軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ボクが先生の傷を治す

ユニバンス魔法学院の最深部にその研究室はある。

学院内では『困ったことが起きたらそこに行け』と言われるほどの天才が住まう場所だ。

室長の気紛れで作られる芸術的な術式のプレートはどれも素晴らしく、生活に適した物ですら高値が付く。

自国の貴族以外にも他国の王侯貴族がこぞって購入を求め、依頼書と多額の寄付金が届くのだ。

急遽研究室の入り口付近に置かれた籠を見つめていたアイルローゼはため息を吐いた。

依頼書などは正直、右から左へ流れるようにゴミ箱へ向かう。寄付金だけが山と積まれているのだ。

「ねえフレア?」

「はい」

いつもの課題……魔法語の書き写しをサラッと終わらせて、魔法書を読んでいたフレアは師の言葉に顔を上げる。いつも座っている椅子に腰を落ち着かせ頬杖をついている彼女は、はっきりと分かるくらいに飽きた様子を醸し出していた。

「私は思うの」

「何がでしょうか?」

「寄付金と一緒にプラチナのプレートも送って欲しいのだけれども?」

「……」

「何よその顔は? 書き写しの追加する?」

どんな顔をしていたのか分からずキョトンとした表情に変わったフレアはあっさりと応じる。

「別に構いませんけど?」

「他の2人を見習って嫌がりなさいよ」

アイルローゼに押し付けられた弟子の中で、魔法語の正確な書き写しや発声など、基本中の基礎となることに秀でているのがフレアだ。

あとの2人は未だに師からダメ出しを受けているが、それでも他の魔法使いに比べれば数倍の基礎能力を身に付けている。

ただ師が偉大すぎるせいで、弟子たちの成長は全く目立たないが。

「でもプレートは戦時中に大量消費して、現在も高騰したままですし」

「今も戦時中よ。前線では今日も殺し合いをしているわ」

ガタッ

「申し訳ございません」

吐き出すように告げた師の言葉に激しく動揺した弟子の1人ソフィーアが書き写していた紙を汚したらしく、畳んでゴミ箱へ放り込んだ。

アイルローゼは一瞬弟子に視線を向けたが、特に追及することも無くフレアとの会話に戻る。

「確かに私も人を殺す術式をプレートに刻むわよ? でも魔法の本質って別にあるのだと思うの」

「別にですか?」

「そうよ」

立てた指をクルクルと回してアイルローゼは……口を閉じた。

「誰か来たわ」

「先生?」

話を誤魔化したのかとフレアは思ったが、ガタッとドアが開いて騒がしい人が入って来た。

「アイルローって!」

「私の名前を変えないでくれるかしら?」

「なら言ってる途中に本を投げるな!」

相変わらず今日も元気な『医者』ことキルイーツだった。

ただ彼が来ると師の機嫌が少しだけ良くなるので、フレア的にはたまに来て欲しい人物である。

だが今日の彼は何と言うかいつもと違い少し静かだ。

普段なら外から師の名前を連呼して入って来る彼が、ドアを開けてから呼ぶなど本当に珍しい。

「それで用件は何?」

「うむ。我も弟子を取ったぞ!」

「それはとても可哀想ね。その弟子の魔法使いとしての将来は潰えたわね」

「……我をどう思っているんだ? お前は?」

「覗き魔」

「……」

師の発言を無かったかのようにキルイーツは部屋の外に顔を向けた。

「リグよ。入って来い」

「……」

ドア越しに顔をひょこっと出して室内を覗き込んで来たのは、金色の髪と日焼けした肌が特徴の少女だった。

「フレア大変よ」

「はい?」

「至急衛兵を呼んで来て。変態が幼子を囲ったわ」

「ちょっと待てアイルローゼよ。お前は一体っ」

「覗き魔」

一言で医者の口を沈黙させ、アイルローゼは椅子から立ち上がると廊下に居る少女を出迎えるよう歩み寄った。

「入ってらっしゃい。お姉さんにお名前を教えて欲しいのだけど?」

「……リグ」

トコトコと歩いて来た少女の瞳は黄色で、その肌の色を見たフレアは少女が『異国の子』だと直感した。

「リグって言うのね?」

「うん。ボクの名前はリグ・イーツン・フーラー」

「珍しい名前ね」

「うん。帝国に攻められたミジュリーではこれが普通」

「そうなのね」

優しく少女の頭を撫でてアイルローゼが少女の手を引いて自分の机に向かう。

と、何か言いたげにしている医者に厳しい視線を向けたと同時に彼女が魔法を使った。

鮮やかで決して誰もが真似できない芸術的な束縛魔法だ。

「ではリグ」

「はい?」

「普段貴女の先生に何をされているか正直に言いなさい。大丈夫よ。この部屋には貴女の味方しか居ないから」

「……」

現状を把握……出来る訳ない少女は小首を傾げて師である医者を見る。

不可視の縄で拘束されている先生は黙したままだ。口まで拘束されて彼は口を開けないだけだが。

「ボクは先生の手伝いをしているだけです」

「どんなお手伝い?」

「魔法の……治療魔法です」

優しげな表情で質問して来るアイルローゼと呼ばれた相手が悪い人には見えないので、リグは素直に返事を返す。

「どんなお手伝い? 傷つけられて治療されるとか?」

「違う。ボクが先生の傷を治す」

「貴女が?」

「うん」

何処か泣きそうな表情でリグは小さく頷いた。

「ボクはミジュリーで作られた治療魔法を宿してるから」

「宿している?」

「うん。だから先生はボクを毎日裸にして見ているんだ」

「……そう」

とても冷たい空気を感じ、フレアは内心恐怖におののきながら師を見た。

産まれて初めて笑顔を見て怖いと思った。

「……変態。選ばせてあげるわ」

ニッコリと笑いながら、アイルローゼはその目を拘束されて冷や汗を流し続ける彼に向けた。

「死に方はどれが良いかしら?」

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