軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

うわ~無理だわ~

薄っすらと開いたの瞼の先に見えるのは、見慣れた天井だった。

ハーフレンは一度肺の中の空気を吐き出して視線をゆっくりと巡らせる。

自分が知る彼女なら……と思ったが、近くに見慣れた少女の姿はない。

また息を吐いて目を閉じる。

自分も大概だが、殴り合った相手もまたおかしいほどに強かった。

何度殴っても、こちらの拳が悲鳴を上げても……相手の骨を断つことも出来ない。

実力差とも思えたが、ハーフレンは殴り合った相手を知っていた。

前線で"巨人"と呼ばれ恐れられていた男だ。

最前線から帰還した兵たちの中に姿は無く、行方知れずとなっていたはずの人物。

だが不思議なことに除軍扱いにはなっておらず、調べるとその扱いが『任務中』とだけなっていた。

誰のどんな命令で動いていたのかは知らないが、自分に接触して来た所を見ると"薬"の捜索に対する脅迫の一環だろう。ならばすることは変わらない。

徹底的に調べ尽して関係者の全てを白昼の元に引きずり出すだけだ。

「誰か」

「……お目覚めですか?」

「ああ。喉が渇いた」

「はい」

控えていたメイドから水差しで水分を得て、ハーフレンは一息つく。

「どれぐらい寝ていた?」

「はい。お薬で3日ほど」

「そうか」

落ち着いたからこそ自分の状態に目を向ける。

右腕は包帯で固定され、左腕も大差ない。多分顔も腫れているのかズキズキと痛む。

「……フレアは?」

「はい。今朝立ち寄ると王子様の体を拭いてまたお出かけに。最近は朝と夕にいらっしゃるので今日も夕方には」

「そうか」

メイドの言葉に僅かな安堵を得る。

最近の彼女なら、師から譲り受けた武装を掴んで王国軍の鍛錬場に突撃してもおかしくはない。

それともこんな体たらくな自分にそこまでする価値は無いと見限ったか。

「もう少し寝る。フレアが来たら起こしてくれ」

「はい」

メイドの気配が離れるまで目を閉じていたハーフレンは、またゆっくりと瞼を開く。

まただ。また自分は負けた。

ギリッと噛み締めた奥歯が鳴る。だが彼は気にしない。

自分は弱い。その現実が重くのしかかる。

結局自分がこうも弱いから誰一人として救えないのだ。

「情けないな……まったく」

悔しさに涙が滲み止まらない。

間違いなく自分は彼女を護れない。

次代の王を産むこととなるであろう彼女を……自分は護れない。

何故なら弱いから。こんなにも弱いのだから。

息を止めハーフレンは深く考えだす。

深く深く……どうすれば彼女を救えるのかを。

手放すことなど出来ない。それが出来るならこんなにも苦しまない。

ならばどうすれば良い?

このまま彼女を"正室"にすれば……。

と、それに気づいた。正室にすれば間違えなく狙われる。

自分の母親のように狙われ続け、何度も死にそうな目にあうのだ。

「そう言うことか」

ならば簡単だ。彼女を正室にしなければ良い。別の誰かを娶れば良いのだ。

そうすれば少なくとも馬鹿なことを考える者たちは彼女を狙わない。

だが今までの関係から彼女を正室候補から外せば……間違いなく問題になる。

未婚女性をこうも連れ回し、一緒に生活さえしていたのだ。

ここで一度手放してまた戻したとしても……勘ぐる者が必ず出て来る。

「やることは変わらないんだな」

吐き出すように覚悟を決め、ハーフレンは自分の背中をベッドから引き剥がす。

全身に鈍い痛みが走ったが、気にもせずに立ち上がった。

「強くなるしかない。誰もが俺に畏怖する程……強くなって大切な者を護るしかない」

覚悟を口にし、彼はその視線を窓の外へと向ける。

内から湧き出て来る何とも言えない感情に……ハーフレンは熱い息を吐き出した。

だがその目からは感情が失せ、驚くほどに冷たい色を湛えていた。

「何も力だけが強さじゃない。だったら俺は出来る限りの強さを得てこの国一番の恐怖の対象になるまでだ」

それでも力は必要だと理解している。

「どんな手でも使ってやるさ」

一瞬処刑された"彼女"の顔が脳裏によぎった。

きっと彼女もこんな気持ちで戦場で戦い続けていたのだろう。

「見てろカミーラ。これからが俺の本当の戦いだ」

「ん~」

木の枝にぶら下がりそれを見ていたミシュは、何とも言えない目つきになっていた。

上司の元に行きたいのだが、何分相手はこの国の王子だ。

正面から『どうも~』と入って行く訳にもいかず、なら窓を開けて直接乗り込もうかとしたのだが……全身包帯塗れの馬鹿が全裸で立っているのだ。

「殴り合いをして頭の何かが狂ったのかね~」

それにしても上司のあれは中々に立派だ。最低でもあれくらいの者を持っている恋人が欲しい。

と……その事実に気づいて愕然とする。

あれの婚約者は一体いつからあれをあれしてこれしていたのか?

「うわ~無理だわ~」

やはり王子の結婚相手を務めるほどの女性はあっちも特殊なのだろうと頷き、ミシュはとりあえず入手した情報をどうするか真剣に悩む。

届けたいのだがどこぞの馬鹿はまだ立ったままだ。

「あれ?」

目の前の現実にミシュは首を傾げた。

上司がまだ屋敷の自室であんな馬鹿な姿を晒しているのなら……現在王子の名で指示を出している人物は誰なのか?

「つまりコンスーロのオッサンの所に届ければ良いのね」

副官である彼が代役をしているのだと思い至り、ミシュはその場から姿を消した。

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