軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

想定外かな

「あっおに~ちゃんたちです~」

本当に僕の執務室に居たチビ姫は……ソファーに座りこれでもかとケーキを食べていた。

と言うか食べ過ぎだろう? ホールのケーキを抱えて食ってるぞ?

「おうチビ姫」

「もうです~? あと少し残ってるです~」

「なら全部食え。時間はまだある」

「は~いです~」

元気に返事をして両手でケーキを持つ彼女がこれでもかと頬張り続ける。

いつもと変わらない笑顔で。満面の笑みでだ。

最後の一口を蒼い顔して食べきった彼女は、ポッコリと膨らんだお腹を摩ってソファーから立ち上がった。

「はい。満足です~」

「そうか」

「は~いです~」

絶対に食べ過ぎな彼女は軽く手足を振って運動を始める。

僕はノイエとその様子を見つめているだけだ。

と、音もなくミシュが来ていた。その手に持つのは無骨な板と鉄で出来た拘束具だ。

ミシュから受け取ったそれを……馬鹿兄貴がチビ姫の両手に通し拘束した。

「キャミリー・フォン・ユニバンス。旧姓セルスウィン。貴女の国と交戦状態に陥ることが予想される現状、国王ウイルモットの命で貴女を拘束させて貰う」

「は~いです~」

あっけらかんと返事をして、彼女は罪人の様に首枷まで嵌められた。

チビ姫だったらお仕置き……躾の延長上にこれぐらいのことはありそうだけど、でもそれは『罪人』としての扱いでは無いはずだ。

「ミシュ。彼女を尖塔の部屋に」

「はいな」

小さくて薄いミシュが小さくて薄い少女を連行する。

文章にでもすれば滑稽なことだろうが、でもそれは今現実に目の前で起きている。

と、ノイエが僕の腕を放してチビ姫の元に行こうとする。だから黙って彼女の背中から抱きしめた。

「アルグ様」

「大丈夫。全部終われば元通りだから」

「でも」

「元通りだから」

「……はい」

追うことを止めてくれたノイエが振り向いて僕に抱き付く。

そんな彼女の頭を撫でてやりながら……僕はたぶん本気で頭に来ている。

ノイエのことを悪く言われてキレるとは違う感情。沸々と沸き立つような熱い何かが込み上がって来た。

「ノイエ」

「はい」

「ちょっと今回は頭に来たから、さ」

「……はい」

顔を上げた彼女の目を見る。

僕を覗いている彼女の中の住人たちにもはっきりと宣言しておく。

「どっちがドラゴンを早く退治して会いに行くか競争ね」

首を傾げた彼女が、ゆっくりと頭の位置を戻す。

「……勝ったら?」

「負けた方が勝った方の言うことを1つ聞く」

「「分かった」」

たぶんノイエ以外の声も含まれてた気がする。でも彼女は軽く背伸びをして僕にキスして来た。

「なら負けない」

「ああ。今回は僕もだ」

ふざけるな。子供を……チビ姫たちをこんなことに巻き込むなんて絶対に許さないからな!

そこには青い髪碧い目の女性が座っていた。

長い髪を広げて座り彼女は、小柄でありながらたぷんと重そうな胸をしている。

顔立ちは整っていてとても可愛らしい。

彼女の眼前に広がっているのは『 ノイエの視界(そとのせかい) 』だ。

映画のスクリーンのように映し出されている光景全ては、可愛い妹が今見つめているものだ。

「想定外かな」

外の展開に驚きつつもクスクスと冷ややかに笑う青い髪の女性。そんな彼女に向かい赤い髪赤い目の女性が歩み寄って来る。

スラリとした感じの全身から冷たい空気を発する切れ長の目を持つ美女だ。

台座のような場所を椅子にしていた青い髪の女性……ホリーはゆっくりと視線を来客者に向けた。

「アイルローゼか。腕はくっ付いたの?」

「まだよ」

片腕を固定している彼女の様子にホリーはまた笑った。

「にしてもカミーラも凄いわね。貴女たち2人を相手に……グローディアは潰して見せたのだから」

「そうね。でも最初から本気を見せていたら……あんな野蛮人、直ぐに溶かしてたわ」

赤い髪の女性……アイルローゼも台座に腰かけた。

「どんな気まぐれ? 貴女が出て来るだなんて」

「……レニーラが奥で騒いで回ってたのよ。『アイルローゼの術が出来たら外に出れる』って。そんな言葉を耳にしたら、一度くらいノイエの夫を見てみたくなっただけよ」

その言葉に嘘は無い。

ただホリーはここ何日と"彼"を見ていた。ノイエがずっと見つめているからだ。

軽く抱き締めた膝に顔を押し付け、ホリーはクスリと笑う。

「ねえアイルローゼ」

「なに?」

「今の勝負……どっちが勝つかしら?」

「決まっているわ。ノイエよ」

「なら私は王子様に賭ける」

『賭ける』と言う言葉にアイルローゼが反応する。

「何を賭けるの?」

「2人と同じ条件でどう?」

「……良いわよ。私のノイエは決して負けないから」

「なら私"の"王子様もたぶん負けないわ」

クスクスと冷たく笑ってホリーは立ち上がった。

青く長い……膝まで届く髪をなびかせてその場でクルッと回る。

「それに彼は私と同じ匂いがするの」

「匂い?」

「そう」

豊かな胸の前で手を組み祈りを捧げる形を作る。

そしてホリーはうっとりとした表情で告げた。

「身内に優しくそれを害する者にはとても厳しい。ああ……自分が考えた逆転の手を駒が暴走して思いもよらない展開を迎えるなんて、背筋がゾクゾクとして止まらないわ」

「言ってなさいこの変態が」

冷たく言い放ちアイルローゼは外を見た。

愛しいノイエはいつもと変わらずに"彼"を見てばかりだ。

飽きないのかと思うが、だがそれは彼にも言える。気づけばあっちもノイエを見つめてばかりなのだ。

「でも身内を大切にするのは……悪く無いわね」

「何か言った? アイルローゼ?」

「ただの独り言よ」

クスッと笑って立ち上がったアイルローゼはホリーに背中を向けた。

「ここから先は見て行かないの?」

「ここで見る必要があるの? それに私のノイエが負けるだなんてありえないわ」

「言ってなさい」

クスクスと冷たく笑い、ホリーはまた座ると外の世界に目を向けた。

「あっれ~。アイルローゼだ。何々? まだ機嫌悪いの? あの日?」

「消すわよレニーラ」

「いや~ん。カミーラみたく汚物になるのは勘弁だね~」

ケラケラと笑いながら奥から走って来たのは、無駄に元気なレニーラだった。

天性の踊り子である彼女は常に活動的で……至る所に姿を現しては暇潰しになることを探している。

肩越しに振り返ったホリーは、厄介者を見つけて内心で息を吐いた。

「おっ! 珍しい。ホリーが居る」

「邪魔したら斬るわよ」

「ぬおっと!」

走ったままの勢いで抱き付こうとしたレニーラがどうにか踏ん張って堪えた。

迎撃に動いていたホリーの髪が相手の様子を見て……力を無くし垂れ下がる。

「何だよ~。ホリーは可愛いし胸も大きいから抱き付きたくなるのに~」

「止めてよね。私に触れて良いのは"身内"だけよ」

「……私とホリーはノイエの中に暮らす身内みたいな物じゃん」

「次それを言ったら刻むわよ」

「……」

ソソソと離れて行く相手を見てホリーは息を吐いた。

彼女の身内は姉と弟。そしてノイエと……あと1人だ。

(頑張れ私の王子様)

優し気な目を外に向け、ホリーは柔らかく微笑んだ。

(c) 2019 甲斐八雲