軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私の専門はこれだから

ユニバンス王国・王都王城内アルグスタ執務室

「納得いかないんですけど~」

「知りませんよ」

「ブーブー」

「仕事をしてください」

腰に手を当ててクレアがプンスコと怒っている。上司に対して厳しいヤツだ。僕はもっと心優しい部下が欲しい。

ポーラのような素直で優しい部下たちに囲まれていれば、僕は常に心穏やかに仕事が出来るだろう。

見なさいあの妹様の姿を。氷で梯子を作って天井の隅を掃除しています。

妹様。その梯子は使用後どうするのですか? 外に投げ捨てておけば気温で溶けると。ただこの時期なのでメイドさんたちが梯子を回収して行って別の物に使うと。

ああ食材とか冷やすのね。なら良いです。その梯子を砕いて別のことに使用していたら問題があるな~ってね。

ちょっとこっちを見ていたメイドさんたち。どうして視線を逸らしたのか話を聞こうか?

『急ぎの仕事があるので』とか言いながらメイドさんたちは逃げ出した。

まさか本当に『ポーラ様が踏んだ氷』とか言って変なことに使用していないよな? ミネルバさん丁度良い所に。実は……ちょっと待て。何その『それがあったか!』的な驚きの表情は? 君も少し話し合いが必要ですか? 自分はやっていないから無実? まあそう言うなら……で、何故軽くストレッチ? 逃げたメイドたちを締め上げる? ほどほどにね。

恐ろしい笑みを浮かべてミネルバさんが消えた。

あれは下手したら始末する系の……怪我も治ってないし無理はしないと信じたい。

ミネルバさんの首の傷は、ポーラが言うには綺麗に接着されているらしい。

『接着?』という単語が気になったが、あの悪魔が瞬間接着剤で綺麗に貼り合わせたとか。大丈夫なのかそれって?

「いい加減仕事をしてください」

「へいへい」

書類を抱えたクレアが怒って来るので、仕方なくピラピラと書類の束を捲る。

だがやる気などは無い。よって机に頬杖をついてダレる。

何か僕がたった1日休んだだけで、ブルーグ家に関する色々なことが話し合われ決定していた。当事者である僕らを無視してだ。これで納得しろとか無理がある。

勿論今朝から文句を言ったさ。一番言いやすい相手と言うことで馬鹿兄貴の所に殴り込んださ。するとだ『昨日休んだお前が悪い』だと。ふざけるなと言いたい。

何か地味な嫌がらせは無いかと言うことで、パルとミルの前で新作ケーキを食べてやった。

一緒に食したポーラが凄く気まずそうにしていたが、お兄ちゃんの命令は絶対です。君も一緒に他人に不幸を押し売りする快感を覚えましょう。

で、ブルーグ家だが王家の息のかかった人物が後継人となり存続することが決まった。

現在誰を次の当主にするからで揉めているらしい。というか揉めるようにしたらしい。

当主候補が全員子供なのもあって、それぞれの母親が『是非我が子を!』となるわけだ。

で、互いに足の引っ張り合いやら密告やらで……まだまだ弱体化を狙っているとか。酷い話だ。ミジュリが知れば喜ぶか? あれは自らの手で復讐を成し遂げたいと願う人間だったな。

バッセンは現在治療をしながら壊れた理由を解明中。

僕が容疑者になっているが、ウチには精神操作系の魔法使いは……居るけど居ない。ユーリカは発動条件が謎だから頭数に入れていない。幽霊なのに魔法を使えるようになったらマジで怖いわ。

代わりに『あの異世界の魔道具じゃないですか? 何か形状も違ったみたいだし』とか言って茶を濁しておいた。

その異世界ドラゴンを召喚した魔道具については謎のままだ。

ポーラの中に住まう悪魔も『あんな一瞬で分かるかボケ。異世界舐めるなよ?』とか良く分からない逆ギレをしていた。たぶんあれはマジで分からなかった系だと思う。

まあそんな感じでブルーグ家問題は解決した。

そう。ブルーグ家はね。

新しい問題は、ミジュリが持っていた魔剣だ。短剣だ。

各貴族たちが揃って購入を希望している。持ち主は僕じゃないということで誤魔化そうとしたが、『なら持ち主を紹介しろ』という話に発展した。

一応ちょっとだけノイエを呼んで中の姉……ファシーが出て来て教えてくれたが、作ったエウリンカに確認して貰ったら返事は簡単だった。

『あんな駄作など好きにしてくれて良い』だと。

作った本人は駄作と言っているのに、周りの評価は凄く高いとか何なの?

結局あの魔剣の持ち主はグローディアなのでと言うことで、後日確認しますを言い訳に今日の所は解放された。

それから執務室に戻るまでに有力貴族たちからの袖の下攻撃が。特に張り切っていたのがクロストパージュ家だ。

『現金でも物納でも何でも応じるから是非とも』と騒いでいた。

現金は分かるが物納って? 芸術品とかですか? それでも良いけど未婚の娘がまだ居ると。年齢は? 僕は姉ほどの年齢の女性は間に合ってますんで。だから年下が好きと言うことではない。その年齢はもう孫のレベルだよね? 全員未婚? 当たり前だろうこの糞親父。ちょっと表に出ろや!

クロストパージュのエロ親父に教育的指導を課そうと思ったら、横合いからメイドさんが手を伸ばしてきた。

古めかしいメイド服を身に纏った……笑っているのに恐ろしい気配を発する二代目メイド長だった。

『ちょっとこれをお借りします。大丈夫です。命までは……』との言葉を残し父親を引きずって離れて行った。最後までエロ親父は僕に救いを求めていたが、親子の語らいを邪魔するほど僕は無粋ではない。確りと半殺しに合えば良い。

それが本日の午前中の業務内容だ。ぶっちゃけ仕事などしていない。

少しは働けという声が聞こえてきそうだが……睨むなクレア。少しは上司を労われと言いたい。

「「……」」

眠るリグを抱えて移動していたレニーラとシュシュは、それを見つけて動きを止める。

そう言えば今回恐ろしいまでに静かだった人物は……壁に向かい延々と書きものをしていた。

指先に魔力を込めて削ると壁にはしばらくその文字が残る。

それを使って壁一面に魔法語や図のような物を描き続けているのだ。

黙々とその作業をしているのはドレス姿のグローディアだ。

睡眠も食事も必要としない体を酷使して彼女は魔法研究を続けている。

はっきり言ってその様子は鬼気迫るものを感じる。

「……なに?」

黙って見つめていたレニーラたちにグローディアの方から声をかけて来た。

ジロリと向けられた目に恐怖を覚えるが、シュシュは興味深く壁を見つめる。

「全部~転移の~魔法~だね~」

「私の専門はこれだから」

「ほへ~」

所狭しと書かれている物を見つめシュシュは素直に感心した。

ここまで転移魔法に特化した研究をしている者などそうは居ないだろう。

だがここに居る。グローディアは研究している。

ノイエと言う大陸屈指の魔力量を誇る存在が居ればこその研究だ。

「たぶん~どれも~ノイエーじゃ~ないと~使え~ないね~」

「構わないわよ。全部ノイエが使用することが前提なんだし」

「だよね~」

案の定な答えにシュシュは納得した。

ただやはり自分にはこの手の魔法は無理だと思わされる。

読み解くとは出来てもこれを見て改良することは出来ない。全てを理解する魔女は本物の天才なのだと痛感させられた。

「お姫様~」

「なに?」

「どうして~これは~大きく~×なの~」

シュシュの問いに手を止め、グローディアは破棄した魔法語と図式に目を向けた。

「……その方法だと転移する物や人が耐えられないの」

「つまり~?」

「転移後にぐしゃっ」

「分かり~やすいね~」

グローディアとしては良く出来た考えだと思っていた理論だ。

ただ途中で感じた違和感の正体は、ある一定の進みで判明した。

転移対象が潰れてしまうような魔法を転移魔法とは言わない。それは攻撃魔法だ。

「ん~」

シュシュはその魔法に興味を覚えた。

何となくだけどどうにか出来そうな気がするのだ。

転移魔法は専門では無いが、シュシュには天才的と呼ばれるほど1つの分野を修めている。封印魔法だ。

「これって~封印の~魔法で~こんな~感じに~覆って~使ったら~ダメ~?」

フワフワと揺れながらシュシュは、掌にクルクルと封印魔法で繭を作り出す。

それを見つめたグローディアは、天啓を得たかのように両眼を見開いた。

「これで衝撃は抑えられるの?」

「試して~みないと~?」

ワシッとシュシュの肩を掴み、グローディアは激しく前後左右に振る。

「今すぐ試すわよ! 魔女は? アイルローゼは!」

強引にシュシュを連行していくお姫様を見つめ……リグを抱えながらレニーラは思った。

本当にここに居る人たちは、自分勝手な者たちばかりだと。

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