軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

王妃様

「はて?」

いつもなら執務室の置き物と化している筋肉ダルマが居ない。

椅子に座って手を叩いてるが、長身のメイドさんも留守らしく出て来ない。

ノイエの鎧をどこに手配すれば良いのか聞きたかったと言うのに……使えん兄貴だ。

腹いせに紙に『ち○こもげろ』と書いて退出する。国王様なら知ってるかな?

「先ほどからどういたしましたか?」

「何か股間がな」

「……主?」

「お前に手を出すほど飢えてない」

長身のメイドの冷たい視線から視線を外す。

馬車移動が性に合わないのだが、座り心地に満足を得ない彼は何度も座り直す。

本当は分かっているのだ。

これから出向く場所……その場所に行くことに対し緊張しているのだと。

「落ち着いたらどうですか?」

「分かってて質問したのか?」

「幼子のようにむずむずしていたのでからかっただけです」

しれっと言って来る長身のメイドに肩を竦め、彼……ハーフレンは息を吐いた。

「何故か緊張しちまうんだよな」

「ただご自身のお兄様のお屋敷に向かうだけでしょうに」

「そうなんだけどな……」

渋い表情の主を見つめメイドは心の中で笑う。

兄弟仲は良好であると有名である二人だ。屋敷に向かうことに抵抗があるのは、ただの一点だ。

「王妃様の呼び出しがそんなにも?」

「ああ……そうだな」

腕を組み一点を見つめる彼は、戦時中よりも険しい表情を見せた。

「話の内容は分かっている。アルグの馬鹿と会わせろだろうな」

だが兄との話し合いの結果、出来るだけ回避する方向で決まった。

会わせたくない。彼自身では無くてその伴侶たる彼女をだ。

「最悪はノイエを連れずに会わせるしかないな」

最良の答えのはずだった。ただ問題がある。

「……アルグスタ様が呼べばどこからでも現れると言う話ですが?」

「最悪なことに事実だ。あの野郎は仕組みを説明しないがな」

ハーフレンはその事実を知る第一人者だ。

何度か弟をイジメていたら呼ばれた経験がある。

「ならお屋敷に着いた時点で呼ばれるのでは?」

「だから会わせたくないんだよ。アルグなら問題無いんだが……な」

嫌だ嫌だと首を振って、彼は窓の外に視線を向けた。

王都の中でも有数の広さを誇る屋敷が見える。

次期国王たるシュニットが住まう場所だ。

「ノイエの鎧とな?」

「はい」

「あれはプラチナ製の高級品ぞ?」

「ですね」

「……それを注文したいと?」

「何か問題でも?」

訪ねて来た息子……中身は別人だが外身は見まごうこと無き息子の問いに、国王たるウイルモットも顎髭を撫でた。

「ノイエの稼ぎでも一年分は飛ぶぞ?」

「延べ棒の在庫が減るから大助かりです」

「ふむ。確かにお前の家は何か大きな買い物でもせんと浪費せぬからな」

言って彼は机の上のベルを掴み鳴らす。

ノックと共に入って来たのは初老の紳士だった。

「ドラグナイト家のノイエがプラチナ製の鎧を新しく求めている。相場など気にせず良質のプラチナを掻き集め職人たちに声を掛けておけ」

「はっ」

一方的な命を受け初老の紳士は立ち去った。

「材料となるプラチナを集めねばならん。出来上がるのに早くて三ヶ月。遅くて半年と思え」

「そんなになりますか?」

「ああ。前回の……今の鎧ですら四か月だ」

てっきり直ぐに出来ると思っていた彼は普通に驚いた。

特注品の鎧だからと言われれば納得せざるを得ない。

「なら仕方ないですね。出来たら次からは胸が膨らんだら調整できる物にして欲しいかな」

「何だ? 揉んで育てたのか?」

その国王の問いに、アルグスタは真っ直ぐな視線を返す。

「そこに 胸(やま) があれば征服するべきでしょう。違いますか?」

「うむ。だが 尻(たに) を味わうことを決して忘れてはいかんぞ」

「心得てます」

何故か二人は固い握手を交わした。

「それはそうとアルグスタよ」

「はい?」

「妻が……王妃がお前に会いたがっているのだが」

「王妃様が?」

少し考えこんだ彼は、ポンと手を打った。

「別れていたのでは無いのですか?」

「何をどうしたらそう言う答えが出た?」

普通に質問して来る息子に国王は心底呆れた。

「いやてっきり……王妃様に捨てられて、その寂しさを癒すためにメイドさんを口説いて回っているのかと」

「……妻は良く出来た女だ。昔は怖かったがな。だが何より私は気に入った女が居れば、隣に妻が居ても声を掛ける!」

「いや自慢出来ることじゃないですから。それ」

久しぶりにアルグスタは素でツッコんだ。

「おっきいおにーさんです~」

「何だチビ姫? 今日はこっちか?」

「はいです~」

案の定な提案に四苦八苦しながらもどうにか答えを留保したハーフレンは、帰ろうとした矢先にそれに掴まった。

元気に頭から抱き付いて来たのは、兄であるシュニットの正室たるキャミリーだ。

今年で12のはずだが、普段の言動や行動から幼く見せる少女なのだ。

とりあえず小脇に抱えてクルクルと回していると、場の空気を凍り付かせるような気配を持つ人物が現れる。

「スィークか」

「お久しぶりですハーフレン様」

恭しく 首(こうべ) を垂れるのは、この屋敷のメイド長であった。

彼はスカートが捲れ白い面積の広めな下着を身に着けている少女を担ぎ直した。

「チビ姫のこの癖をどうにかしろ」

「はい。ですがそれをするのはハーフレン様とノイエ様ぐらいなので」

「受け止められるからって怪我でもされたら問題だ」

「ですね。以後少しずつ躾けて参ります」

また頭を下げる。その様子に背中に冷たい物が走るような……そんな気配をハーフレンは感じた。

ハーフレンは昔からこのメイド長がとにかく苦手なのだ。

「なら俺は帰る。チビ姫はどうする?」

「は~い。今日はお屋敷で、皆と遊ぶのです~」

「そうか」

少女を床に下し開放すると、放たれた矢のように庭へと駆けて行った。

本当に裏表が無いほど元気いっぱいな少女なのだ。

「王妃様」

広い庭の片隅にその空間がある。

大きな欅の下、四方を布で遮られた場所だ。

まるで周りの目から何かを隠すかのように。

「どうかしましたか?」

「ハーフレン様がお帰りに」

「そう」

メイド長の声に柔らかな返事が来る。

と、置かれている小型のテーブルの上を主の手が動く。

一冊の本と言うか、束ねた冊子の上をなぞる様に女性の指が這う。

「王妃様?」

「ええ。たまに……見たくなるのよ」

文字をなぞる指は、ある文章を綴る。

それは……『カミューに関して』と。

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