作品タイトル不明
今回はどうやら我々の負けらしい
ユニバンス王国・西部の街ブルグレン
今日も気づけばここに居た。空の上に居た。
急に足場が無くなった感じがして急いで踏んで体勢を整えた。
大丈夫。足の裏で何かを蹴れば浮いていられる。
ゆっくりと辺りを見渡し、ノイエはそれを見つけた。
昨日作った穴にドラゴンたちが集まっている。
本当は燃やした方が良いんだけどとアルグ様が言っていたが、燃やす道具が無いから仕方がない。姉たちなら炎を作り出して燃やせるのだが、自分には出来ない。本当に姉たちはズルい。
「今日は多い」
昨日よりも多くのドラゴンが集まっている。
地面に出来た穴の底で、汚れに顔を押し付け舐めているのだ。
ああして血肉を貪りドラゴンは強くなるという。
でも強くならない。強くない。だって……。
足踏みを止めてノイエは自由落下する。
グングンと近づく地面とドラゴンに対し、その言葉を思い出した。
『殴る時は全力で! もちろん蹴る時も! 手加減なんて相手に失礼なのよ』
カミューの言葉だ。
自分も『姉のように戦いたい』と告げたらそう教わった。
でも最近は全然全力が出せない。
小さいのに大きな姉の姉が揺れる地面が怖いと言う。
地面を揺らしているのは自分だから我慢するしかない。1日数回の全力では物足らない。
でもここは違う。
アルグ様が言っていた。『全力で。おもいっきり地面を殴って来てね』と。
だから昨日も何度も殴った。胸の奥がスッとして楽しかった。
帰ってからその気持ちを伝えて……それから全力で赤ちゃんを得るために頑張った。
凄く体が軽くて何度もしていたらアルグ様が泣きながら『もう寝よう』と言って来た。
まだだ。もっとたくさんしないと赤ちゃんが出来ない気がする。
だから今夜も頑張ろう。何となくだけど今夜も体が軽くなる気がする。
「むぅ」
気づけばドラゴンが居なくなっていた。
少し考えていたらこれだ。やはり数が少ない。
もっと殴りたかったが……居ないのだから仕方ない。帰ろう。
地面を蹴って宙に浮かぶと街の方で煙が昇っていた。
建物が崩れた様子だ。
そういえば昔にもこんなことがあった気がする。
沢山地面を殴っていたら、あちこちで建物が崩れて……あれは何だったんだろう?
帰ったらアルグ様に聞くのも悪くない。ただお腹空いた。やはり帰ろう。
「むぅ」
お腹の前に帰ってから何か……そうだ。赤ちゃんだ。今夜も頑張ろう。
「帰る」
口にして声を出すと意識がスッと遠のく。
いつものことだ。だからそのまま目を閉じる。
「領主様。本日は穀物などを収めた倉庫が複数倒れました。住宅にも多くの被害が」
「分かっている」
報告に来た部下にバッセンは机に肘をついて深く目を閉じた。
あの白い化け物がこの西部の街に来るようになって4日目を終えた。
誰がこんな反撃を想像する? 自分……と言うよりも息子や馬鹿な貴族たちを含め全員がこんな嫌がらせのような攻撃を想定していなかった。
だが効果はてき面だ。
この3日間で住民からの苦情が多く寄せられている。たぶん今日もこのあと来るだろう。
こちらとしては王都に対し苦情を言うのが精いっぱいだ。
ドラゴンスレイヤーの仕事はドラゴン退治だ。普段王都近郊で狩っているから気にしていなかったが、こんな二次的災害が発生するとは。
バッセンは思考を止め、ゆっくりと息を吐いた。
「王都に行かせた者たちとの連絡は?」
控えている部下に問うと彼は軽く左右に頭を振った。
「我が家との関係を少しでも減らすために」
「そうだったな」
分かっていて確認しただけだ。
王都に行かせた暗殺者たちが、自死を覚悟で情報を提供する可能性もある。
それを回避するために極力こちらの情報を渡さないようにと……結果として止める手段を失ってしまった。
「さっさと挑んで死んでいれば良いものを」
「ですがそれですとあの白い化け物が」
「分かっている。ただの不満だ」
こうも簡単に盤をひっくり返してくる相手への不満だ。
「住人たちの不満は何日抑えられる?」
「正直あと2日程度が限界かと。何よりドラゴンも集まりつつありますし」
「ふざけた話だな」
ドラゴン退治をしに来てドラゴンが増えているのだ。本末転倒とはこのことだ。
ただ王都はわざとそうしていると聞く。国中のドラゴンが集まりやすい環境を作り出し引き込んで退治する。それが行えるのはあの白い化け物が存在しているからだ。
「馬鹿者たちはアルグスタをただのお調子者だと決めつけていた。だが結果はどうだ? その考えが間違いであり我々はこうして窮地に追いやられている」
「その通りだと思います」
部下の言葉にバッセンは渋面となる。
「何より向こうは我々を直接攻撃していない。この街にもだ。だが実際は街は多大なる被害を被り住民たちは不安と不満を募らせている」
「はい」
「そして一番の問題は……王弟の部下たちが動き出していることだ」
当初バッセンは王家所属の密偵衆が領内に入り込んでいることなど気にしていなかった。
情報集めは誰もが行う行為であり、それを阻止するのは不可能だと理解していたからだ。
けれど彼らは諜報だけではなく実行部隊でもあった。
攻撃が始まったのだ。
住人の間でその噂は瞬く間に広がっていた。
曰く『領主が敵対するドラグナイト家に対し暗殺者を差し向けた結果、毎日のようにドラゴンスレイヤーが来ている』のだと。
間違ってはいない事実だが、それを知った住人たちの怒りの矛先はドラグナイト家ではなく自分たちへと向けられたのだ。
誰もがドラゴンスレイヤーたるノイエに対し敵対行為を取ることを愚かだと認識している。
その理由は毎日のように地面を揺らされているからだ。彼女と敵対するのは自殺行為であると。
本当に王弟もアルグスタと言う存在も嫌な所ばかりを攻撃して来る。
そしてここに来て屋敷で働く者の中にも連日の揺れで動揺し、『仕事を辞めて故郷に……』と言い出す者も出てきているという。そうなれば屋敷内の人の出入りが増えて穴が生じる。
もしかしたら暗殺者が送り込まれるかもしれない。
噂に聞く『猟犬』が解き放たれていると厄介だ。鉄壁を誇っていた屋敷の守りを崩され、猟犬の牙が自分の喉元を食らう可能性が出て来たのだ。
全てにおいて条件が変わってしまったとバッセンは認めた。
何よりもう勝てないと……その事実を認めた。
「……今回はどうやら我々の負けらしい」
「ですが御当主?」
「分かっている」
負けを認めるのは簡単だ。だが負ける以上は負け方がある。
敵に屈してこちらの力を大きく失う愚は避けるべきだ。
ならばどうする?
「予定通りパットンの首を王都に届ける。あの馬鹿者でも少しは我々の役に立とう」
「はい。ただ」
「分かっている。それでは足らないのであろう」
「はい」
相手は長年仕えて来た部下だけあって本当に優秀だ。
だからこそバッセンはこうして会話をしながら、自分の考えを口にし物事を整理することが出来る。
まず暗殺者たちとの連絡は取れない。
ならばブルーグ家がドラグナイト家に屈したと知らしめ、攻撃することに意味がなさないと知らしめるしかない。
次いでこちらの出費は極力抑える必要がある。
街の被害を前面に押し出し交渉するしかない。
一番の問題は……
「誰が描いた計画かは知らないが、これでブルーグ家は多くの貴族から信用を失うことになるだろう」
「ですが仕方のないことかと」
「そうだな」
深く頷きバッセンは騎士隊長のリンズレンを呼ぶこととした。
急いで実行しなければいけない汚れ仕事が生じたのだ。
ブルグレンに居る王都を追放させられた王家に反する貴族たちの首を討ち取り、それに今回の“首謀者”である息子のパットンの首を付けてバッセンが自ら謝罪に出向くしかない。
「これで我々は西部の雄とは呼ばれなくなるな」
「ですがブルーグ家は残ります。そうすればいつか……いつの日にか必ず」
「そうあって欲しいものだな」
だがそれがブルーグ家の戦い方でもある。
勝っても負けても必ず次に繋がるように仕向ける……そうすることでブルーグ家は残って来たのだ。
ユニバンス王国・王都近郊
クルリと回りながらノイエは地面に降り立った。
いきなり放り出されるのは止めて欲しいとも思うが、今のは楽しかったから良い。
ゆっくりと背後……西に目を向けた。
何とも言えない黒い物が胸の中に広がる。
もやもやと……もやもやと。
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