軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

逃げてみますか?

ユニバンス王国ブシャール砦正面門

左右に開かれた鉄製の扉。

普段は帝国領との貿易路として使われている街道を封鎖するなど、戦時中かドラゴンの大量発生時ぐらいだ。

現在その2つが同時に進行しているが、砦の門は開かれたままだった。

大剣を地面に刺し待ち構えるハーフレンは、正面を見つめていた。

遠くに見える土煙は、ドラゴンを相手に大暴れしているノイエが作り出した物だろう。

彼女がドラゴンを取り逃がすことなど考えられない。だから門を開いたままにしたのだ。

理由は至極簡単。

「へ~。閉じて無いんだね」

「ああ」

「どうしてだい?」

「客が来るのが分かってるんだ。いちいち開けるのも面倒だしな」

「良いね。好きだよ……そう言う考え」

砦正面を潜るように入って来た大女に対し、ハーフレンは大剣を肩に担いだ。

自分よりも半身近く背が高く、巨乳と言うより発育し過ぎた大胸筋で大きく見える胸を張る大女……弟からの報告にあった帝国のドラゴンスレイヤーと見て間違い無い。

ギュッと大剣を握り、ハーフレンは軽く腰を沈めた。

ついでに喋る時に邪魔に感じる口の中の錠剤を齧って飲み下す。

「……お前が報告にあった帝国のオーガか?」

「報告? ああ。あの時の王子様か」

訝しむような表情を見せた彼女が、合点がいった様子で手を打つ。

「その通りだよ。アタシがオーガのトリスシアさ」

「そうか」

一度大きく息を吸い、ハーフレンは自身の中で制限している枷を外す。

見る見る表情が死んでいく相手を見つめ……トリスシアは自分の背筋がゾクゾクするのを感じた。

「あんた強そうだね」

「強いぞ」

「そうかい。なら名乗りな。本当に強かったらアタシが墓を作ってやるよ」

拳を握り身構える大女に、表情が完全に死んだハーフレンがガラス玉のような目を向ける。

「ユニバンス王国第二王子。近衛団長……ハーフレン・フォン・ユニバンス」

「また王子様かい! なら楽しまないとね!」

同時に踏み込み2人の戦いが始まった。

「うっわ~。何ですかあれ? 化け物と化け物の戦いですよ~」

砦の最上部に居るルッテは、正面広場で衝突し合う2人を見つめて冷や汗を流し続ける。

見てて笑えないくらいに恐ろしい衝撃映像だ。

拳対大剣での接近戦が成立するとか……人間離れし過ぎて本当に笑えない。

「うん。わたしは普通が良いです」

「……普通ですか?」

「はい。普通に恋愛して、結婚して、家庭を持つのが良いです」

返事をしてクルッとルッテは振り返る。

構える弓には矢が番われていて、いつでも撃つことが出来る状態だ。

彼女の背後に居たのは、ひょろっとした線の細い男性だった。

「見たことあるような無いような?」

「これはこれは。帝国大将軍……元ですが、キシャーラ様にお仕えするヤージュと申します」

「これは親切に。わたしは対ドラゴン大隊ノイエ小隊所属の騎士見習いでルッテと言います」

彼女の言葉にヤージュは軽く目を瞠った。

裏の世界では有名な存在が、まさか最前線に出て来ているとは思わなかったのだ。

「貴女がルッテ様ですか」

「……知ってるんですか?」

「噂はかねがね」

笑うヤージュから、ルッテは軽く顔を傾けて前髪で目を隠す。

「貴女が『ユニバンスの目』ですよね? 何処でも見渡せるとか」

「いえいえ。何処でもは言い過ぎです。結構見えないんですよ?」

「でも私の動きは見えていた、と?」

「はい。意外と身軽なんですね。壁とか器用に昇って」

「年なので辛いのですがね」

苦笑する相手にルッテは矢じりを向けたまま動かない。

「それで何のご用でしょうか?」

「はい。今後のことを考えると……貴女は生きていると厄介なのです。ですから死んでください」

「嫌ですよ~! 最近ようやく良い人かもって人と出会えたのに!」

少女の言葉にヤージュは何とも言えない視線を向ける。

「この騒ぎが無かったら2回目のお見合いしてたんですよ! 今回は外で散歩しながらお話とかって考えてたのに!」

「それは……申し訳ないですね」

相手の勝手な言い分に……彼は気圧された。

「だから早く終わらせて帰りたいんです! 新年を迎える前に!」

「その件に関しては……協力するのは難しそうですね」

右手を軽く上げるヤージュ。だが何の反応も無い。

「向こうの弓兵さんならもう倒しましたよ?」

「……」

「ちなみにあっちのもですけど」

配置しておいた弓兵が倒されている事実に焦りながらも彼は左手を軽く上げた。

「待ってました」

静かな声と同時にルッテは顔を上げた。

窪んだ黒い少女の目を見て……ヤージュは戦慄を覚えた。

狙いを定めてルッテは矢を放つ。

吸い込まれるように物陰に居た弓兵の肩に矢が突き刺さった。

「上手く隠れてたから狙えなかったんですよね」

ルッテは新しく矢を番える。

「逃げてみますか? わたしの祝福から?」

ニッコリと笑うルッテに、ヤージュはやれやれと頭を振った。

チラリと外の様子を伺った彼女は、静かに吐息を吐く。

気のせいか外より建物の中の方が寒く感じる。

「ユニバンスのノイエ小隊。隊長ノイエが暴走し国に害成す時の為に集められたこの国一の精鋭部隊」

静かに声を発し……金色の髪をなびかせてフレアは暗い廊下を歩き続ける。

光が差し込むはずなのに、彼女が進む通路の先には影が……闇が生じる。

黒一色の狩人から逃れようとする者たちが、黒い何かに飲まれて床に伏して行く。

「私たちは個人だけで小隊規模の実力を持っているのですよ。隊長のお陰で目立たずに済んでいますが」

静かな声音。冷気すら感じさせる感情の死んだ表情。人形のような面構えでフレアは敵を制圧して行く。

「貴方たちは証人です。だから命は奪いません」

(それに私の影ではもう人を殺す強度は出せませんから)

師より貰い受けた術式による武器は使用限界をとうに越えていた。

それでも騙し騙し使って来たが……もう本当に限界なのだ。

「黙って寝てなさい。それと幸運に感謝なさい」

床に伏す者たちにフレアは一礼した。

「猟犬と出会わなかったことに」

「貴方たちは幸運だよ?」

床に転がっている襲撃者に、小柄な少女のようなミシュがケラケラと笑う。

「私はあっちのお嬢様みたいに壊れたままじゃ無いしね」

笑うことを止めれば彼女の顔もまた表情が死ぬ。

「多少痛かっただろうけど、背面の影に出会ってたら死んでるんだし……うん。痛いぐらい我慢我慢」

軽い口調でそう言い放ち、彼女もまた次なる獲物を探し歩き出した。

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