作品タイトル不明
本当にこれを次の王妃様にしても良いのですか?
ここ数日、雨が降っては止んでを繰り返すようになって来た。
乾期の終わり……日本で言う秋雨の頃だと思いたかったんだけど、本日は結構寒い。
この世界には春や秋と言うものがほとんど無いらしく、夏からの冬と言った感じになるっぽい。
雨の温度を直に触れて感じることで『あ~冷たい。今まだ冬だわ~』とアバウトに判断するとか。
よくそんな気候で麦が育つなと思ったら……ここは異世界でしたね。麦も麦で異世界麦なのですよ。
にしても今日は一気に冷えすぎだろう?
外套に包まれているノイエを背後から抱きしめて暖を取る。
雨の日は大きめの外套で2人を包むのが我が家の定番です。
「なに?」
「寒い」
「はい」
外套の中でノイエが擦り寄って来て、僕の体に腕を回して甘えて来る。
本当にこの可愛い生き物は……ずっと部屋に飾って愛でていたい。
「ん」
調子に乗ってノイエの体を触っていたら、彼女の手が僕の手を制する。
「ダメ」
「どうして……」
「夜、頑張る」
それは僕に対するデスフラグですよノイエさん?
「でも寒いから触るのだ~」
「……」
手探りでノイエの頬らしき部分に触れて、プニプニ感を堪能する。
祝福以前に10代のノイエの肌は、きめ細かくて水なんて弾きまくる。
その柔らかくて滑らかな肌を指先で突いていたら……指先が生暖かい?
「ノイエさん?」
「……」
外套に隠れているからってノイエが間違いなく僕の指を舐めている。
そんなアダルトなことを、白昼の往来でやってのけるなんて……ノイエも知らない間にエッチな子に。
でもその事実を突きつけると犯人は僕だと返されそうだから黙って彼女の好きにさせておく。
「あ~幸せだな」
「アルグよ。『馬の上で怪しく蠢く外套姿の何かが怖い』と市民から苦情が舞い込んで来てるんだが?」
ええいっ! そんな苦情を突っ込むモテない男共など炭鉱送りにでもしてしまえっ!
「はて? 何のことやら」
「お前たちだって証言は揃ってる」
ちっ! 誤魔化せないかっ!
登城するなり馬鹿兄貴の呼び出しを受けてやって来た僕に対する無情な宣言。
雨期の到来で外に出れず机に張り付いているお陰か、机の上に置かれていた書類の山がだいぶ薄くなったので山越しに馬鹿兄貴の顔がはっきりと見える。
「子供の教育に良くないから止めろ」
「断る!」
ここは引いちゃいけない場面だ。
「ノイエと仲良くするのが僕の生きる糧ですが何か?」
「別にどこで何をしようがお前らの自由だ。だがな……場所を考えろ場所を! 今日は大通りのど真ん中で何をしていた?」
「今日ノイエが舐めて来たのがその辺りかな?」
ガタタッと大きな音を発して双子のパルとミルが机の下へと消えて行った。
何ですか? その化け物でも見たような視線は?
「お前馬鹿か?」
「馬鹿に馬鹿と言われる筋合いはない」
「なら変態か?」
「心外なっ!」
僕は清廉潔白にして一途な純愛野郎路線で生きているはずです。断じて変態の類な生き物では無いっ!
「変態でないなら大通りで舐めさせるか?」
「……見えてなければ大丈夫」
「そんな訳あるか馬鹿者がっ!」
ああ言えばこう言いやがって……そんなに僕を変態に仕立て上げたいのか!
「見られてなければ問題無い!」
「見えなくてもその動きで何となく分かるだろう?」
「……」
おかしい。馬鹿兄貴の言葉なのに思わず頷きそうになってしまったぞ。
頭の裏で手を組んで、背もたれに体を預けた馬鹿兄貴が僕を見る。
「前から言おうと思って忘れてたが……それだったら馬車に乗った方が良いんじゃ無いのか?」
「な、に?」
馬車だと? そうか。その手があったかっ!
「馬鹿兄よ」
「何だ変態」
「馬車って高いの?」
「金額はこだわり次第だろうな」
こだわりだと? そんな物は椅子の具合と目隠しの完璧さで十分だっ!
「突然ですが僕は大至急やっつけなければいけない敵が生じました。よってこれにて失礼」
適当な挨拶をして急いで自室に戻ろうとしたら、背後から何かを投げつけられて頭に当たった。
「見たら処分しておけ」
「りょーかい」
サッと床に落ちていた紙屑を拾い上げ、慌てて馬鹿兄貴の執務室を出る。
その手があったんだよな。馬車だったら移動の間中、したい放題されたい放題だ。
問題は何だ? 資金力だけはこの国一番だ。問題は無い。
頭の中で箇条書きに問題点を上げていく。
それを整理して厄介な物から並べ直すと……僕は歩きながら手を叩いていた。
「お呼びでしょうか?」
「あっ居たんだメイド長」
「はい。最近はこちらに通い詰めです」
「チビ姫も暇そうだしね」
暇を持て余しているはずのグッタリとした次期王妃を抱えているメイド長の半身には決して目を向けない。
見えてなければ問題事も『知りませんでしたっ!』で押し通せるはずだ。
「それでご用件は?」
「うん。馬車を買いたいんだけど……相談に乗ってくれるかな?」
「お安い御用にございます」
ふんわりと一礼をして、メイド長が柔らかな笑みを見せる。
「この馬鹿姫……次期馬鹿姫の相手に疲れていた所です。丁度良かった」
笑いながらその抱えている馬鹿の存在を見せないで~っ! 知らないから! その案件に僕は一切手を出さないからね!
全力で視線を逸らし、急いで自室である執務室に向かう。
ただ部屋に入るなりお菓子の匂いで目を覚ましたチビ姫にデコピンするのは忘れない。
本当にこれを次の王妃様にしても良いのですか?
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