作品タイトル不明
あそこの仕事が好きなので
「む~」
「アルグスタ様?」
「本当、年寄りって嫌いだわ~」
「そう言われましても」
使いっぱしりと化しているイネル君が留守で、クレアはまだダウン中。あまり話したがらない男装ミルを除くと、僕とのお喋り相手はパルになる。
馬鹿兄貴を心酔していると言う変な病気を得ているが、見た目は何処かの高貴な令嬢を思わせる美少女なのだ。普通に考えれば話し相手としたらこの上ないほどの存在だが……あのパパンの娘なのが信じられない。相手のメイドさんが余程美人さんだったのだろう。
「絶対にあのオッサン……物語とかだと口封じで殺されるよ」
「あれでも古参の騎士様ですし、魔法も相当使えると聞きますよ?」
「そう言う人の方が不思議と殺されるんです。その辺の流行りの本とか読んでみなさい」
言うと少し悩んでパルが答えて来た。
「……最近はとても美人の騎士を娶った腹黒王子が天罰を食らう話が流行りだとか?」
「作者教えて。天罰下すから」
やれやれと肩を竦めてパルが仕事に戻って行く。冗談じゃ無くて本気なんですけど?
自分が忙しい間にそんなけしからん物語がブームだったとは……今度調べる必要があるな。どこぞの馬鹿な貴族が、僕の評判を落とす為に書かせているかもしれないしね。
一度椅子に座り直してコンスーロのオッサンとの会話を思い出す。
結果としてオッサンの鉄壁な防御で回避された。
『主の許可なく勝手に話すことなど、いくら弟君の命でも受けられません』
そう言われてしまうとこっちとしては完全に手詰まりだ。
仕方なく最初に戻って、馬鹿兄貴の所から回収して来た書類の山をパルとミルに手分けさせ、各種の情報を抜き取り整理する。
お陰で昨日僕らがお城を出てから何が起きたのかは理解出来た。ノイエの勘はお城での出来事を指していたこともだ。否、たぶんこの竜司祭とやらの存在を察したか。
そう言われてみると、前回の『ざわざわ』もフレアさんが居なくなる前日だった気がする。
つまりノイエがざわざわする時は、このふざけた司祭が王都に来ている時だと言うことか? 意味は無いけれど無性にムカッとする存在だな。
「ってまた書類が凄いことになってますね~」
「ああ。ルッテか」
「おはようございま~す」
開店休業中のノイエ小隊を実質一人で切り盛りしている巨乳が、無駄に元気でやって来た。
今日も朝から胸を揺らしてけしからん。部屋中の少女たちがあの胸を見て自分の胸と見比べて泣いているぞ?
軽い足取りでやって来たルッテは、報告書の束をまとめて置いて来る。確かに暇だろうから『数日分なら一括で良いよ』とは言ったが……これはちょっと貯め過ぎて無いですかね?
僕の非難染みた視線も何のその、ルッテは気にする素振りも無く口を開く。
「そろそろ雪が解けてしまいそうなんで、隊長にも待機所で待機して欲しいんですけど?」
「心配するな。ノイエはドラゴンが湧きだしたら勝手にそっちに行く」
「いいえ。そろそろわたしも休みたいんで、隊長に居て欲しいんですよ」
「簡単だ。休むな以上」
「って酷過ぎませんかっ!」
ええい。こんな糞忙しい状況で僕からノイエの癒しを奪うことの方が酷過ぎるだろう!
「現在凄く忙しいの! ノイエにも居て貰わないと無理なの! 若いうちなんて、休みを貰ってもどうせ家でゴロゴロとしているだけなんだから、将来の為に死ぬ気で働いて貯金しておきなさい!」
「だからその将来の為に休みが必要なんです!」
だいぶノイエ小隊で揉まれて来ただけあって、ルッテも随分逞しくなったものである。
しかし手など抜かん。今ノイエを奪われたら僕のやる気は確実にマイナスに入るのだよ!
「休みで得られる安い将来など忘れておけっ!」
「忘れられませんっ! 次で3回目のお見合いなんです!」
プルンプルンと胸を震わせルッテが力説して来る。
「一般的に3回目のお見合いで相手から求婚を受けるのが普通らしいんです! だから次こそもしかしたらって思うじゃないですか! わたしだって早く結婚して両親を喜ばせたいんです! 誰かのように売れ残りたくないんですっ!」
ええい! あの売れ残りの弊害がこんな場所で!
「最後の言葉が本音だろうが! そんな邪な企みなど全力で妨害してくれるわっ!」
「って、それが部下に対する上司の言葉ですかっ! 何より隊長ってば、わたしが来る度ずっとあそこに座って、美味しそうにケーキを食べてばかりじゃないですか! それもブロストアーシュの最高級のケーキをっ!」
今もほむほむとケーキを食べるノイエを見て巨乳が吠える。
「それがノイエの仕事です! ああして僕に癒しを与えてくれるんですっ!」
「だったらわたしにもあのケーキを下さいよっ! 本当にたまにしか食べられないんですよっ!」
本当にこの巨乳め……胸だけじゃなく、精神的に図太くなったな!
「分かった! 好きなだけ食わせてやるわっ! だから今回の一件が終わるまで休み無しっ! 相手の方にも、裏から表から手を回して休めないようにしてやるから心配するなっ!」
「うわ~! うわ~! 流石にそれは酷過ぎませんかっ!」
「仕方ないのだよ。ルッテ……」
言い合いで疲れて僕は椅子に座った。
最近本当に無駄に頭を使ってる気がするけど、僕ってノイエ一筋で生きてれば良かったんじゃないの?
若干哀れんだような視線を向け、ルッテが恐る恐る口を開いた。
「また何かやったんですか? 昨日から大臣やら近衛やら大忙しみたいですけど?」
「うん。前王が襲撃されて瀕死の状態らしい」
「ふぇ?」
理解出来なかったのかルッテが首を傾げる。
「で、現王も襲われてそっちはどうにかなったんだけど……実行犯がフレアさんらしいのよ」
「ふぇえ?」
首の角度がより鋭角になった気がする。
「そんなこともあって忙しいの。分かった?」
「……」
沈黙してからゆっくりと首の位置を元に戻すと、突然バタバタと腕と胸を振って一通り暴れたルッテは、そのまま目をくるんと動かし……白目を剥いて卒倒した。
「……ごめんナーファ。追加で看病頼むわ」
「良いんですけどね。いつもこんななんですか?」
「大体こんな感じよ。もし良かったら働きに来る?」
「遠慮します。わたし……あそこの仕事が好きなので」
ルッテを引き摺りナーファがソファーへと運んで行く。
『あそこの仕事が好き』とかあの医者の先生が聞いたらどんな反応をするのやら。
「全く……とりあえず資料の整理からだな」
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