軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

大丈夫だ。俺が居る

『その影が貴女の心の闇にならなければ良いのだけれど……使いたいのなら持って行っても良いわよ』

クスリと笑い天才と呼ばれる"少女"は、自分と変わらない年齢の弟子を見つめる。

『でも気を付けなさい。それには試作品を封じてあるの。だからこそ貴女にあげるのだけれどもね』

天才と称された彼女は、最高峰と呼ばれた術式武装……『影』を弟子に譲った。

自分が使わなくなった玩具を譲る感覚で、だ。

不意にそれは生じた。

影に触れた石が……腐り分解したのだ。

現象を目撃したフレアは目を瞠った。

生じた現象の正体を知っていたからだ。

トントンと地面を蹴って突き進んで来た白い影……フレアは自分に向けられた無表情の少女の目を見て、更に衝撃を覚えた。

赤い瞳が……亡き恩師、アイルローゼのモノに見えたからだ。

だが現れたのは"術式の魔女"と呼ばれた本物の化け物では無く、大陸屈指のドラゴンスレイヤーだ。

白銀の髪を後ろへと流し矢のように走るその姿に迷いはない。

帝国の大女の顔を踏み台にして空中に舞ったノイエは、大きく振りかぶった右の拳をドラゴンの横顔に向けて放った。

バキッ!

大きく割れる音が響き、ドラゴンがよろめいて真横に倒れ込む。

しかしノイエは追い打ちをかけずに後方に飛んだ。

右手を押さえ……地面に着陸すると同時に地面に両膝を着いた。

「相打ちか!」

彼の声に正気に戻ったフレアは軽く頭を振る。

気が動転して色々と見間違えたのだろうと自分に言い聞かせた。

アイルローゼは死んだのだ。あの規格外の化け物はもう居ない。

きっとドラゴンが吐き出した石は、隊長であるノイエが割ったのだろうと……自分に言い訳を重ねる。

信じたくなかった。

間違ってもノイエがあの魔法を使えるなんてことがあってはならない。

あれは本当の意味で危険な魔法なのだから。

「フレア! ノイエを」

「はい」

自身はオーガの元に向かっている彼の声を聴き、フレアは急いでノイエの元に向かう。

「大丈夫ですか!」

「……砕けた」

「えっ?」

「手が」

蹲っているノイエが庇っている左手を退かす。それを見たフレアは息を飲んだ。

皮膚を破って顔を覗かせている白い物は彼女の手の骨だろう。出血が少ないのは祝福のお陰か。

「ハーフレン! 右手をやられてるわ!」

「だろうな」

左手でオーガを掴み引き摺って来る彼は、分かっている様子だった。

「だがあっちも流石に効いたらしい。今のうちに立て直すぞ」

地面に伸びているドラゴンを一瞥して、ハーフレンは足を止めない。

「ケツが削れるよ!」

「トリスシアっ!」

「煩いねっ! 今は戦闘中さっ!」

影のように寄り添って来る大将軍の部下も加わり、ハーフレンたちは急ぎ状況を確認する。

「ミシュっ!」

「何か酷くない? 呼びに行ったら向こうからっ」

「どうでも良い! 食料を集めろ!」

「はいな」

戻って来たミシュが消える。

「ルッテ」

「は~い」

「お前の菓子をこっちに投げろ」

「ぇえ~っ!」

「後でアルグに言って好きなだけ食わせてやる!」

瓦礫に挟まっているルッテが腰から袋を外して投げて来た。

ハーフレンはそれを掴むとノイエに押しつける。

「ノイエは治療がある程度終らないと動けない。つまり現状ドラゴンと戦えるのはオーガだけだ。やれるか?」

「……はんっ! やってやるから羊の丸焼きでも持って来な」

「今は無いから終わったら食わせてやる」

「子羊だからね」

軽口を叩いて立ち上がったトリスシアだが、ダメージの蓄積が多いのか……大きく体を左右に震わせる。

手にしている大剣を手放し、瓦礫の中から鉄骨を掴んで引きずり出した。

「帝国と違って建物の骨格に鉄骨を使ってるよ。本当にこの国は恐ろしいさね」

「砦くらいでしか流石に使わんよ」

軽口を返して来る王国の王子に、帝国のオーガは鼻を鳴らす。

金棒のように鉄骨を振るう彼女は、もう一度ドラゴンを見つめ息を吐く。

白い小娘の一撃を受けた顔面が崩れ血肉を溢れさせている。

それを見て……トリスシアは硬く鉄骨を握った。

自分が弱いなどとは認めたくないからだ。

「少し休んだら仕掛けるよ。ただアタシだけの力じゃ今は勝てないよ」

「分かっている」

同じ判断を下しているハーフレンは、視線を、顔を……フレアに向ける。

相手の視線から何かを感じ取ったフレアは、それに気づいて大きく身を震わせた。

「ダメよ。ハーフレン……あれはっ!」

「でもお前の"影"の中に、あれは埋められているのだろう?」

「……」

我慢出来ずに告げた秘密が仇になって返って来た。

俯き恐怖に震えカタカタと揺れるフレアの肩にハーフレンは手を置く。

「大丈夫だ。俺が居る」

「……本当に?」

「ああ。だから使え。否……使ってくれ」

優しい声音で告げられてフレアは自身の背中に手を回すと、普段は長い髪で隠している鎧に取り付けている術式の道具を外しだす。

一度武装を見つめて、『ありがとう』と呟くと……フレアは武装に手を掛け壊し始めた。

「え~っと……名前を聞いて無かったな」

「キシャーラ様の部下、ヤージュと言います」

恭しく一礼する男性に、ハーフレンは腰の物を外す。

王子の地位を証明する飾りだ。

その飾りを迷わずヤージュに放る。

「希望は亡命だってな? なら共闘してその真意を示せ」

「御意」

またも頷く彼に、ハーフレンはフレアに目を向けた。

「オーガは借りる。代わりにそれを預けるから砦後方で待機している守兵を呼んで来てくれ」

「訳は?」

「決まっている」

クスリと笑いハーフレンは大きく手を広げた。

「俺たちが失敗したら、次にするのは時間稼ぎだ」

明言し断言する。

「その場合は、アンタは何があってもノイエを連れて王都に向かえ」

「それでどうにかなると?」

「ああ、なるさ」

笑い頭を掻いた近衛団長は真っ直ぐノイエに目を向けた。

「それの夫は妻が隣に居れば、どんな無理でも引っ繰り返す。この国1番の厄介者だからな……必ず勝ってくれるさ」

(c) 2019 甲斐八雲