作品タイトル不明
お前基本白だろう?
最近は事務仕事ばかりで目を回しながら机に嚙り付く日々のハーフレンが、今日は早々に仕事を終わらせて帰宅するという偉業を成し遂げた。
らしく無いほど真剣に書類と向き合い、まるで仕事をすることで気を紛らわしているような……そんな素振りにすら見えた。
城を出て馬を自身が住む貴族たちの区域へと向ける。
一応護衛と言うか、供としてコンスーロが一緒だ。
本来なら騎士は貴人の護衛を務めるので、騎士に護衛が付くのはおかしいのだが……従者である彼はその問いに笑ってこう答える。『たまたま帰る方向が一緒なだけです』と。
「なあコンスーロ」
「はい?」
「……お前って結婚してたっけ?」
「何度か話は来てましたが断りました」
「どうして?」
軽く頭を掻いた彼は渋々答えることにした。
「自分は孤児で、家庭と言う物を知らないんですよ。だから見知らぬそれが怖いんです」
「怖いか」
「ええ。恐ろしくて……持ちたくない。それに独身なら好きな時に女を買って遊べますしな」
「そう言う考えもあるな」
『あはは……』と力無く笑う主人がいつも以上に小さく見える。ある意味年相応の少年のようにだ。
「お城の方で何かあったのですか?」
「特には無いな。いい加減フレアの顔でも見に行こうかと……ただ最近のあれは『好きにしても良い』と言ったらその言葉を自分の都合の良いように捕らえてな。本当に好き勝手してくる」
「まあ年頃の女の子ですからね。それに今までずっと本当の自分を押し殺していたのでしょう」
「本当の……自分か」
軽く顔を上げてハーフレンは空を見上げる。
本当の自分とは……そう問いかけても自分自身から答えなど出て来ない。
ただこの国を護り、家族を護ると誓ったのに……そのどれもが達成できずにいる。
母親はまた傷つき死に掛けた。フレアも傷ついて死に掛けた。
自分だけはのうのうと生き残り平穏無事に生きている。全てを護ると誓ったくせにだ。
「本当にどうかしたんですか?」
心配して来る相手に、ハーフレンは今日の書類仕事で発見した一文を思い出していた。
ズキリと胸の奥が痛んだが、ゆっくりと口を開く。
「……カミーラの処刑が執り行われたそうだ」
「そうでしたか」
クロストパージュ領からの付き合いである彼は、その意味を理解してくれた。
あの男勝りの少女は、『全てを護る』と宣言して兵となった。
前線の地獄を体験し続け、最後は移動の為に訪れていた王都で狂って暴れ回ったのだ。
「ハーフレン様。酷い言葉でしょうが……彼女のことはもうお忘れください。あのような咎人と懇意にしていたと他の貴族に知られれば」
「分かっている。今後一切口にしないさ」
立場が思い出にすら封を促す。
そんな馬鹿げたことに苦笑しながら、ハーフレンは馬を歩かせた。
「まだダメです!」
ベッドの上でこんもりと毛布の山が出来た。
たぶんメイドに来客したことを告げさせたら追い返されそうな気がしたから、ハーフレンはメイドの制止を振り切って勝手知ったる廊下を進んで彼女の部屋に突撃したのだ。
丁度着替え中だったらしい少女は……全身を真っ赤にしてベッドに逃げ込んだ。
「だいぶ戻ってたじゃないか?」
「ダメです。まだ腕とか足とか……何より顔とか」
「構うものか。少し見せてみろ?」
「いやぁ~! 捲るなっ!」
ちょっと前のフレアだったら絶対に見せない反応に、ハーフレンはいたたまれない気持ちになる。
もしこれが本来の彼女だったらと思うと……自分はフレアと言う少女にどれほどの無理を強いて来たのかと知らしめられ、罪悪感で胸が苦しくなるのだ。
「もう止めて下さいハーフレン様っ!」
「……ハフ兄様と呼んでくれないんだな?」
毛布の隙間から目元だけ出して抵抗する彼女にハーフレンがそう問いかける。
クルッとした目が彼を見た。
「だってわたしはもう貴方の正室候補ですから。いつまでも妹では要られません」
「そうか。お兄ちゃんは悲しいな。妹が相手だったらこんな酷いことはしないんだが」
「捲らないで~! そっちはダメです!」
「……無いな」
捲った先に見えた物の感想を素直に口にする。
と、毛布の山が激しく震えだした。
「今は痩せてちょっと無くなってるだけです! もう少しすれば大きくなります!」
「お前が大きかったことなど」
「なります! なりますから! ってそっちもダメ! 今日の下着は可愛くないんです!」
「お前基本白だろう?」
「言ってはいけないことを~!」
ジタバタと暴れるフレアをからかい続けて、ハーフレンは毛布の上から少女を抱きしめた。
「なあフレア」
「……はい」
「今日だけお兄ちゃんと呼んでくれないか?」
「……捲らないなら良いですよ」
「なら捲らない」
また毛布の隙間から目元だけを出し、フレアは"兄"を見た。
「ハフ兄様」
「……もう一回」
「ハフ兄様」
「……」
ギュッと少女を抱き寄せハーフレンは考える。
考えたくなかったことを、それを考えなければいけないからだ。
大切で大好きなこの存在を自分の正室にしてしまって良いのか?
自分の母親は二人の王子を生んでしまったが為に二度も命を狙われて死に掛けた。今だって奇跡的にどうにか生きている状態だ。
そんな重荷をこの子に背負わせて本当に良いのか?
「ハフ兄様?」
「ん?」
「フレアは……兄様のことが大好きです」
「ありがとうフレア」
失いたくない。
でもこのまま彼女を自分の傍に置いておけばいずれ……答えの出ない袋小路に嵌ったハーフレンはもがき苦しむことしか出来ない。
彼は結論を保留するしか無かった。
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