軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

調教こそ夫婦の最高の営みなのです

「変態は嫌……嫌なのよ……」

部屋の隅で膝を抱えて震えているミシュが、物音がする度に過度に反応している。

マツバさんから話を聞いたから次はミシュと言うことで呼び出したが……どうやらそれなりにトラウマを背負っているらしい。

「そう言ってもマツバさんはあれで意外と真面目だよ?」

「真面目……?」

グルンとホラー映画ばりにミシュの首が回ってこっちを見る。

意外と体の柔らかい奴だな。そう思っておこう……怖いから。

「真面目な人って……食事をしていたら自分が咀嚼した物を食べさせようとする人のことですか?」

床を這って壊れた売れ残りが迫って来る。

「トイレに入れば一緒に入ろうとして来る人ですか? お風呂に入れば扉を突き破って全裸で突入する人ですか?」

「……」

「寝ようとしたら全裸で抱き付いて来る人が真面目なんですか?」

机に張り付き登って来たミシュに紙屑を投げつけて、ホラー映画の化け物を退治しておく。

まあ確かに行動を聞いた限りでは変態だ。物凄い変態でかなりアウトだ。

「真面目だな~」

「気は確かっ!」

目を瞠ったミシュが机の上に乗って来た。

よせよ。書類が崩れるだろう?

「失敬な。落ち着いて考えてみようか」

「何を?」

「確かに行動に多少の問題はある」

「多少の定義を教えてちょうだい!」

「そのうち気が向いたらね。で、ここからが大切。行動だけで判断するからダメなんだ」

「……」

机の上のミシュが濁った眼でこっちを見て来る。

「ミシュに対する想いは本物だよ? 真剣にミシュを愛している。ほら真面目だ」

「だから変態は嫌いなのよ~!」

魂の叫びを発してミシュが暴れた。

ちっ……やはり誤魔化されないか。こうなったら最終手段だ。

パンパンと手を叩いたら執務室の壁の一画が開いてメイド長が出て来た。刹那の速度で消えたミシュを猫持ちしてスィークさんがやって来る。

祝福を使った動きを捕らえるとかメイド長も大概だな。

「お呼びでしょうかアルグスタ様」

恭しく一礼をして来るメイド長は、ガッチリとミシュの首をロックして締め上げている。

「うん。メイド長の弟子が折角の求婚者を嫌うのです。これがダメなら打つ手がないってことで僕も諦めようかと思うのです。ですからメイド長のお力添えを」

「……なるほど。理解しました」

「理解するなこの化け物ババア!」

グギッと鈍い音がしてミシュの両手両足がダラッとなる。

あの~メイド長? 今、ミシュの首が曲がっちゃいけない方向に曲がっていませんでしたか?

「つまりアルグスタ様は食わず嫌いはダメだと言いたいのですね」

「……それで良いです」

「了解しました」

グッタリしているミシュを僕の机の上に置くと、メイド長はエプロンの裏から麻縄を取り出して彼女を手早く拘束する。

色々とツッコミ個所が多いが、ツッコんだら負けな気がするからスルーだ。

「さてミシュ」

「はっ! 若いマッチョが私に手を振って居たわ! 川の向こう側で!」

「それはたぶん渡っちゃいけない川だから」

と、メイド長がミシュの短剣を引き抜き……頬にピシピシと刃を当てる。

「売れ残りをどうにかしようと努力しているこちらの身も知らずに我が儘の言いたい放題。そんなんだから売れ残ると理解して欲しいわ」

「売れ残ってるんじゃないやい! まだ時期が早いだけでって! 首~! 首に刃がっ!」

「見栄を張らない。この売れ残りがっ!」

「容赦の無い言葉が私の胸を抉るっ!」

「抉るほど胸も無いでしょうにっ!」

「「「はうっ!」」」

何故か胸ネタで聞き耳を立てていたクレアと廊下からチビ姫の悲鳴が上がった。盗み聞きしてるな?

メイド長は短剣で脅しつつミシュに事情聴取を進める。落ち着いて考えるとメイド長はマツバさんの人となりを知らないのかもしれない。

「身長はそこそこ。肉付きは薄いけれど体力は豊富。で、あっちは?」

「あっちとは?」

「決まっているでしょう。息子の大きさです」

「メイド長! お子様が居ますから! で、隠れているチビ姫! ここからは耳を塞いでないとお菓子抜きです!」

部屋の扉が開いて両耳を塞いだチビ姫がソファーに来て座る。

あ~も~。本当に立ち聞きしてたよ。

「えっと……ハーフレンぐらい?」

「それは中々で」

馬鹿兄貴~。君の息子が新しい単位になってるよ!

「ならば問題はありませんね。アルグスタ様」

「はい?」

「その御人とこの馬鹿の結婚を」

「い~や~だ~っ!」

拘束されたミシュが必死に暴れる。

だがメイド長が拳を振り下ろして黙らせる。

「何故ですミシュ?」

「変態は嫌なの!」

涙目で全力否定。ただそれは、ミシュの同族嫌悪だと思うんだけどね。

しかし弟子の言葉に動じず、メイド長が冷ややかにミシュを見た。

「そんなんだから貴女は売れ残るのです」

「にゃにを!」

「良いですかミシュ? 今は変態であっても、貴女が調教して『元変態』にすればいいのです」

これが正解だと言わんばかりのメイド長の言葉に流石の僕も引く。大丈夫か? このメイド長?

「調教して……?」

「ミシュが食いついたっ!」

余りの驚きに声が出たよ。

目から鱗をまき散らしたミシュが生暖かくメイド長を見つめる。

「ええそうです。調教し、自分好みの男性に育てる……それが女としての喜びでしょう!」

「ちょっとイネル。聞こえない」

宣言するメイド長の言葉をイネル君が黙って婚約者の耳を塞いでいた。それが正解だと思う。

「良いですかミシュ? 調教こそ夫婦の最高の営みなのです」

「はい師匠!」

アカン。この師弟は狂っている。

バンッ!

「話が長引いてしまった。我が幼き君よ! 待っていてくれたかね!」

開いた扉の向こうに居たのは全裸の変態だった。

次期国王様との面会をしていたはずだけど、何故全裸でここに現れるのか?

咄嗟にミシュを掴んだメイド長が彼女を変態に投擲して黙らせる。

あの~。メイド長? ミシュの顔面がマツバさんの……今のは悲しい事故だ。そう言うことにしておこう。

「お客様。そのような格好で出歩くと風邪をひくかもしれません。最低限下半身はお隠し下さい」

ただメイド長がそう告げるのを……僕らは冷や汗を浮かべながら聞いていた。

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