軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

また醜いものを蹴ってしまった

兵と騎士とでは装備や持つ武器に多少の差が出るが、戦場に出れば大差無い。

土や血肉に汚れながら武器を振るい敵を打つのが仕事だからだ。

しかし戦場を離れれば明確に差が生じる。

綺麗な鎧をまとい馬に騎乗し行進する騎士はやはり騎士なのだ。

それを面白く思わない兵も多い。

前線から帰還し、血の気の多い者は特にその傾向が強かった。

故に前線から帰還した兵と王都の警備をする騎士との間で衝突が発生する。

それは仕方の無いことだと誰もが諦めていた。若干一名を除いて。

「見回りですか」

「そうだ」

近衛副団長に呼び出されたハーフレンはいつも通り彼の言葉を右から左へと聞き流しつつも必要なことだけを拾う作業をしていた。

正直ここまでの小者が副団長を務めているのが良く分からない。

団長の補佐をしていたそうだが、他の補佐が余程無能だったのかもしれない。

自分だったら少なくとも騎士にすらしないが、残念なことに将軍の職まで得ている正規の騎士だ。

祖父の時代は騎士の資格を得るのが簡単だったのだろうか?

「……聞いているのかね?」

「ええ。帰還兵の立ち振る舞いに問題が多いので、見て回れと言うことで宜しいでしょうか?」

「要約するとそう言うことだ。つまり王国軍であっても……」

要約と言う言葉が使えるなら最初から『要約』して説明しろと言いたい。

王子である自分に対して説教染みたことを延々と出来るのを格好良いとか思っているならお門違いだ。

彼に対する部下たちの評価はとにかく低い。笑えるほどに低い。

国王である父親から密偵の長と言う地位を引き継ぎ、回される情報の多さに辟辟するが、個人の趣味嗜好に至るまで全ての話を垣間見れるのは恐ろしくもあり愉快だ。

目の前の小物……ゾング・フォン・ロイールはその代表例だろう。

家は上級貴族であるが裕福で無く、彼の出世のお陰でどうにか食い繋いでいる状況だ。

故に両親も彼に逆らうことは出来ず、言われるがままに都合の良い女を嫁として嫁がせた。

嫁との間には2人の子供が居るが、夫婦間が冷え切った関係で生じた子供など『我が子かどうかを疑え』と言う典型的な例だ。嫁と愛人の子供を彼は育てている。

その子供もこれまた自由奔放らしく、夜な夜な若い貴族の令嬢や子息たちの集まりに顔を出しては良からぬ遊びを繰り広げているらしい。結婚前に妊娠しなければ良いが。

「……近衛として恥ずかしくない立ち振る舞いで見回って欲しい」

「はっ。謹んでお受けします」

長々と続いた演説から解放されてハーフレンは副団長の執務室から出た。

近衛は近衛と言う名称であって……どうしてその組織の長が『団長』なのだろうか? もしかしたら昔は『近衛団』と言う名称だったのか?

今度フレアにあったら聞こうと思いつつ、彼は副団長の長い言葉で切り替わっていた思考の配線を元に戻した。

「お~お~。何かあれだね。飢えた狼ばかりだね」

「前線帰りは皆あんな感じだ」

「それでも故郷に帰って農仕事をしている人も居るんだからやっぱり心の持ちようじゃないの?」

ケラケラと笑うミシュの言葉は最もだった。

今日はメイド長の所からミシュを借り受け、ハーフレンは前線から戻って来た王国軍の待機所に来ていた。

野良犬を借りて来たのは、調教師の元で鍛えられた嗅覚の確認の意味もある。

「こんな可憐な私なんてちょっと目を離した隙に大惨事だよ」

「……兵の方がな」

「その意味を詳しく聞こうか? この糞王子」

全身から危ない気配を発する少女に、戦場馴れした兵たちが危険を感じて背を向ける。

「そう言う所だと思うぞ?」

「あれ~? みんな戦争で疲れて感覚が狂ってるだけよ~」

可愛らしく演じてみせるが……逆に恐ろしく見えて増々少女から視線が離れる。

「……襲ってねじ切ってやろうか?」

「そのスィーク的な発想は止めろ」

一応軽く見て回るが、問題になるほど行動をしている者たちは見つけられない。

酒を飲んで軽く暴れるなど普通のことだから見なかったことにする。

口論が発展して殴り合いになっているが、鍛練の一環だと思って見なかったことにする。

上半身裸で体を拭いている者が居るが、あれは女性などが不快に思うかもしれないから止めさせよう。不快に思わないで飛びかかりそうな駄犬だっているんだ。とにかく危ない。

『食わせろ~!』と意味不明な言葉を発する問題児を脇に抱え、ハーフレンの見回りは続く。

問題は彼が基本仕事に対しては……おおらかと言うか、おおざっぱな性格になる為このような職務には向いていないと言うことだった。

何より感情の死んでしまった兵たちの顔を見ていると暴れたくなる理由の一つも分かる。

彼らはただ命じられて戦っただけなのだ。

それを終えてようやく帰って来れば……感情の持って行く先など何処にもない。

彼らは戦場に置いて来てしまったのだ。『生きる理由』を。

「おう兄ちゃんよ」

「ん?」

「女抱えてどこ行こうって言うんだ? ああ? あっ……女か?」

「おいこら待て。私のどこを見て悩んだか言ってみろい!」

また怒りだし暴れるミシュを、ハーフレンは迷わず話しかけて来た男に放り投げる。

確認するなら直接触って撫で回した方が早いかと思っての行為だったが、自由を得た駄犬は迷うことなく男の股間を蹴って着地した。

「また醜いものを蹴ってしまった」

「お前基本殴りだろう?」

「え~。私だって殴る相手ぐらい選ぶし~」

脂汗を流して蹲る男に一瞥をくれ、ミシュは駆け足で戻って来る。

お約束のように男の仲間たちが立ち上がって……ハーフレンを囲うのだった。

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