軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

行って全部倒して来い

帝国領、ユニバンス王国北西部近郊

「さて皆さん。大きく迂回して無理な行軍を強いて来ましたが……これから今回最大の無理を始めます」

臨時参謀を務めている彼の言葉に、従う部下たちの表場が引き締まる。

自分たちはこの戦いで目標を達成しなければ、今後の勝ち目がないのだと理解しているからだ。

ゆっくりと部下たちを見渡した男性……ヤージュは軽く手を広げる。

「任務は簡単。帝国領内では"惨劇の地"と呼ばれているユニバンスのブシャール砦を攻めるのです」

言って自身で笑いそうになるのをヤージュは我慢した。

悲劇の地で逆転を狙うなど喜劇でしか無いと思ったからだ。

「おいヤージュ? 惨劇の地って何だい?」

「……トリスシア。少しは帝国のことを学びなさいと」

「はいはい。説教なら後にしな。で?」

「やれやれ……」

岩に腰かけて居る大女に促されて、ヤージュは渋々歴史を語る。

「約10年ほど前の話です。ある将軍が発案し、帝国領からユニバンスに侵攻したことがあるんです」

「へ~。で、負けたってかい?」

「ええ。それも攻め入った兵、全てを皆殺しにされて」

「……」

皆殺しとは穏やかでない表現に大女も口を閉じた。

「500以上の兵があの地で殺され尽したのですよ。だから帝国では『ブシャールの惨劇』とも呼ばれています」

事実殺された兵の数はそれ以上とも言われている。

攻められたユニバンス王国が『国境線の戦いに勝った』としか言っていないのを良いことに、時の大臣たちが戦死した兵の数を過少したのだ。

少なければ全滅もあり得ると……そう自国民を騙す為に。

「これから私たちはその場所に向かうのです」

「つまり楽しめるってことだろう?」

「楽しめるかどうかは貴女次第ですよ」

苦笑いを浮かべてヤージュは視線を動かす。

従者に支えられてどうにか椅子に座る主に目を向けた。

「キシャーラ様」

「構わん。俺はこんな状態だ。それにこの命はお前に預けている。好きにやれ」

血の気の少ない顔で僅かに笑う主に……ヤージュは深く頭を垂れた。

もうやるしかないのだ。

この作戦はその為の物。

ただただ主を生き残らせる最終手段だ。

「ならばこれよりブシャールを攻めます。各自……自分の仕事を忘れ無きように」

「「おうっ!」」

力強い声を発して……残り少ない元帝国大将軍の者たちが拳を天へと突き上げた。

ユニバンス王国北西部ブシャール砦

「お~。全員揃ってるか?」

ボリボリと首の後ろを掻きながら現れたのは、現在ブシャール砦の最高責任者であるハーフレンだ。

現在のブシャール砦は、引き連れて来たノイエ小隊の面々と近衛からも護衛として精鋭を数人。後は砦に配置されている守兵のみの構成だ。

数で言えば北東に向かったアルグスタたちよりも少ないが、こちらには王国一のドラゴンスレイヤーが居る。戦力で考えればむしろ上かも知れない。

「さて……ノイエがソワソワしている様子で分かると思うが、ドラゴンがあと少しでこの砦に到着する。そこで今回の作戦だが」

ニヤリと笑いハーフレンは全員を見渡し、大陸屈指のドラゴンスレイヤーに顔を向けた。

「ノイエ」

「はい」

「行って全部倒して来い」

「……良いの?」

「許す」

ハーフレンの許可と同時にノイエが消えた。

流石にその反応は予想していなかったハーフレンも周りの者たち同様に凍り付いたが、咳払い一発で気持ちを立て直した。

「……まあこれでドラゴンの方はどうにかなるな」

「ええ。ドラゴンは」

「……何が言いたいフレア?」

最前列に座る女性に視線を向ける。

元上司に冷たい目を向けながら、フレアは『はぁ~』と息を吐いた。

「アルグスタ様は少ないと言っていたけれど、たぶん帝国からも兵が来るはずよね? もしそうじゃ無ければ共和国との『共闘』関係が崩れて後々問題になる」

「ああ。だから俺たちはこの砦で敵兵を迎え撃つ訳だ」

戦場に出れば秘書官兼魔法使いとして帯同していた女性の言葉にハーフレンは素直に頷いた。

事実彼は敵襲が無いとは微塵も思っていない。何か起きると思っているのだ。

「さあ考えようか? 敵は少数の可能性が高い。ルッテ……迫って来るドラゴンの後方に帝国兵は?」

「もぐぅ? ……ありません」

リスのように果物を頬張っている少女の目は頼りになる。

それだけに見えない角度からの奇襲を考えるしかない。

「谷の部分に作られたこの砦の立地としては、敵は左右の山から迂回して来るだろうな」

「は~い」

「何だミシュ?」

「砦を無視して王都に向かって突っ走るって作戦は?」

「帰る気が無いならありだな」

「ですよね~」

ヘラヘラと肩を竦めて笑う馬鹿に近くにある紙を丸めて投げつけ、ハーフレンは思考を戻す。

「普通に考えればここを落としてユニバンス攻略の足掛かりにするはずだ」

定石ならそうするはずだ。

ハーフレンはそれを理解しているからこそ、敢えて迎え撃つ作戦に出る。

「敵は砦に侵攻しこちらの首を取りに来るだろう。敵全員が暗殺者だと思え」

「そうなると……どうするの?」

「決まっている」

フレアに笑いかけてハーフレンは今回の作戦を発表した。

それは奇しくも弟であるアルグスタが取った作戦にも似た陣容……つまり砦の守兵を砦後方に下がらせて陣を張る。

「城内には少数の人間を配置して敵の暗殺者を迎え撃つ。極めて簡単で分かりやすい作戦だろう?」

「うわ~。筋肉馬鹿が馬鹿丸出しのことを言い出したよ」

もう一枚紙を丸めて、ハーフレンは馬鹿を言う馬鹿にそれを投げつけた。

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