイネル君に抱き付きに行ったので、無言で旦那さんに会釈をしておいた。

薄々彼女も前王を誰が襲撃したのかを察したのだろう。何より王城内ではそのことがヒソヒソと噂話されている。可能性の話でも信ぴょう性が高いから僕としても気安く否定しづらい。

事実な場合、現王の前に襲撃を受けていたことになるのか……辻褄が合ってしまう。本当に最悪だ。

「行こうノイエ」

「はい」

今日はケーキを食べずにソファーに座っていたノイエが軽い足取りでやって来ると、僕の腕に抱き付いた。

覚悟を決めて僕らは城を出た。

「アルグスタ。ノイエ。ありがとう」

「……」

気丈に振る舞う人がここにも1人居た。

涙を溢れさせ、声を震わせる義母さんは、それでも僕らを出迎え部屋の中に案内してくれる。

先に来ていたはずの国王夫妻は居ない。チビ姫はちゃんと王妃らしく振る舞えたのか?

馬鹿王子夫妻もこの場には居ない。メイド長の話では、義母さんとリチーナさんとは会っているはずだ。でも残っていないのは多分馬鹿兄貴がまた変な気を遣ったんだろう。

結果として……現王の襲撃者を側室に迎えようとしていたことになっているのだ。それを言い出したら彼女は僕の部下のままだ。除軍届はまだ僕の手元で止まっている。

リア義母さんの案内で通された部屋はとても質素で、ベッドとちょっとした家具があるだけだった。

そしてベッドには、今にも死にそうなほど色を失くした前王ウイルモット様が寝かされていた。いつも好々爺な感じで紅茶を飲んで馬鹿話をしていたあの人がこんなことになるなんて。

「見てアルグスタ」

「はい」

「この人はね……出かける時に私と約束したの。『必ず帰る』って。だから私も約束を守って笑ってね……笑って出迎えなきゃいけないの」

ボロボロと涙を溢してどうにか立っている義母さんは、それでも笑おうとして見てて痛々しくなる。

「私、笑えてるかしら?」

「……ええ。良い笑顔ですよ」

「本当に? 良かった」

堰を切ったように義母さんが口元を押さえて泣き崩れた。

控えているメイドさんたちに義母さんのことを任せると、隣に居るはずのノイエが居ないことに気づく。ノイエはベッドの傍に近寄り、一度だけ前王の頬を触れると……きびすを返して、僕の腕を掴み部屋の外へと向かおうとする。

その目が碧色になっていたから気づいた。彼女が出て来たのだ。

なら僕がするべきことは決まっている。

歩くノイエが足を止めて不意に立ち止まる。

今度は僕が彼女の腕を掴み、近くの部屋に飛び込んだ。

「ノイエ。お願いがある」

「はい」

正面からいつもの瞳の色に戻っているノイエを見る。

「聞いて忘れて」

「はい?」

流石のノイエも首を傾げた。だが僕にはそうお願いするしかない。

「お願いだノイエ。聞いて忘れて」

ジッと彼女の瞳を覗き込んだら、コクンと小さく頷き返してくれた。

「なら……誰でも良い。手を貸してくれ」

ノイエの肩を掴みその目に語り掛ける。

「ふざけるな! 僕の家族に手を出して、挙句義母さんまで泣かした! 許せる訳が無いだろう? だからお願いだ……誰でも良い。手を貸してくれ」

スッとノイエの色が変わった。金髪碧眼のノイエが僕を見つめる。

「今回だけよ」

「構わない」

「そう。……なら手を貸してあげる」

出てきたグローディアが、肩を掴んでいる僕の手を払いそのキツイ視線を向けて来た。

「リア伯母様を泣かせるなんて万死に値するわ」

「ああ。でも……巻き込まれた人は救う」

「甘いのね」

鼻で笑い彼女がこっちに小馬鹿にしたような視線を寄こす。

言いたければ言え。笑いたければ笑え。

「ただし……敵対するなら容赦はしない。掛ける情けも無い」

「そう」

スッと僕の顔を覗き込んでグローディアが笑う。

「奇遇ね。私もよ」

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