軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

何もかも絶対に護り通すんだ

急の用事が生じたと告げ、ケインズは僅かな部下を伴い途中で別れた。

ハーフレンたちは急いで目的地に向かう必要も無いので、隊列の後に続く商人たちが苦にならない速度で一路王都を目指し進む。

のんびりとした馬車の旅。

領地の屋敷と小規模な商店しか知らないフレアにはちょうど良い速度だ。

それでも馬車は目的地に向かう。

遂に進行方向にそれが姿を現し……少女の目は大きく開かれた。

「うわ~。ハフ兄様っ」

「落ち着けフレア」

「はいっ……うわ~」

馬車に揺られ辿り着いた場所……ユニバンス王国王都ユニバンス。

小国と呼ばれるユニバンスでも王都ともなればその規模は大きく立派な物だ。

父親の領地しか知らないフレアにとって目に映る全てが新鮮でありピカピカに輝く宝石に見える。

爛々と目を輝かせて窓の外を見る"妹"の背後からハーフレンも街を見る。

もうだいぶ朧げな記憶に残っているのは、やはり尖塔を抱く王城の姿だ。

先祖が築き、代々の王が増改築を重ねた城は派手さは無いがどっしりと構えそびえ立つ。

「帰って来たんだな……」

「……」

兄の呟く声に反応してフレアはそっと彼を見る。

キュッと胸が痛くなって……少女は甘えるように抱き付いた。

「ハフ兄様」

「何だい?」

「フレアは甘い物が食べてみたいです」

「そうだな」

言って彼は少女の頭を撫でる。

東部に暮らすフレアの領地は小麦の産地ではあるが、それは食料となり国の隅々に売られて行く。

よって自領地で『お菓子』などは余り作られず、届けられるお菓子はどれも王都産の日持ちの良い焼き菓子ばかりだ。

ボソボソとしたビスケットが最高の贅沢品……それを知るハーフレンは、馬車の窓を開けて並走する騎馬に声を掛けた。

「コンスーロ」

「はい若様」

「済まないが、フレアに甘いお菓子を買って来てくれないか?」

「承知しました」

軽く会釈をして騎馬が離れて行く。

彼はハーフレンが従者としてケインズから譲り受けた人物だ。

クロストパージュ家の屋敷で警護を務めていた人物であり、カミーラが居なくなってからハーフレンの鍛錬相手を務めていた。一般の出だが剣も魔法も扱えるクロストパージュ家の魔戦士の1人だ。

魔戦士とは、クロストパージュ家が採用している魔法を使える兵士か剣を扱える魔法使いの総称である。どちらも同じに聞こえるが秀でた物が異なる分、戦場での戦い方に変化が出る。故に敵対する敵兵はどちらの攻撃を警戒すべきか判断を鈍らせ……次から次へと討ち取られて行くのだ。

「フレア。少し待ってな」

「はいっ」

満面の笑みを浮かべて少女は兄に寄りかかり甘える。

子供の頃から大切にして来た少女を慈しみ……ハーフレンもまた少女を緩く抱き締めた。

「落ち着いたら2人で王都を見て回ろうな」

「でしたらフレアは、ご本をいっぱい見たいです!」

「……それで良いのか?」

「はいっ」

キラキラと目を輝かせている妹に一抹の不安を覚える。

うっすら覚えている従姉の目もこんな風だった気がする。

正直本を読むことに抵抗のあるハーフレンからすると、活字だらけのあんな物に興味など湧かない。だったら剣を握って振り回したり、馬に乗って駆けたりする方が良い。

と、馬車の周りが騒がしくなった。

過去の経験からハーフレンはフレアを抱き締め窓の外を伺う。

遠くに土煙が上がっている。それが迫って来る様子から陸上型のドラゴンだろう。

「ハーフレン様」

「追い払えるか?」

「いいえ」

近づいて来た警護の騎士に声を掛けると、彼は顔を左右に振った。

「数は1体。討ち取って御覧に入れましょう」

力強く断言し、兵を連れて駆け出して行く。

剣戟と閃光が発生し……怯えて震えるフレアが落ち着いた頃には騎士も戻って来た。

「被害は?」

「怪我人が少々。ですがドラゴンは無事に討ち取りました」

「そうか。ご苦労」

騎士を労い、魔戦士の強さにハーフレンは何とも言えない気持ちになる。

あの日今居る魔戦士たちが居てくれれば……母親の運命は変わっていたのかもしれない。

そう思うといたたまれない気持ちに胸が焼ける。

ベチッと小さな手が頬に触れた。

ハーフレンが視線を向けると、何故か泣いているフレアが居た。

「もう大丈夫だぞ。フレア」

だが少女は静かに頭を振ると、どこか……何かを拭くように手を動かす。

ハーフレンも自分の指で頬を触れ気づいた。涙が知らぬ間にこぼれていたのだ。

「ありがとうフレア。もう大丈夫だ」

「はい」

そっと幼い少女を抱きしめて……ハーフレンは息を着いた。

自分が思っていたよりもあの時の出来事は心の中に根付いているのだ。

それを噛み締めて……もう一度少女を抱きしめる。

可愛くて優しくて大切な存在だ。

この子が母親のような目に遭うなんてことは絶対に許せない。

「大丈夫、フレア」

「はい」

(フレアのことは絶対に護る。母さんも父さんも……何もかも絶対に護り通すんだ)

心の中に強くそれを誓い、ハーフレンたちはドラゴン退治をやってのけたとは思えないほど平然と王都への入城審査の為の列へと馬車で並んだ。

そして順番となり……入城審査の確認をする兵が『王子を待たせる』と言う前代未聞の失態に泡を吹くこととなる。

ハーフレンはある意味忘れていた。自分がこの国の王子であることを。

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