軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ひょみょぎょげぇっ

「なに? 喧嘩に勝つ方法だと?」

ウイルモット国王との会話を終えたイネルは、主に近衛が鍛錬に使っている城内の広場に来ていた。

それは山とある書類仕事からの脱出を図り逃げて来たハーフレンに会う為だ。

腕力に自信のない……そもそも喧嘩すらしたことのないイネルが『大好きな人を護る為に必要なこと』としてどうしても得たい知識、それが喧嘩必勝法だった。

「ガキの頃に『喧嘩無敗』と有名だった俺にそれを聞きに来るとはいい心がけだ」

物語の悪役チックに笑う王子は、自分が演じるべきキャラが定まっていないようにすら見える。

「はい。ハーフレン様がどんな相手と喧嘩しても絶対に勝ったと国王陛下からお聞きして……」

「そうか。親父の紹介なら仕方ないな。特別だぞ?」

言いながら少年を待っていた王子は、ふと相手の頭を撫でてやるとしゃがんで目線を合わせた。

普段見せるふざけた表情では無く、真面目な王子の顔に……イネルはゴクッと唾を飲み込んだ。

「お前は誰の為に拳を振るいたい?」

「……護りたい人の為です」

「そうか」

弟の部下だからか迷いのない目を返して来る。

ハーフレンは自嘲気味に笑い、お節介だと分かりつつも言葉を続けた。

「やるなら絶対に負けるな。別に勝たなくても良い」

「えっ?」

「負けなければ良いってことだ。勝って死ぬよりも負けそうになったら、1度逃げてからまた襲いかかるくらいの根性を見せろってことだ」

「……はい」

「良い返事だ」

もう一度その大きな手の平で少年の頭を撫で、ハーフレンはゆっくりと立ち上がった。

「ならお前は護ってやれ。怯えずに大切な者をな」

窓から外を覗けば……イネル君が悪い大人に悪いことを教えられている。

「まず塩や胡椒を相手の顔に投げつけ目を潰せ。そして次は脛か股間を蹴り上げろ。出来れば靴先に鉛などを仕込んで硬くしておくと良い……と申しています」

「凄いなメイド長。良く分かるね」

「ええ。あの戦い方を教えたのはわたくしですから」

「……左様で」

胸を張って偉そうにしている……と、言うか現状とっても偉いメイド長の言葉にツッコミなど入れない。入れたら負けなのは分かっている。

「で、クレアをイジメていた連中の把握は?」

「はい。わたくしの手に掛かれば容易いことです」

何故か馬鹿王子の所に居る長身のメイドさんが、恭しくメイド長に書類を手渡し去って行く。

誰が何についてどう調べたのかもツッコまない。負ける戦はしない主義でいたいと思います。

受け取った書類を流し読みして気づく。

「……僕がこれを読む意味って無いんだな」

「それはどうしてでしょうか?」

「ん? 簡単なことだよ」

クスッと笑って僕は軽く囁く。

開かれた窓枠に手足を引っ掛け、この国最強のドラゴンスレイヤーが姿を現した。

「ノイエにお願いがあるんだ。引き受けてくれる?」

「はい」

「なら後で説明するから……仕事頑張って」

「はい」

来てくれたお礼にキスをする。

アホ毛からやる気を溢れさせたノイエが姿を消した。

遠くで立ち昇った土煙に……頑張れノイエ小隊の人たち。

視線を室内に向けると、メイド長が何とも言えない表情を浮かべていた。

頭の良い彼女のことだ……今ので僕とノイエの関係を完璧に把握しただろう。

まあ黙っておく必要もないしね。

「うちの可愛い妹分を傷つけて泣かせたんだ。僕が何もしない訳が無いでしょ?」

「……厄介なことになるかもしれませんが」

「だね。でも……メイド長は本気の僕と戦える?」

クスッと笑って彼女はふんわりと一礼を寄こす。

「わたくしが間合いを詰めて刃を向けるよりも先に、この頭をもぎ取られることでしょう。ノイエ様は夫の言葉に逆らわないようですし」

つまり僕を敵に回すと言うことは、ノイエと敵対することを意味する。

何度もそう言って来ているんだけど……どうも信用されていない気がする。

「ノイエに人殺しはさせたくないけどね」

だけど脅すだけなら徹底的にだ。

クレアは震える足に鞭を打って7日振りに城へと来た。

まだ少し頬に傷跡が残っているが腫れは完全に消えた。だが恐怖で足が竦んで歩けない。少ししか飲み込めなかった胃の中のパンを今にも戻してしまいそうなほど気持ちが悪い。

全身を震わせ……それでも何度も呼吸して覚悟を決める。

「朝から何しているのクレア」

「ひょみょぎょげぇっ」

「……何処の言葉よ」

おかしな動きを見せる妹に……姉であるフレアは深い深いため息を吐いた。

「お姉さま」

顔を引き攣らせ、全身に嫌な汗をかきながらガチガチに緊張したクレアは姉を見る。

妹の余りの様子にまたため息を吐いてフレアはその場でしゃがんだ。

「病気だったそうね。もう大丈夫?」

「えっあっ……はい」

「そう。良かった」

軽く抱き締められて頭を優しく撫でられる。

緩んでしまいそうになった涙腺を、クレアは舌を噛んで我慢した。

自分の姉は本当に優しい人なのだ。

「辛かったらアルグスタ様に言って帰らせて貰いなさい。私もそうして貰えるようにお願いしてあるから」

「……はい」

「なら頑張ってね」

促されるように解き放たれ、クレアは後ろ髪引かれる思いで歩き出す。

何度も肩越しに振り返ると、姉はしゃがんだままで手を振っていてくれた。その優しさに後押しされてクレアは前を向いて歩いて行く。

「頑張りなさいクレア」

見えなくなるまで妹を見送ったフレアはゆっくり立ち上がると、自分の職場へと向かうことにする。

どうせ上司たるアルグスタが仕掛けた作戦だ。妻である彼女を呼び出すことなど織り込み済みだろう。待機所で何が起きても良いようにしておかなければいけない。

と、もう一度足を止めて肩越しに妹の消えた背中を見つめる。

「お姉ちゃんみたいになったら許さないんだから、ね」

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