軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

お前があの毒の息吹か

ユニバンス王国・王都内練兵場

「……ですのでウイルモット様。もし何かあればこのバッセン、王国の為にいかなる仕事でも引き受ける所存ですので、是非それを陛下のお耳に」

「分かった分かった。シュニットには良く言っておこう」

もう何度となく念押しして来る相手に前王であるウイルモットは適当な返事をする。

車椅子で参加した前王は、あくまで親しい友人との談笑の為にやって来たと言うことになっていた。

政治の話……特に自分たちの失敗を敵対勢力の父親に助けて貰うような交渉になど興味はない。

無いのだが無視も出来ない。無視も出来ないのだが……どうせ自分が息子にブルーグ家のことを良く言ったとしても、現王はもう彼らの処遇を決めている。

もし決めていなければ説教どころでは済まない。王として勉強が足らなさすぎる。

「バッセン様」

小うるさいバッセンの傍に彼の部下らしき人物が来て……聞き耳を立てると『ドラグナイト家』の単語が聞こえた。本日の主役であるアルグスタたちが到着したのだろう。

急ぎバッセンは身繕いをし、ウイルモットの傍から離れて行った。

「……親父も大変だったな」

「全くだ」

軽い口調で話し掛けて来たのは、こちらの様子を伺いつつも助けを寄こさなかった息子だ。

「あんな爺に纏わりつかれるなら、まだ不慣れなメイドの方が楽しめる」

「こんな場所で女を漁るな」

「何を言う? 王たる者は女を囲い子孫繁栄に努めるのが仕事だぞ?」

「ならその言葉を後でお袋とスィークに伝えておく」

「お前……リアには告げても良いが、スィークは勘弁するが良い」

父親の言葉にハーフレンは軽く笑い飛ばした。

「あれの部下ならこの会場にも紛れ込んでいるだろよ」

「違いない」

二人同時に笑いだし、遠ざかるバッセンの背中を見つめた。

「さてハーフレンよ」

「何でしょうか?」

「椅子を押せ」

どうやら特等席でブルーグ家の終わりを見たいらしい父親に、息子は呆れながらも彼の背後へ回り椅子を押す。

「なあ親父」

「何だ?」

「……何でもない」

ハーフレンはその言葉を飲み込んだ。

押した車椅子が思いの外軽かったのだ。それが意味するのは……乗っている人物が思いの外軽いと言うことだ。自身の父親がどれ程軽くなったのかは知らない。けれどそれは人として良いこととも思えない。

ただそんな息子の想いを知らない父親は、隣を歩く古くからの友人の娘……フレアの尻を眺めて真面目に考えていた。

どうしてこの娘はいつもこう自身の体型を隠すメイド服を纏っているのだろうかと。

「ノイエ。ご飯は?」

「あと」

「ファナッテ。ご飯は?」

「要らない」

食事を勧めても2人は僕から決して離れない。モテる男は本当に辛いぜ。

両腕を塞がれてしまっている状況はあまり良くない気もするんだけどね。

「んっ」

ノイエのアホ毛がフワっと動いた。

何事かと思えば見知らぬ爺が走って来る。迷うことなく真っすぐと僕らに向かってだ。

本日の僕らに向かい挨拶に飛んで来るのは……余程の馬鹿じゃ無ければただ1人だろう。

ブルーグ家の当主バッセンだ。

あとの人たちが挨拶に来る場合は、少なくともこれからの催しを見てからになる。

「これはこれはドラグナイト卿」

「はて? 誰でしたっけ?」

すっ呆けた訳では無くて一応確認をね。現時点でこの爺は『バッセン(仮)』でしかない。

「これはとんだ失礼を。自分はブルーグ家が当主バッセンと申します」

若干僕の態度にイラっとしているのか、相手の表情が硬い。

自分の息子よりも若い貴族の当主が両腕に女性を抱き着かせている状況って……凄いよノイエ。まさかここまで計算しての?

チラリと彼女を見れば、アホ毛がテーブルの方を向いていた。

ノイエさん的には目新しい料理でも発見したのか、そっちの方に興味津々です。

「これはこれはブルーグ卿。本日はお呼び頂いて」

「何の何の」

「このドラグナイト……妻とその妹、それに有能な部下も連れて遊びに来させていただきました」

ピクッと反応し、爺が下げていた頭をゆっくりと上げた。

この国の貴族でノイエを知らない者は居ない。少なくともノイエほど有名な人物はそうは居ない。

だから爺はノイエを知っていた。

でも……自分が使っていた『道具』の姿形までは知らなかったようだ。

本当に他人の神経を逆なでる天才だな?

「右腕に抱き着いているのが妻のノイエ。背後で護衛をしているのがその妹のポーラ。そして左腕に抱き着いているのがファナッテと申します」

「……」

一瞬でその顔色を蒼くし、爺が数歩後退する。

本当にファナッテが実在するとは思っていなかったのか? それとも連れて来るとは思わなかったのか?

どちらにしろ僕の性格を知っている者なら分かるはずだ。僕なら必ずファナッテを連れて来ると。

「ノイエ。挨拶」

「ノイエ」

軽く右腕を揺らしたらノイエが名前だけ告げた。

「……ファナッテも」

ノイエの反応に一瞬言葉を失ったが、あわてず騒がず左腕を揺する。

「お久しぶりです」

「……本当に?」

「お忘れですか?」

普段のファナッテは喋りも思考もお子様だが、決して馬鹿ではない。

こうして演技をするぐらいの知恵はあるので……今度好きなだけファナッテの相手を務めると言ったら彼女は短時間で台詞を覚えて演技をして見せた。

ぶっちゃけノイエの方が大根役者に見えるほど上手だ。ノイエの場合は感情が無いから、起伏やら抑揚やらに難があり過ぎて演技にならない。基本棒読みになってしまう。

その点ファナッテは、ミジュリの脅しもあったからとても真面目だ。僕の腕に抱き着いたままですけどね。

「私に命令してあんなにたくさんの毒を作らせたじゃ無いですか?」

「……」

一段声を大きくしてファナッテが爺に言葉をぶつける。

「誰でしたっけ? なんとかと言う貴族を殺すのに強力で長く苦しんでから必ず死に至る毒を作れと命令したのは? この私に……ブルーグ家に囲われていたこの私に命じたのは?」

「違う。それは儂では無くて……」

「違うんですか? 私の部屋に来た人たちはいつも言ってましたよ。『この毒があれば御当主様もお喜びになる。良くやったファナッテ』と。それからは褒美として人形を投げ渡されて……今思うと私って本当に便利な道具でしたよね?」

演技のはずだ。台詞だって僕とミジュリが考えた物だ。けれどファナッテの演技が……本当に演技か? 恐ろしいほどにリアルな狂気と恐怖を感じるんですけど?

その証拠に爺はジリジリと後退している。ファナッテがキレてこの場で毒を使うことを恐れているのだろう。その時はノイエの出番だ。ファナッテに高い高いをしてもらう。地上から打ち上げて若干ノーパラシュートダイビングをしてもらう感じかな?

キャッチは任せろ。ノイエは自分の姉を見捨てたりしない。

「御当主様。今日も新しくて強力な毒を作って来たんです。だから褒めてください。この私を……“毒の息吹”と呼ばれるこのファナッテを褒めてください!」

とどめの言葉を発しファナッテが改めて僕の腕に抱き着いて来る。

うん。その柔らかな胸に包まれる二の腕の感触は……悪くない。

ただ毒の息吹と言う悪名を知る者はこの場にも居たらしい。

何せ今日は王都中の貴族たちがたくさん集まっている。あの日と呼ばれたあの事件を調査した貴族たちもこの場にはまだそれなりに居るはずだ。

「ほう。お前があの毒の息吹か」

案の定……どうして食い付いて来たのがウチのパパンなのでしょうか?

そう言えばこの人ってば僕にあの日の関係書類を遺産として渡してくれた人でしたね。どうぞ安らかにお眠りください。南無南無。

心の中で祈る僕を無視してパパンが言葉を続けた。

「魔法学院から新種の毒に関する調査依頼が来ていてのう……知っているか?」

「知らない」

演技を終えたファナッテの口調がまた子供っぽく。

頑張れファナッテ。君はやれば出来る子だ!

「何でもある者を襲撃した暗殺者の“生き残り”が身につけていた魔道具らしい」

その言葉に爺の顔色がもっと悪くなった。

パパンも中々に悪よの~。

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