軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

辛いよ……本当に……辛いの

「……」

「どうかしたのか?」

「……何でもない」

答えてフレアはゆっくりと目を閉じた。

ただ目覚めてから天井を見上げていただけだ。

それだけのはずなのに……涙がこぼれそうになって、反応した所を彼に気づかれただけだ。

「明日はどうするんだ?」

「……叙任式に参加するわ」

「その後だよ」

「……予定は無いわ」

身を起こした彼が自分の方を見るのを気配で感じる。

ただ目を閉じたままのフレアは特に反応を示さない。

「ケインズ小父さんたちは来ないのか?」

「来ないわ。どちらも仕事が忙しいから」

「そうか」

違う。最近は手紙も返さない娘に呆れているのだろう。

第二王子の正室になるであろう娘が、あろうことか騎士になろうとしているのだ。

やんわりと遠回しでこちらの様子を探る内容の手紙を読むのに疲れ、封を切らずに机の引き出しに放り込んだままだ。

もしかしたら叙任式のことを知って何かしら尋ねた手紙があるかもしれないが、あの母親のことだから返事が無くてもメイドたちから情報を得ているはずだ。

「なら明日……叙任式が終わったら俺の執務室に来い」

「分かった」

「先に行くな」

「ええ」

本来なら立ち上がり相手の着替えを手伝うはずだが、昨夜はその……今までで一番きつかったのだ。

腰に力が入らず、フレアは彼が居なくなったのを感じてから瞼を開いた。

もう我慢する必要も無いので涙を溢し、それをやはり隠すように顔に腕を運ぶ。

こんな風に愛されるのが辛すぎる。

心の底から愛している相手だから、抱かれる度に自分の心に封をした気持ちが溢れてしまう。

自分でなく妾たちでも抱いて過ごしてくくれば良いのに……と、フレアは胸の中で不満を膨らませる。

自分とは違い彼女たちは女性としての外見は優れている。何より前から口々に言っていた彼の言葉は自分をからかってのモノだと思っていたのに……本当に豊かな胸の人が良かっただなんて。

だったらあの肉の塊を抱いていれば良いのに、彼は何かあると自分を呼んで抱くのだ。

それがどれ程辛く悲しいか……彼は知らない。

「でも我慢しないと。私は彼の道具になると決めたのだから。ただの道具に」

感情だって最低限に抑え、命じられるままに人形のように生きていくのだ。

ただ決して"正室"になることだけは避けなければいけない。自分は彼に相応しくないのだから。

「大丈夫。出来る」

自分に言い聞かせ、フレアはゆっくりと体を起こした。

「……ソフィーア。私も貴女に負けないぐらいにダメみたい」

呟いてフレアは力無く笑った。

叙任式を無事に終え騎士となったフレアは城の中を歩いていた。

式典では、国王ウイルモットが複雑な表情で自分を騎士としてくれたが……やはり国王も自分が騎士になることを喜んでいないのだろう。

分かっている。

誰もがユニバンス王家とクロストパージュ家の結びつきを望んでいるのだ。

だがこのままではその両家が結ばれることはないだろう。

フレアはため息をついて、扉の前に立った。

近衛副団長の執務室だ。

少しだけ身なりを整え、扉をノックする。

「フレア・フォン・クロストパージュです。入ります」

そこでフレアは……さらなる絶望を味わうこととなった。

新年の時期は雪の季節だ。

だが今年は気温が暖かく雨が降る日も多い。

そんな中、騎士の装いをした者が一人で立っていた。

長い金髪を霧雨で濡らすその女性……フレアだ。

彼女が見つめる先にあるのは墓だ。

共同の墓地に置かれている行き場の無い者たちを収めた名もなき墓石だ。

そこには同じ師に学んだ仲間であり親友たちが眠っている。

「ミローテ。ソフィーア……」

貼り付く唇を剥して紡いだ言葉は友の名だった。

「どうして私だけ……こんなに苦しんで生きているのかな?」

死ぬことが楽だとは思えない。

苦しみながらも微笑んで行った友の顔をフレアは覚えている。

忘れる訳が無い。あの笑顔を忘れることは出来ない。

「辛いよ……本当に……辛いの」

地面に膝を着いて墓石に手を置き、フレアは雨粒を大きくして振り出した雨に向かい顔を上げる。

声の限りに泣き叫び……フレアは自分の思いを全て吐き出す。そうするしか出来ないからだ。

彼女は最愛の人から『正室候補から外れてくれ』と告げられた。

そうなることを望んでいたはずなのに……心の何処かで違う未来を求めていた。

もしかしたらと夢見ていた希望は完全に打ち砕かれ、フレアは自分が本当に彼に相応しくないのだと痛感させられた。

だから告げられた時……泣き出してしまいそうな自分を奮い立たせ、彼女は自分に嘘を吐いた。

『彼が自分に自由を与えてくれたのだ』と、そう嘘をついて自分に言い聞かせたのだ。

でも今だけは、泣いて全てを吐き出したかった。

気が済むまで……気が済むことなど無いが、フレアはただただ泣き続けるしか出来なかった。

そして時はまた流れ……1年が過ぎた。

「密告?」

「はい」

「何処かの馬鹿貴族が悪さでもしたか?」

報告を持って来た副官に、彼はやれやれと頭を掻いた。

上司である近衛団長が余りにも失敗を重ねるお陰で、そろそろ自分が昇進しそうなのだ。

国の大臣などは、もう決定事項だと言わんばかりに副団長のハーフレンに書類を回して来る。

うんざりしながら書類の山に手を伸ばす上司に、コンスーロは表情を崩さず言葉を続けた。

「それが……その者が言うには、『王国内に隠された施設があって化け物を育てている』とのことです」

「……化け物だと?」

穏やかではない言葉にやる気の無かった彼の表情から感情が消える。

いつの頃からか真面目になると見せるようになった無表情とは違う冷たい顔だ。

「詳しい話は?」

「はい。ですが少々問題が生じまして」

「言え」

「はい。団長の耳にそのことが伝わってしまいまして、手勢を連れて単独で向かったのです」

「あの馬鹿は……」

冷たい表情に苦笑が浮かぶ。

自身の辛い状況を打破したかったのか、それとも別の理由があるのかは知らないが……本当にあれは自滅することに喜びを感じているのではないかと疑ってしまう。

「事件であるなら近衛は動けるな?」

「はい」

「部下を集めろ。密偵の方もだ」

「畏まりました」

一礼をし執務室を出ていく副官と入れ替わり、書類を抱いた女性騎士が入って来た。

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