軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お前は馬鹿か?

「お前は馬鹿か?」

「失礼な。少なくとも目の前の王子ほど馬鹿では無いと自負している」

殴りかかって来ようとする筋肉王子が、フレアさんの咳払い一発で動きを止めた。

たまに『何か弱みでも握られている?』と思うほどフレアさんに対して弱い所を見せるな。確かに怒らせるとすっごく怖いけどさ。

即位式はつつがなく無事に終わった。

で、疑問に思ったあのお爺ちゃんのことを聞いたら『馬鹿か?』発言へと繋がった訳だ。

「お前は記憶が無いから仕方ないが、普通叔父の顔を忘れるか?」

「記憶が無いから忘れるな。事実両親の顔も覚えてませんが、何か?」

「父親の顔は覚えているだろう? 今日も見てるしな」

失礼な。あれは……父親でしたね。たまに国王様のその手のことを忘れる。

「って、あのお爺ちゃんが王弟とか呼ばれている人なの?」

最も突っ込まないといけない事柄はそっちだ。

『ああ』と返事を返して馬鹿王子が言葉を続ける。

「王弟ウイルアム様だな。約10年前から自分の領地に引っ込んで余りこっちに来ない。植物の育成に私財や心血を注ぎまくる趣味の人だよ」

「へ~」

それは知らなかった。つまり盆栽爺ちゃんな訳か。そう思うと途端にしっくり来る。

「親父より老けて見えるのは、その趣味のせいかもな。とにかく体を使わん人だ」

「納得」

運動をしていないと老けて見えるって言うしね。

実際農家のお爺ちゃんお婆ちゃんは実年齢より若く見える傾向があるのはそれが理由っぽいし。事実凄い元気なんだよな……手伝いに行った僕の方がバテバテになるとか良くあったことだ。

「あれ? そうなるともう1人の王位継承者は?」

確かあのお爺ちゃんには息子が居てとか何とか。

僕に対して露骨な顔して馬鹿兄貴が口を開いた。

「結構前から見てるはずだぞ?」

「知らないし」

「お前本当に失礼な奴だな」

呆れながらそんなことを言われる始末です。

ん~。どんなに思い出しても該当する人物が居ない。

「どこで見たのさ?」

「今日も見てるぞ?」

「はい?」

やれやれと言った様子で頭を掻き出す。

「お前の2度の結婚式の時とかそれと今日の即位式もだ。全体の流れを指揮して運営している文官が居ただろう?」

「……居たね」

僕的には『MCさん』と思っていた人だ。

どんなイベントでも姿を現して司会運営している……

「あの人なの?」

「ああ」

「……自己紹介をしないのが悪いと思います」

何度も見てたけど結局はそれだと思う。自己紹介して来ないから悪い。

そう思っていると増々馬鹿王子が呆れる。

「お前は腐っても王子だ。王子に対して目の前に来て自己紹介するようなのは余程の自信家か、お前の元で働く者くらいだろうな」

「何でよ?」

不便じゃん。

だが呆れつつ馬鹿王子が言葉を続ける。

「……言い方は良くないが、俺たちは駒の名前を全て覚える必要は無い。

上から指示をする人間だから、『お前あっち。お前はあっち』で良いんだ。直の部下にそれをやってたら面倒だけどな」

ジロッとフレアさんに睨まれ、馬鹿王子が良い感じで話を纏めて終わらせた。

まあ確かに名前も覚えず部下を顎で使うような上司は嫌われそうだけどね。

「叔父の方は分からんが、息子の方はそのうちお前の執務室に顔を出すよう言っておく」

「って叔父さんには挨拶しておきたいんだけど?」

「止めとけ」

「何でよ?」

馬鹿王子がやれやれと肩を竦める。

「お前の実家と叔父はある時期凄く揉めてな……叔父の子供が1人しか居ない理由はそう言うことだ」

そう言うことって……つまりサクッと?

「はぁ~。うちの実家って本当に何やってたんだろうね?」

文句の1つも言いたくなる。

一族皆殺しと聞いた時は『ひどっ』とか思ったけど、後から後からこんな話ばかりだ。

自然と『殺されることをやっていたのだから仕方ないよな』って気になって来る。

「一応親父に話はしておくから勝手するなよ?」

「了解です」

「じゃあ俺は自分の支度に向かうわ」

ヒラヒラと手を振って彼が背を向ける。

「頑張って恥を晒して来い。骨ぐらいは拾ったる」

「……覚えていろよ。アルグ」

憎々し気にこっちを睨みつけ、馬鹿王子が控室から出て行った。

僕の結婚式の時に言われたことを言い返しているだけですが?

味わうが良い……見世物にされる苦しみを。

着ているドレスを少し緩めてヒョイパクとお菓子を抓むルッテに視線を向ける。言い忘れてた。

「ルッテ」

「ふぁい?」

「ちなみに明日も代理宜しく」

「ふぇっ! 聞いて無いんですけどっ!」

ポロッと落ちたケーキを胸の谷間でキャッチして、彼女が吠える。

うん。言ってないね。感じとしては今日1日って風にしてたし。

「だから今言った。ちなみに報酬は今食べている最高級ケーキで」

胸のケーキを抓み、涙目を向け……ルッテは開き直った様子で食べ出した。

はっきり言って自棄食いだな。

こうなるようにちょくちょく祝福を使わせて空腹にさせておいたのだよ。

報酬は前払いしたから、明日も確りと務めてくれたまえ。

高笑いしそうなテンションで居ると、静かな足取りでフレアさんが近寄って来た。

「アルグスタ様」

「何でしょう?」

「はい。明日はミシュと変わって私が待機所に赴きます」

「良いの?」

王都に居るクロストパージュ家の名代は一応クレアだけだ……何かの時の為に参加しておいた方が良い気もする。

具体的にクレアって緊張するとダメッ子になるしね。

でもフレアさんは軽く頷く。

「はい。それにハーフレン様と懇意にしているエバーヘッケ家の者が参加しないのは少し」

「あ~。確かに」

馬好きなあの王子は、ミシュの実家からちょくちょく馬を買っているらしい。

お得意様の結婚式に誰も来てないのは、商人的な発想としては宜しくないかもしれない。

そう言われると断る理由もない。むしろ助かったかもだ。

「ならお願いしても平気?」

「はい。私が隊長の様子を見ていますので、アルグスタ様もどうか心穏やかに参列して下さい」

「うん。ありがとう」

ノイエはドラゴン退治をしていれば幸せだから心配ないけどね。

『ミシュと打ち合わせをするので』と言ってフレアさんが部屋を出て行く。

「……見たくない物もあるのね」

はい?

パタリと閉じられた扉の向こうからそんな声が聞こえた様な気がした。

空耳かな? それかこのお城は隠し部屋とか多いし……誰か居たのかな?

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