作品タイトル不明
強力無比なドラゴンスレイヤー
「……アルグよ。正気か?」
「少なくともどこぞの馬鹿兄貴の現状よりね」
寝ぼけ眼のノイエの手を引いて会議室に戻って来たら、ある意味での上下関係をまざまざと見せつけられた。
縄で縛られて床に転がっている馬鹿兄貴の背中を踏みつけてフレアさんがパンパンと手を叩いている。周りの人たちは机を壁にしてそれを取り囲んでいる状況だ。
いつもは冷静なフレアさんなのに、たまに変なスイッチが入ってとんでもないことをするよな。
相手を間違えると不敬罪で捕まるよ? まあ僕や馬鹿兄貴は、彼女の人柄を知っているからそんなことはしないけどさ。
会議室の原状回復を命じてから、僕は"トイレで考えて来た"とある作戦を披露した。
その返答が馬鹿兄貴の言葉に繋がる。
「落ち着いて考えてみようか? 二方向から敵は来る。これは決定事項だ。邪魔をして進行速度を落とせる相手じゃないのは、たぶん僕より話を聞いている皆の方が理解しているはずです。だったら進路上に存在する砦で迎え撃つしかない」
壁に貼られた王国北側の地図を指さす。両方の砦は大国からの貿易路……つまり切り開かれた一本道だ。
空を飛ぶ類のドラゴンには関係無いが、陸路を走るドラゴンは遮蔽物が障害になるので切り開かれた道を進む。それに空を飛ぶ類のを集めておくことは難しい。
僕がこの世界に来てから空飛ぶ蛇みたいなドラゴンしか主に見ていない理由は、つまりそう言うことだろう。
「ここで話を少し整理します。
帝国は大将軍の粛清で国内で兵を動かしたばかり。ついでに言えば、厄介な帝国の大将軍が居なくなったと知った近隣の攻められている国々は……反撃に出るはずです。広大な国土を持つ帝国は四方から攻められる覚悟で大将軍を粛正しようとした。まっ失敗したみたいですけどね」
壁の紙に『帝国→兵が動かせない』と記入する。
「ならユニバンスに兵を出せるのは何処でしょうか? たぶん共和国です。しかしこの国も後継者争いで内側はボロボロと聞いてます。馬鹿兄貴、補足をどうぞ」
「その通りだ。ウシェルツェン派とハルツェン派が有力者の囲い込み工作で大忙しだな」
「です。その状況で誰がどれだけ兵を派遣出来るでしょうか?」
「……ハルツェンは動かん。アイツの武器は金だ。戦争なんてやれば自分の武器を失う」
縛られたままで椅子に腰かけているけど、一応この国ではトップクラスの軍人だ。
その能力を事務処理でも見せて下さい馬鹿兄貴。
「つまり今回兵を動かしたのは、前回この国で赤っ恥をかいたウシェルツェンだろうね。
全く……勝手に喧嘩を売って来て、負けたからって逆恨みで戦争するなと言いたいわ」
器が小さいぞ。内務大臣よ。
「逆恨みと言うよりもあの馬鹿大臣は金がない。だからこの国から富を奪って有力者に配りたいんだろう。それと囲っている軍閥にも手柄と言う餌が必要だ」
立ち上がろうとした兄貴の肩にミシュを座らせてフレアさんが睨みつける。
素直に脅された馬鹿兄貴は、ミシュを肩車したままで言葉を続ける。
「戦争なんて昔っから個人個人の都合が合わさって始まるもんだ。そう考えると今回帝国に誘いをかけたのは、共和国のウシェルツェンかもしれんな」
「前回の失態が思ったよりも響いた?」
僕の問いに馬鹿兄貴が頷く。
「あり得るな。ハルツェンにその辺りを攻められて苦しくなっていたのかもしれない」
苦笑する兄貴に釣られて僕も苦笑する。
逆転の一手で戦争をするとか……ある意味末期な思考だと思うよ。
「まっ推論で敵の内情を話しても仕方ないので、ここは今迫る現状に目を向けましょう」
真面目な政治の話は背中が痒くなるので放置で良いや。
「考えるも何も、こっちとしたら二手に分かれてドラゴンを遊撃するしかありません。ですが先の話を踏まえると……帝国から来る兵の数は少数だと思われます。その理由は、ルッテ」
「ふぇ? えええ~」
コクコクと舟を漕いでいたルッテを指名する。
ニコッと笑い顔を向けて来たフレア先輩に恐怖したのか、彼女は立ち上がるとおたおたし続ける。
「アルグスタ様」
「はい」
「……分かりません」
「素直に謝ったので返答出来ない件は許しましょう。でも居眠りはダメです。後ろで腕立て伏せ30回」
「ふにゃっ!」
僕の言葉とフレアさんの睨みで……ルッテは後ろへと歩いて行って腕立て伏せを始めた。
「メイド長」
「……はい」
「監視をお願いします」
「心得ました」
鬼軍曹であるメイド長の登場で、ルッテの腕立て伏せはより過酷な物になるだろう。
「話を戻します」
会議室後方で響く悲鳴に室内の空気が一気に締まった。うん良い感じです。
これこれモミジさん。ノイエが寝ているのを起こそうとしない。彼女は寝てて良いのです。
「帝国は内乱が終わった後です。ですが領内には大将軍とその支持者がまだ居ます。こんな状態で兵を動かせば……そんな肝の太い皇帝だったら、人気者の弟に恐怖するなんてことはありません。守りを固めるでしょうね」
壁の紙に『帝国→兵は動いても少数』とだけ書く。
「主力は共和国から来る兵で間違い無い。こっちは王国軍とうちの大将軍麾下のお仕事なので丸投げします」
「で、どうするんだ?」
馬鹿兄貴の問いに、僕はもっともらしく頷いた。
「ドラゴンを先兵に使った馬鹿共に痛い目を見て貰いましょう。うちには強力無比なドラゴンスレイヤーが居るんですからね」
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