軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王国随一の護衛

「王子を押さえつけろ。もしあの馬車に手を出そうものなら罰金や謹慎などでは済まんぞっ!」

本日の襲撃に急遽集められた"裏"の部下たちを取りまとめているコンスーロが吠える。

普段は近衛の長であるハーフレンの副官をしているが、隠密衆なども面倒を見ている。

初老の彼の命令により、4人がかりで押さえていた王子を倍の数で取り囲む。

それでも剣を握り突撃する為に足を動かす化け物が居た。

「コンスーロ様。王子はこちらで押さえつけます。が、何故王弟殿下の馬車がアルグスタ様の元へ?」

「分からんよ。裏で動いているのはメイド長のスィーク様だろう。でも……」

初老の老人は苦々しい表情で動き出した馬車を見つめる。

10数年前に妻と子を失い、そして10年前のあの出来事で年若き者たちの処刑に携わった王弟ウイルアムは、『もう政治はこりごりだ』と言う言葉を残して表舞台から引き下がった。

それ以来王都に存在する彼の屋敷に置かれている『王弟一家専用の馬車』は決して使われることなど無かった。使うべき人物は王城内で目まぐるしい仕事をこなすので手いっぱいだったからだ。

だが間違いなくそれが動き、そして今日どうにかして押さえようと企んでいた人物たちを乗せ移動している。

兄である彼が弟を襲撃する……それだけでも大事件になりかねないというのに、その上王弟一族の馬車まで襲撃したとなったら問答無用で打ち首だ。

せめて王家の一員としての情けで毒を煽り死ねれば幸運だろう。

「何をどう転べばあのメイド長が王弟殿下にあのような無理が通せるのか……」

ここ最近の彼女の行動から、てっきり襲撃されるのを前提で動いている物だと決めつけていた。

襲われてもそれを跳ね除ける力を誇示する為に王国軍や近衛の精鋭たちを襲撃しているのだと……たぶんそう思わされた時点で自分たちは相手の術中に嵌っていたのだろう。

コンスーロはため息と共に自分の顔を撫でた。

「流石相手はあの化け物か」

「ああ。王国随一の護衛と呼ばれたスィークだ。良い策であったな」

自分の言葉を引き継ぐ相手の声にコンスーロは慌てて片膝ついて首を垂れる。彼同様に密偵たちも列を作って皆頭を下げた。若干1名暴れているのを必死に押さえつけている者たちは除くが。

「止さぬかハーフレン。部下たちが困っておろう」

「……」

「相も変わらず恐ろしい目を向けよる」

クククと喉で笑い男性……国王ウイルモットは息子に歩み寄るとその頭を小突いた。

「立場を考えよ。そして少し頭を冷やせ」

「……だが親父」

「頭を冷やせと言っている。そもそもこの者たちで襲撃し、スィークをどうにかできたところでノイエをどうするか? あれはアルグスタを守る為なら全力を以てお前たちに襲いかかるぞ?」

その言葉に部下たち一同が顔色を蒼くする。

ドラゴンスレイヤーの本気をその身で受け無事に居られるとは、とてもじゃないが想像できないからだ。

「重ねて言う。止めよハーフレン。弟夫婦と王弟夫人を襲撃するとなれば打ち首でも生温い。自分の子を、一族の者を……これ以上殺める王とさせるな」

言って国王は控えし傍仕いに椅子を求める。

戦場などで用いる簡易的な木と布で作られた折りたためる椅子に腰かけ、ウイルモットは一度深く息を吐いた。

「本人の願いで黙っていたが……スィークはウイルアムの後妻だ。まあ書面だけの婚姻で、彼女はその地位を我が妻ラインリアに近づけるために得たものでしかないがな」

「あの化け物が叔父の嫁だと?」

ようやく少しは興奮が冷めたのか、ハーフレンがそもそもの問いをする。

「その通りだ。あのメイド長はウイルアムの嫁で、その子であるイールアムの護衛としてこの王都に来た。だが彼女にはもう一つ役目……と言うか約束があってな、その為に王弟夫人の地位を得たのだ」

「その役目というのは?」

まだ殺気をまき散らす息子に呆れつつ、ウイルモットは軽く笑った。

「2度も襲われたラインリアの警護を……亡きウイルアムの妻から命じられていたのだ。

『どうか彼女を護って』とな。

だからあの場にノイエを連れて行くことを最も恐れているのはお前では無い。スィーク本人だ。

そして仮に何か起こるのであれば彼女は自分の命を賭してラインリアを護るであろう。だからこそ儂はアルグスタと王妃の謁見を許可したのだ」

これは王国随一と言われた護衛であるスィークが命を賭して整えた舞台だ。その邪魔をすることは、たとえどんな不確定要素があっても許すことは出来ない。

仮にその判断で妻であるラインリアを喪うこととなっても……ウイルモットは叶えようと決めていた。2人の女性の願いを。

「男とは常に女性から何か乞われる存在であるべきだ。儂はそうあるべきだと思い行動して来た」

「種馬王が良く言う」

「……そっちも乞われれば頑張る男で居たいのだ」

冷たい風が静かに流れた。

その場に居る全員が国王陛下の言葉に……それ以上は相手の地位を思い追求することは出来ない。

「だからハーフレン。黙ってここは引け」

「……出来んよ」

「ハーフレン」

握っていた剣を鞘に戻し。彼は父親に背を向ける。

「コンスーロ。撤収だ」

「はっ。して王子は?」

「……どうやら叔母が来ているらしい。挨拶ぐらいしに行くのが礼儀だろう? それに……」

足を止めて彼は肩越しに父親を見た。

「俺は戦う女の傍で手を貸す男で居たいと常に思っているんだ」

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