軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

術式の魔女アイルローゼ

「アルグ様?」

「うん……ん?」

そっと背中に感じる柔らかいのに自己主張の激しい物は、いつもながらにノイエの胸だ。

抱え込む様に回される彼女の細腕に支えられていた。

アカン。完全に寝落ちしていたよ。

「ありがとうノイエ」

「はい」

肩越しにお礼を言うと彼女のアホ毛がフワッと揺れた。

今更ながら自分思うんですよ。ノイエのこの仕組みってズルくない?

ノイエ自身は眠ってても体は動いていた訳だ。その体を動かしていたのは別人の意識だったけど。

朝起きたノイエに少しでも疲労が残ってれば不思議に思うかもしれないが、祝福の効果で彼女は疲労知らずだ。

結果としてほぼ徹夜な僕は完全な寝不足になる。

イジメだ。斬新すぎるイジメだと思う。

「アルグ様?」

「はっ!」

心の中で愚痴ってたら寝ていた。

もうダメだ。馬の速度でなら到着までしばらくかかるだろうしね。

「ごめんノイエ。少し寝るからお願いしても良い?」

「はい」

力強い返事が来たから僕は迷わず目を閉じた。

「魔女の欲って知っている?」

「どこぞの国の魔女は、知識欲とか何とか言ってましたが?」

「そう。魔女が求めるのは『誰も知らないこと』なの」

屋敷に帰宅し入浴と食事を本来のノイエに任せた彼女は、スケスケのキャミソールの裾を抓みこちらを絶対零度な視線で見て来る。

何とでも言え。もう逃げも隠れもせん。好きですが何か?

「私も例に漏れずよ」

「で、僕に何をお求めで?」

近寄ることも許されず椅子を求め、僕はソファーに座っている。

また薄い笑みを浮かべ、彼女は見せつけるように足を組み替えた。

いつも通りベッドの端に座っているノイエの体が、凄く高圧的な女王様に見える。

「私はこの子の術式の大半を支配している。この意味は分かるかしら?」

「さあ全く?」

女王様なノイエとか興奮しない。彼女はメイド姿とかの方が似合うのだ。

スッとこちらに視線を向ける中身が魔女の彼女が薄く笑う。

「……異なる世界」

思わせぶりな言葉に思わず身構えてしまった。

声も発せず本当に薄く笑う赤い目が悪魔に見える。

「心配しなくても良いわ。それを知っているのは"私"だけ。ノイエも、他の人たちも知らない」

「……」

「私が術式を支配していると言うことは、そう言うことよ」

つまりそれ以外にも何かしらの弱みを握っているのか?

心配性なノイエが手当たり次第に術式を使ってくれたリスクがこんな風に返って来るとは。

「……分かった。でも僕はそんなに頭が良くないから難しいことは分からないよ」

「構わないわ」

クスッと笑い彼女は悠然と両手を広げた。

「私が欲しいのは、私の知らない知的な遊戯。それだけよ」

「厄介な問題を……」

でも一つだけなら当てがある。

元居た世界にもマニアが居たあのゲームならもしかすれば。

僕はソファーから立ち上がると、部屋の隅に置かれている机へと向かう。

何かの為に置かれている筆記用具で線を引いて……そして何か所かに数字を書く。

「これは知ってる?」

「知らないわね」

手渡された紙を見つめ彼女が戻す。

受け取り紙に書かれている3×3のマスを指さす。

「この3と3で9のマスが一つ。そしてそのマスが3と3で9個ある」

「ええ」

「このマスには何か所かに数字が書かれている。1つのマスに1から9まで使い数字を埋める」

「簡単ね」

そう簡単に見えるが、やると物凄く時間潰しになるゲームだ。

「一つのマスに数字を入れる際、横の列と縦の列とで同じ数字は使えない」

「……」

スッと彼女の目が細まった。

「つまり異なる数字を入れながら重ならないようにして行くのが、これの決まり」

「……面白そうね」

薄く笑ってノイエが……表に出てきているアイルローゼが食いついた。

このゲームは『数独』と言って、僕が通っていた学校である時期めっちゃ流行った。

その時の最難関問題を書いて彼女に提示したのだ。マスに入れる数字が余りにも少ないから忘れずに覚えてました。

「これが解けたら次の問題もある。それでどう?」

「良いわ。その条件で私が貴方の先生になってあげる」

ゲーム好きの彼女をどう引き摺り出そうかと考えていたら、向こうから出て来てくれたのはラッキーだ。

紙をノイエに手渡すと、彼女はそれをチラッと見てベッドの上に置いた。

「なら今日はどうする? いきなり座学から? それとも質問かしら?」

「分かってるでしょ?」

意地が悪い人だな。

薄い笑みを浮かべ、ノイエの顔が答える。

「紙に書いた術式では、魔法は使えない」

フワッと立ち上がった彼女が机に向かうと、そこに置かれた紙に羽ペンを走らせる。

「こんな感じで簡単に作れるけど」

彼女が抓む様に持った紙は、薄い光を放つと……全体が焦げてしまった。

「強度不足と私は思っている。だから術式はプラチナ製のプレートを使うのよ」

軽い足取りで彼女はベッドに舞い戻る。

「貴方の部下の子が使っているあの矢の中にだって、プラチナ製のプレートを使っているのよ」

思い出したかのようにアイルローゼが告げる。

「矢の先端に取り付けられた飾りが衝撃を受けて縮むと、中の小型プレートが一枚のプレートになる様にかみ合うから爆発する。たぶんそんな仕組みでしょ?」

軽く言ってくる言葉は正解だった。正解なんだけど、

「……分解したの?」

「見れば分かるわ。あんな玩具」

ルッテの矢って結構上位の秘密事項のはずなんだけどな。見て解っちゃうんだ。

また薄く笑って悪魔のような彼女がウインクして来る。

「私だったらもっと酷くて面白い術式を教えてあげられるわ?」

「いや結構です。出来たら普通の……」

と、思い出して棚に隠してあるグローディアの本を手にする。

この中に書かれていた……これだ。

「この術が使えるようになりたいんだけど」

広げて彼女にかざすと、目を細めて覗き込んだ彼女は薄く笑った。

「こんな簡単な術で」

「これに祝福も乗せて使えるようにしたい。出来る?」

スッと細まった目が鋭く僕を睨みつけた。

「それはこの術式を基礎として別の術を作ることになるわよ?」

「構わない」

「……詠唱じゃ無理ね。体に複数のプレートを埋めることになるとしても?」

「構わない」

痛いのは嫌だけどノイエを守る力くらいは欲しい。

「そう。なら貴方に頂いたこの遊戯と一緒にしばらく楽しませて貰うわ」

薄く笑った彼女は、僕に手を伸ばし抱き付くと……意識を手放したように力を無くした。

ちょっと待て。いきなり脱力のノイエを預けるなっ!

必死の思いでノイエをベッドに押し倒すと、パチッと彼女の目が開いた。

「……する?」

「もう寝ます」

「……はい」

残念そうな声を聞きながら窓に目を向けると、あはは……もう外は明るんでやんの。

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