軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ソファーのマグロ

掃除を終えた室内を見渡し、フレアは今一度確認をする。

この部屋で過ごすようになってから本当に色々とあった。でももうすぐ終わる。

そう思いながらも掃除に使った道具を片付け……何となくベッドに座り膝を抱く。

自分を探し回る妹の存在が疎ましい。暗躍している"彼"の行動が疎ましい。

「もう……放っておいてくれたら良いのに……」

呟いて目頭を膝に押し付ける。

自分はあの時に『終わった』人間なのだ。

あの日……ブシャールと王都での出来事を終え、病気で倒れ目覚めてから何かが変わった。

実戦を得たことでの心境の変化などでは無い。自分は『壊れた』のだ。

だからもっと早くに彼の元から離れるべきだった。

出来なかったのは自分が弱かったから。彼に甘えたかったから。

そのせいで周りに迷惑をかけた。アーネスの心も傷つけた。

本当に最低な自分は……あの魔女の弟子に相応しい女なのかもしれない。だから一人のうのうと生きている。

「ミローテとソフィーアにお別れをしていかないとね」

早く逃げ出したいのに理由を見つけてはこうして留まり続ける。

弱い自分に嫌気を覚えながら……フレアはゆっくりと顔を上げて息を吐いた。

「もう嫌だ。こんな気分だから気持ちまで悪くなって来る」

吐き気を覚え泣き言を言う。

とりあえず今後は女子寮を引き払い、王都内で宿を取って過ごす予定でいた。

自分は『もうここを出るのだ』と決めた、彼女の僅かながらの決定事項だ。

除隊届"だけ"を出されても……引継ぎとかはある訳です。

ソファーの上で陸揚げされた状態のルッテに同情の眼差ししか向けられない。

ミシュは絶賛仕事中だ。新領地となった場所へ手紙の配達をしている。手紙と言っても大半は指示書の類で、きっと元大将軍の部下たちと揉めていることだろう。それが政治らしいから何も言わないけど。

「動かないです~」

ルッテの胸を叩いて遊んでいるチビ姫の目が、若干マジなのはスルーしておこう。

雪のお陰で鎧を着る必要が無いからルッテの服装は厚手の私服だ。野暮ったいけど仕方ない。

「これこれチビ姫」

「何です~?」

「その置き物は目の前にお菓子を置かないと動かんぞ」

「分かったです~」

目を輝かせチビ姫が棚からお菓子を漁り、ルッテの目の前で頬張り始めた。

何をどう聞き間違えるとああなるのか誰か教えて欲しい。

「起きないです~」

「だろうね。本命のケーキを待ってるんだろうし」

「ケーキ……です?」

「うん。今ノイエが買いに行ってる」

「……お菓子食べたです?」

「仕方ないよね。自爆だしね」

絶望感を前面に出し、焼き菓子をひと箱空にしたチビ姫が泣きそうな表情を作る。

この件に関してはやっぱり自爆だと思う。

何より……ノイエが無事に一人で買い物が出来るのかが不安でならない。やはり一緒に行くべきだったか?

「アルグスタ様?」

「ん~」

「そろそろお仕事の方を」

「ん~」

現実逃避をしている僕にやんわりと声をかけて来るイネル君は真面目か?

とは言っても……あ~も~本当に面倒臭い。

「フレアさんは捕まったの?」

「クレアが毎日あっちこっち覗きに行ってますけど……」

「そうなると本格的にルッテが死ぬよ?」

ビクビクとソファーの上でマグロが震えた。気のせいだ。たぶん死後硬直だ。

仕方なく机の上の書類に手を伸ばす。

除軍届と言うか正式には『除軍願い』になるのだけど……あの人は自分が騎士だって忘れてないかな?

騎士は任命されてなるものだから勝手に辞められないんだけどね。

「まあ仕方ない。今後書類の全てをルッテ宛にする。本日付けを持ってノイエ小隊の事務担当はルッテね。決定」

「いやぁ~!」

ソファーのマグロが断末魔を上げたが仕方がない。

きっとチビ姫が興味本位に胸の谷間にツッコんだ手が何かヒットしたんだ。

サラサラと全ての書類をルッテ宛にして……僕は山と積んだ束をイネル君に押し付けた。

「で、ノイエはまだか?」

「遅いです~」

「……」

両手にフォークを装着している馬鹿が視界に入った。

いや待てチビ姫? まさかもう小腹を空かせたのか? 文字通り物理的な意味合いで?

開きっぱなしの扉の前に…動く荷物がやって来た。

間違っていないはずだ。荷物が動いている。そうとしか見えない。

「買った」

「お帰り」

「ん」

大荷物を抱えたノイエが嬉しそうにアホ毛を振っている。

おつかいが成功して喜んでいる……のだろう。彼女的には。

ただ両手に抱え山となっている箱の全てにケーキが入っているのか?

僕は彼女に何と言って送り出した? 確か……『人数分買って来て』だったはずだ。

「僕が間違ったかっ!」

「ん?」

机の上にケーキを置いて広げるノイエは悪くない。悪いのは僕だ。

人数分買って来たのだノイエは。たぶんこのフロアーと言うか区画と言うか……下手をしたら城内の全員分か?

「ノイエ」

「はい」

「良く出来ました」

「ん~」

ノイエは悪く無い。伝える方のミスだからノイエは悪くないんだ。

ウリウリと彼女の頭を撫でながら思う。

メイド長に言われてるんだよな……メイドにお菓子を与え過ぎるなって。

最近メイドさんたちがほんのちょっとふっくらし過ぎて……どこぞのパパンが元気らしい。

もう早く城から出て隠居しろと言いたい。はぁ……。

「とりあえず食べようか」

僕としたらもうそう言うほかなかった。

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