軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

全てを失うことになったとしても?

「それでお前たちは王都に戻って来たのだな」

「はい。数名の供を連れて急いで」

「だが"あれ"が暴れていると聞いて向かった」

「はい」

バローズの言葉にハーフレンは頷き返す。

彼はゆっくりとあの時のことを思い出した。

帝国の襲撃があったことを王都に伝えなければいけない。

ハーフレンはコンスーロに隊を預け、砦への移動を命じた。

自身は数名の部下とミシュエラ、それにフレアを抱いて強行軍で王都へと戻ったのだ。

王都は王都で悲惨な状況であり、何よりまだ暴れている者が居ると報告を受けた。

ハーフレンは事情を理解出来ないままに……指揮する者を失った王国軍の小隊を連れ、彼らが逃げ出した場所へと向かったのだった。

そこは王都の外れにあるちょっとした林だった。

『こんな場所に誰が?』と思いながら兵を進めると……ハーフレンは見た。

世界が全て腐っていたのだ。

悲惨な様子に目覚めたフレアが狂ったように騒いだ。

『先生が居る! ここに先生が居る!』と。

本当に彼女は居た。静かに佇むように……術式の魔女アイルローゼが。

それから約半日、最後は数名の部下を盾に使い特攻したミシュエラの一撃によって魔女は無力化された。

半日もの間、師であるアイルローゼの魔法に対抗したフレアは、魔力切れでまた卒倒した。

3日後目覚めた彼女は……深く精神を病んでいた。

「そんなことがあったか」

「はい」

「報告は無かったな」

「アイルローゼのことは伏せてありましたから」

「そうか」

バローズは何度も頷いてその視線を寝かされている少女に向ける。

まだ数えで10の少女が体験するには、酷い話ばかりだった。

「それで王子は私に……手紙の通りか?」

「はい」

「ふむ。だがこれは禁呪に等しい物だぞ? 下手をすれば彼女は魔法を使えなくなるやもしれん」

「構いません。自分は魔法使いとしての彼女が必要なのではない」

「ならば何としての彼女が必要だと?」

「……愛し護るべき存在として必要なのです」

はっきりと言い切る彼に、幼さと若さを見た。

だが彼とてまだ数えで13だ。この国はやはり教育を軽んじていたのかもしれない。

心を育てることを忘れているのだと、バローズは痛感させられる。

「愛していると?」

「はい」

「護りたいと?」

「はい」

「……全てを失うことになったとしても?」

「構いません。彼女の為なら王子と言う地位も要らない」

「そうか」

どんなに幼くても、どんなに若くても……男が決めたことだ。

それをとやかく言うのはユニバンスの男性としては面白くない。

「分かった。私の禁呪をその子に使おう」

「……お願いします」

「ならば準備を始める。手を貸せ王子よ」

「はい」

指示されるままにハーフレンはフレアを机の上に置いた。

着ている物全てを脱がせるように指示され、迷うことなく衣服を剥ぐ。

そのやせ細った裸体から目を背けたくなったが……我慢して準備を進める。

「この手の魔法を使う時は衣服などが邪魔になることがある」

「はい」

「それに婚約者の裸など見慣れているだろう?」

「……」

そう言う問題では無いと言いたかったが、相手が笑っている様子から自分がどんな表情をしているのかを察した。

パンと両手で顔を叩いて気持ちを入れ替える。

「良いか? どんな結末になるのか使う私でも分からん」

「はい」

「ならば始めよう」

静かな声が紡がれ……ゆっくりと辺りが光り出す。

バローズ・フォン・クロストパージュが使いこなす精神干渉魔法。

その禁呪がフレアに施された。

「事前に言ったが、追加で注意を何点かしておこう」

使用したプレートを手に取り箱に収めながら、バローズは少女に服を着せる王子に視線を向ける。

幼馴染とは聞いていたが、余りにも手慣れている様子に……甥夫婦が王子にどんなことをやらせていたのか少しだけ不安になった。

「まずフレアは数日の間、眠り続けるだろう。

目覚めてから彼女の状態を確認しろ。1番最悪なのは精神の崩壊だが……それを起こすのは一定の感情を強制的に強める為に魔法を用いた時が多い。今回フレアに用いたのはそれに近い魔法だ」

箱を棚に収め、彼はハーフレンと向き合うようにソファーに座る。

「流石に一族の者を相手に使う魔法だ。力任せに酷いことはしていないが……それでも人の精神とはどう反応するのか分からない。精神干渉の魔法が禁呪扱いとなる 所以(ゆえん) だ」

「……ちゃんと目覚めるのですね?」

「それは保証しよう。だが精神が崩壊してしまっていたら……精神が永遠に幼子のままになるとかもあり得る」

「大丈夫です」

そっとハーフレンはフレアの頭を撫でた。

「この子が生きてさえいてくれれば、それだけで良い」

「そうか」

優しい兄のような王子の様子にバローズも優しく笑う。

「もう1つは壊れずに魔法が期待通りの効果を発した時だ」

「何か問題でも?」

「ああ。こればかりはその子の成長を信じるしかないが……精神は本当にどんな可能性を秘めているのか分からない。故に元に戻ることもあり得る」

思いもしない言葉にハーフレンは息を飲んだ。

「なら……フレアはまたこの状態に?」

「可能性はある。下手をすればもっと悪くなることも十分に考えられる」

事前に説明しなかったのは、告げた所で目の前の王子は『やって下さい』と言うに決まっているとバローズは確信していたからだ。

「それまでにフレアをどう育てるのかは貴方次第だ。強くも弱くも……貴方の考えでその子は育つだろう」

「……分かりました」

その後軽い雑談を済ませ、ハーフレンはバローズの家を後にした。

ここに来ること自体秘密にしていたのだ。それを理解しているバローズとて何も言わない。

若い2人の未来に幸あることを祈り見送った。

「もう着いて居るだろうか?」

3日後……バローズは自宅で寛ぎながら王都に戻った2人のことを思っていた。

国王の許しを得ていたとはいえ、死刑囚相手に腕を磨いた禁呪が少しでも役に立ったのなら嬉しい。

だがやはりこの魔法は"禁呪"として封印すべきだろうと思っていた。

ゴンゴンッ

扉を叩く音に……彼はしばらく気づかなかった。

否、こんな辺鄙な場所に来る者が居ること自体想定していない。

例外が最近訪れたが、それとて例外であり続く訳が無いはずだ。もし来客者が多いのなら、もっと辺鄙な場所に引っ越して静かに暮らしたいと思いつつ彼は立ち上がった。

「……これは」

「久しいなバローズ」

「ウイルアム様」

扉を開けた先に居たのは、家族の大半を失い全てを譲った王弟だった。

驚きながらもバローズは彼を自宅へと招き入れる。

「なに用ですかな?」

「ああ。お前に頼みたいことがある」

「私に、ですか?」

全てを譲った彼が何を求めるのか……バローズは気になって仕方がない。

だが彼は、この好奇心を後々になるまで後悔することとなった。

「ああ」

ゆっくりとウイルアムは頷きバローズを見る。

「私は……この世界から争いを無くしたいと考えている。真剣にな」

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