軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

そういう馬鹿だ

「戻って来たかハーフレン」

「おう。土産は領地だけだが、それで良いか?」

「悪くは無いが問題だらけだな」

隠居して前王となったウイルモットは、ソファーに腰かけ紅茶を啜っている。

執務室の椅子に腰かけて居る現王たる兄は、山のような書類を相手に手を止められない。

新年の儀式で訪れた各国要人からの祝いの言葉に対する返礼作業。基本的な文章は文官が書いているが、内容を確認しサインを入れるのは王の仕事だ。

流れるようにペンを走らせる兄の姿は、前王よりも真面目で救われるが。

「それであの領地はどうなった?」

「帝国以外は認めた。キシャーラを領主とし、しばらくはユニバンス王国領だ」

「左様で」

軽い足取りで父親と向かい合うようにソファーに座り、ハーフレンも待機しているメイドに紅茶を頼む。

「で、問題だ」

「もうか?」

呆れる息子に父親は『ほっほっほっ』と笑う。

「あの辺りは元々アルーツ王国があった。覚えているか?」

「確か……うちに攻めて背後から帝国に狩られた国だろう?」

「その通りだ。降伏し王族たちは帝国の帝都で飼殺されているはずなのだが、その国の姫が捕らわれることなく逃げ出し、現在は共和国に居る」

「本物かよ?」

「残念なことにな」

共和国が言い出しそうなことなど決まっている。

『領主キシャーラと亡国の姫とのが婚姻をし、アルーツ王国の再興をするべきである』と。

やれやれとため息を吐く父親にハーフレンも頭を掻く。

「今は良いとして後々に厄介だな」

共和国の言い分に非はない。他国もそれを認めるだろう。

しばらくは問題無いが、仮に子が生まれキシャーラが亡くなれば問題が起こることこの上なしだ。

ズズッと紅茶を啜るウイルモットがゆっくりと口を開いた。

「その頃には儂も天寿を全うしているだろう。頑張れ息子たちよ」

「……丸投げだな?」

「アルグスタにも同じようなことばかり言われたな」

『カカカ』と笑い彼はまたメイドに紅茶を求める。

「で、そのアルグは?」

「この国の火薬庫を引き連れて温泉に行っておる」

「アイツも十分に火薬だがな」

苦笑してハーフレンは椅子に座り直す。

「丁度良い。あれが居ないから問おう。あれは本当に俺たちの"家族"と思って良いのか?」

「……難しい質問だな」

腕を組んで背もたれに背を預けるウイルモットも判断に困る。

自身の判断ではアルグスタに野心の欠片も無い。妻だけを愛して邪魔をするならば容赦しない。事務能力の高さは文官の中でも上位に入り、何より小さいながらも人望を得ている。

持っている空気が独特で誰とも気兼ねなく話し出せるのは才能としか言えない。

「あれは敵では無い」

「兄貴?」

トントンと書類を束ね整える王が、ゆっくりと視線を弟に向けた。

「我々が敵と認識しない限り、無条件で味方だ」

「……」

「敵と味方の2つに分けるなら、アルグスタは我々が敵にならない限りは最も信用の出来る味方だ」

束ねた書類を机に置いて、シュニットは頬杖を組んで顎を乗せた。

「判断を誤るな。アルグスタは味方であり我々の家族だ。故に裏切らない」

「兄貴はそう言い切るんだな?」

「ああ。お前とて似たような判断であろう?」

「どうだかな」

鼻で笑ってハーフレンはソファーに寄りかかる。

と、そこで彼は今日やらなければいけない最重要のことを口にする覚悟を決めた。

「親父」

「ん?」

「今度ケインズの小父さんに会いたいんだが」

言って彼はチラリと父親を見る。

紅茶を啜る彼は微かに動きを止めたが、何事も無かった様子で動き出した。

「儂に聞くな」

「親父の親友だろう?」

「だが今年からは宮廷魔術師じゃ」

言われてハーフレンは兄に目を向けた。

「ケインズ・フォン・クロストパージュは今年より王城勤めとなる」

「へ~。あの現場至上主義がようやく隠居か」

「その通りだ。それでようやく宮廷魔術師の地位を引き受けてくれた」

「それは良かった」

「何が良いのかは分からないが、準備を終え次第クロストパージュの王都屋敷で過ごすこととなるだろう」

言ってシュニットはまた新しく書類に手を伸ばす。

「のうハーフレン」

「はい?」

「お主が妾を下賜したと聞いたが?」

紅茶を啜る手を止めて父親が息子を見ていた。

何処か優し気な眼差しだが、昔と違いその目に籠る力は弱い。

「する、ですよ。まだ褒美が整っていない」

「……それとケインズと会うことは関係しているのか?」

老いても名君と謳われ激動の20年を乗り越えて見せた王だ。その頭は決して衰えていない。

頭を掻いてハーフレンは自分を見ている父親と兄の視線に応えることにした。

「フレアを側室にする。それだけだ」

「「……」」

思いもしない発言に流石の2人も動きを凍らせた。

「本気かハーフレン?」

「ああ」

先に氷解した兄が問うて来る。

「フレアを側室にすると言うことは、お前は貴族からの評価を落とすかもしれないんだぞ?」

「それがどうした?」

本気らしい弟に兄は口を閉じた。

強すぎる意志に気圧されたと言っても良い。

「ならばお主は何故今となってフレアを側室にするなどと言い出す? 一度はお主が正室候補から外した女をだ」

シュニットとは違いウイルモットは歴戦の雄だ。息子の遺志に気圧されるほど柔な心を持っていない。

ジロリと睨みつけて来る父親の目を彼は正面から睨み返した。

「俺は親父のようになりたくなかった。したくなかった。ただ……それだけだ」

「……」

理解した。理解出来てしまった。

それが仮に息子の本心で無いとしても、自身を『愚か者』と蔑む父親には痛いほどに。

ウイルモットは何とも言えない気持ちを胸の中に広げ……深く深く息を吐いた。

つまりは全て自分が悪かったのだ。

国を護ることは出来た。だが結果として多くの物を失った。

人の命も、幼き希望も、子供の心もだ。

「……お前が自身でどうにかすると言うなら好きにするが良い」

「ああ。親父や兄貴に迷惑は掛かるだろうが全部俺が責任をとる」

「そうか」

今一度深く息を吐いて……ウイルモットは今回の件で自身が息子の助けにならないと気付いた。

「もしお前が困ったのであれば、ハーフレンよ」

「……」

「アルグスタを頼るが良い」

背もたれに寄りかかりウイルモットは寂しげに笑った。

「あれは苦しむ家族を決して見捨てん。そういう馬鹿だ」

(c) 2019 甲斐八雲