軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

君の復讐はあれで終わったのかね?

「なに?」

魔眼の中に戻ったミジュリは前もって決めていた言葉を口にした。

あれほどのことをして実際失敗して戻って来たようなものだ。これほどの恥は無い。

だから虚勢を張っての言葉だったが、

「……なに?」

魔眼の中枢はミジュリの想像を超えた状況だった。故に呆れてしまう。

魔女は壁に頭を打ちつけて何やらブツブツと呟いている。

歌姫はその様子からたぶん死んでいる。

唯一無事なのは変人で有名なエウリンカだ。

床に座り込んで背中を壁に預けている。その様子は気楽な物だ。

「その蔑むような視線は何かね?」

「自分の胸に手を当てて考えれば分かるわ」

「ふむ。大きくて邪魔臭いだけの存在なのだがね」

本当に胸に手を当てた変人がしれっとそんなことを言う。

ミジュリは軽く肩を竦め……その場を離れるように足を動かした。

「聞きたいんだが良いかね?」

「……何よ」

エウリンカに呼び止められてミジュリは足を止めた。

「君の復讐はあれで終わったのかね?」

「……」

警戒する相手にエウリンカは軽く両腕を開いて肩を竦めた。

「ただの好奇心だ。だから警戒せずに気楽に答えて欲しい。君の復讐はあれで終わりなのか?」

「……終わってはいないわよ。でももう復讐する相手が居ない」

ブルーグ家の当主であるバッセンが壊れてしまった今となっては、直接恨みをぶつける相手が居ないとミジュリは理解していた。

「別に壊れていても“壊し”に行けば良いだろう?」

「……そうね。その通りね」

相手の言葉はもっともだった。それをミジュリも理解しているのだ。

理解はしているのだが……もう気が進まない。正直面倒臭いという感情が勝っている。

「あれが壊れたと聞いたらどうでも良くなってしまったのよ」

「そうか」

「それに……」

視線を巡らせればノイエの視界の中にはファナッテが居る。

『それならもう一層のこと全裸で良いのでは?』と言いたくなるような衣装を纏って何故かノイエに勝ち誇っている。その姉の様子にノイエもまた着ていた衣装を脱いで捨てて……こっちも『もう全裸で良いのでは?』と言いたくなる衣装を身につけた。

どうやらどちらがより相手を誘惑できるのか衣装で張り合っているらしい。

「この馬鹿を殺すのもどうでも良くなってしまったのよ」

「殺せないから諦めたの間違いでは?」

「殺せるわよ。ただ面倒の方が勝るだけ」

「そうか」

納得したように変人は頭の後ろに手を組んで壁に寄り掛かる。

「なら君はこれからどうするのかね?」

「……どうもしないわよ。もう私のやる気は無くなった」

「それはノイエに殺して貰えないからか?」

ジロリと睨んでくる相手にエウリンカは苦笑する。

「あくまでこれは自分の考えだが……別にノイエがああなってしまったことは、君1人が原因では無いと思うのだが?」

「そうね」

「でも君は自分のせいにした。そして死にたいと願った。それは何故かね?」

「……また好奇心?」

「そうなのだろうね。嫌な性分だと自分でも思うよ」

「本当にね」

投げやりに答えてミジュリは歩き出す。

が、直ぐに足を止めた。振り返ることはせずに口を開く。

「……私はあれをずっと屑だと思っていた。でも自分もそれに負けない屑だった」

「ふむ」

「だからよ。だから私はきっと死にたかったんだと思う。あの日からずっと……」

全ての罪をファナッテに押し付けてもミジュリは『死』から逃れることは出来なかった。

処刑台に昇り、自分の死を確信していたら……あの場所へと連れて行かれた。

それからはもう何もする気など起きなかった。ただただ死にたかった。

『お姉ちゃん。何しているの?』

そう言ってやって来たのがノイエだった。

明るく笑う少女が……ミジュリは嫌いだった。

汚れている自分を見透かすような純粋な目が嫌いだった。

でもノイエは時折フラッとやって来ては甘える。どんなに嫌っても甘える。

特に死にたくて仕方ない時などは必ずやって来た。やって来て甘えてくれた。

自分が死なずに済んだのは彼女のお陰だ。

ノイエのお陰なのだ。

「あの子が笑ってくれるなら私は何でもするはずだった。でもきっと私は本質が醜くて酷い女なのよ。だから普通に普通のことが出来ない」

気づけば復讐ばかり考えていた。

いつからかは分からない。もしかしたら魔眼に入る前からかもしれない。

それはどうしてか……理由など分かっている。

「あの子の感情を、失った感情を大きく揺さぶった出来事をエウリンカは知っている?」

「ノイエの感情?」

「ええ」

ミジュリは寂しげに笑う。

その姿を相手には見せない。自分はそういう女だと深く理解していた。

「あの子の感情は姉を喪った時が一番揺れ動くのよ」

「……だから君はノイエに殺されようと企んだのかね?」

問うエウリンカにミジュリは肩越しに振り返った。

「私が本当に自分の胸の内を語るような女とでも思ったの? そんな訳ないでしょう?」

「……」

笑って見せる相手にエウリンカは軽く肩を竦めた。

「君がそう言うならばそうなんだろうね」

「ええ。そうよ」

視線を正面に戻しミジュリは歩き出す。

「だから私はまた企むのよ。新しい復讐を……それが私だから」

そう言い残し、ミジュリは魔眼の中枢を出て行った。

エウリンカは足を伸ばし膝を組んで天井を見上げる。

どうも色々と人の感情とは難しいらしい。あの感情に共鳴する魔剣などを作れたら面白いのでは……と思っていたら遠くから悲鳴が聞こえて来た。ミジュリの声だ。

悲鳴から泣き声になり、それは叫び声になった。

『貴女がウロチョロとしているから私の企みが失敗するのよ! 謝れライナラ!』と。

《騒がしいな。折角の良い話が台無しだ》

苦笑しながら息を吐き、エウリンカは視線を魔女へと向けた。

額を壁にぶつけるのは流石に止まっていたが、それでもまだブツブツと呟いている。

「魔女よ。まだ気は晴れないのか?」

「……」

「別にノイエの夫に魔法を使ってくれと頼まれただけだろう? それなのにそんなに……どうしてそんなに恐ろしく怖い目を向けけてくる?」

視線で人を殺してしまいそうなほど凶悪な物とかした目を、魔女であるアイルローゼはエウリンカに向けていた。

「それなのに? ことの重要さが分かっていないみたいね?」

「落ち着きたまえ」

「落ち着けですって? どうしたら落ち着けるのよ?」

「だから……自分の言葉が悪かった。そう悪かった」

「何が何処がどんな風に?」

「全てだ! だから落ち着け魔女よ!」

人を殺しそうな気配と言うか殺す気満々の魔女に対し、エウリンカは必死に命乞いをする。

歌姫が生きていればフォローなり……たぶん腹を抱えて笑い転げていただろう。

『最愛の人に他の女性とするから魔法を使ってと言われたのよ? アイルが耐えられるわけないでしょ』と解説までしてくれるだろうが、残念なことに歌姫は現在死人だ。蘇生にはもう少し時間を要する。

「やっぱり胸なの? ねえ?」

「落ち着け魔女! 掴むな! 握るな! 引っ張るな!」

「どれも私には出来ないことなのよ!」

「自分に文句を言うな~!」

必死に逃れようとするエウリンカを押さえ込もうとするアイルローゼ。

2人はしばらく醜い戦いを繰り広げ……戻って来たホリーとファシーはその姿を見ることとなった。

ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸

「この魔法絶対に何か間違ってない!」

僕の全力の叫びはスルーされた。というかノイエもファナッテも聞いていない。

ノイエは分からないがファナッテは話を聞けるほどの正気を保っていない。

もう野生だ。獣だ。ケダモノだ。

動物と化して僕に襲い掛かって来ている。

それに負けないのがノイエだ。

たぶんこっちは正気だ。ノイエが魔法ごときで正気を失うことは無い。

自分から放り捨てて姉の動作を真似ることは多々ある。つまり今のこれがそれだ。

「お兄ちゃん。お兄ちゃん。お兄ちゃん……」

「落ち着けファナッテ! 君は我慢できる子だ!」

「あはは~。いっぱいする~」

「目の焦点が合ってないから!」

次いでノイエまでもがファナッテの真似を!

あの糞悪魔! 僕用の魔法と見せかけてファナッテを狂わせる魔法じゃないか!

なぁ~。むり~。そんな連続は無理~!

夜が明けても夫婦の寝室から彼声が途切れることはなく、ノイエが仕事に行って戻って来ても……姉の“発情”は止まることなく続けられていたという。

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