軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ファナッテって知ってる?

ユニバンス王国・王都王城内近衛団長執務室

「で、その人物は居るのか? 前にお前が名前を上げていただろう?」

「知らん」

「おい」

睨むな睨むな。皆まで聞け。

「と言うか本当に全てを把握してないんですってば。ノイエの関係者には秘密主義な人が多いんだよね。王族である僕のことを信用していない人も居るしさ。だからこっちも地道に人脈を切り開いているんです」

「……まあ良い。そう言うことにしておこう」

納得していない様子で馬鹿兄貴が紅茶をがぶりと飲んだ。

実際本当に僕もノイエの魔眼の中を全て把握していないんだけどね。

何度か口の軽そうなレニーラに探りを入れているけど、『勝手に言うのはね~』とはぐらかされる。勝手に言いふらすことは良しとしていない様子なので、間違ってポロっと呟くのを拾い上げるしかないのです。

僕も苦労しているのだよ。

「ファナッテについてお前は詳しく把握しているのか?」

「あの日の1件に関する知識でしたら第一人者を自負していますが何か?」

「ならブルーグ家がその人物を探す理由は分かるか?」

「把握して無いのかよ近衛」

軽く睨んだら馬鹿兄貴は肩を竦めた。

「資料は全てお前が個人所有している状態だろうに」

「ああ。亡きお父様の遺品ですから」

「生きてるぞ。今日も陛下の代理で仕事をしている」

「だからフレアさんが来てたのね~」

色々と納得だ。と言うか元気に仕事が出来るなら、もう少し城に来てお兄様を助けてやれと言いたい。

何の呪いか色々と厄介ごとを抱えてやすいお兄様は最近は胃の上を押さえることが多いとか。今頃はチビ姫と仲良く温泉を巡りながら東部の街々を巡っているはずだ。

東部でイベントがあるとか言ってたな~。

チビ姫がお尻を振りながらそんな自慢をしていたので、蹴りやすそうな尻を蹴ったらマジで泣いていたが。

「で、何か思い当たることはあるか?」

「ん~」

ファナッテね。

「別名『毒の息吹』と呼ばれる魔法使いですね。生まれた時から毒魔法を操っていた天才とか」

「毒か……それは厄介だな」

馬鹿兄貴がチラリと視線を向けるとイケメンさんが何やら資料を捲り始めた。

「それだけか?」

「何でも知っているわけじゃないないぞ」

僕が知っているのは資料の範囲内だけだ。

「新種の毒物を作ることもあったとか」

「それか。それでイールアムの1件を怪しんでまた探りを入れて来たか」

「納得だね~」

新種の強壮剤を毒薬と勘違いして探りを入れて来たという辺りか。

「ただそんな露骨なことをしたらブルーグ家も怪しまれるでしょう?」

「……そこが今、一番頭を抱えているところなんだよ」

「はい?」

本当に馬鹿兄貴が頭を抱えました。

「あの一族は基本能力主義なんだ」

「はいはい」

「で、今回お前に対する暗殺者を一番送り付けている」

「どうやらノイエと一緒に挨拶する場所が判明したらしい」

いざ行かん。西部の敵の元へ。

「止めておけ。もっと面倒臭いことになるぞ」

「何よそれ?」

ソファーから立ち上がろうとする僕を馬鹿兄貴が言葉で制して来た。

人の命を狙っておきながら挨拶に行ったら面倒なことになるとかどんなイジメですか?

「あの一族はもうことの終わりを想定して責任の取り方を決めている」

「はい?」

「だからお前が死んでも死ななくてもブルーグ家は現当主の嫡男の首を差し出して手打ちにすることが決定しているんだよ」

「はい?」

何それ?

抱えていた頭を解放して馬鹿兄貴が薄く笑う。

「ブルーグ家としては手柄を欲して暴走したという名目で無能な嫡男を廃する。ついでに全ての責任を背負わせて王都に首を差し出せば他家への面目も保たれる。ブルーグ家としては無能な跡取りを廃して優秀な跡取りをその後に据えることが出来る。完璧だろう?」

そこに当事者である僕の何かは完全に無視されていますけどね。

「あら不思議。僕の命が紙の様だ」

「そう言うことだ。それがこの国でも厄介な西の雄ブルーグ家なんだよ」

「どうして僕がそんな家に狙われるのかを問いたい」

間違ってもそんな面倒臭そうな一族に喧嘩など売っていない。

「お前が王都から追い出した者たちが結構な数、西へ流れていてな」

「ほほう。で、何割よ?」

「何がだ?」

惚ける気か?

「西に流れたという貴族たちの主な原因」

「7と3ぐらいか」

「つまり7割は僕が、」

「3割がお前で7割が俺たちだな」

「なるほど。……ノイエ~」

どうやらノイエを連れて一緒に挨拶に行くべき相手は目の前に居たらしい。

ちょっと窓の外に向かって声をかけたら、ドロッとしたノイエが張り付いた。

本日も無表情でドラゴンを殺戮して回っているらしい。

「……なに?」

ポーラが気を利かせて窓を開ける。

ただ自分の状況を把握しているのか室内には入ってこない。

こうした気配りを常にしてくれるとノイエは増々良いお姉さんに成れるのにな。

「ファナッテって知ってる?」

「誰?」

「毒のお姉ちゃん?」

「……知らない」

アホ毛が綺麗な『?』の形をしているから嘘ではなさそうだ。

「ありがとうね。お仕事頑張って」

「はい」

音を立てずにノイエが消えた。

視線を馬鹿兄貴に向けると……流石近衛団長だ。顔色は悪いが逃げ出すことも無くソファーに座って居た。

代わりにパルとミルは壁際に移動して抱き合って震えているし、イケメンさんは気配を消して机の下に居た。素晴らしい部下たちだな。

「やっぱり知らないって」

「お前……絶対に別の理由で呼んだろう?」

「知らんな。お前がそう思うなら何が7割なのか語るが良い」

「……だから兄貴と組んでお前の名義で王都で悪さをしている上級貴族を追い出したんだ」

「もう1回呼ぼうか?」

「終わったことだ気にするな」

無理があるだろう?

「その追い出された貴族たちは西と南に流れた」

「北は大半が荒れ地ですし、東部はクロストパージュ家が居ますからね」

「それぐらいは理解できたか」

「失礼な」

僕を何だと思っているのか、ノイエ同伴で納得いくまで語り明かそうか?

「ただ南は頼るべき大貴族が少なくてな」

「あれは悲しい出来事でした」

何かを思うように遠くに視線を向ける。

「お前の実家が消え失せただけだがな」

「皆まで言うな。僕は気にしていない」

「お前がそう言うのであれば構わんが」

何度も言っても記憶にない実家の話をされてもね~。

本来のアルグスタなら何か思うこともあるでしょう。僕には分かりませんが。

「で、西に流れた大半がブルーグ家へと向かったわけだ」

「ふむ」

馬鹿兄貴の説明で馬鹿貴族たちの流れは分かった。

「それでその馬鹿貴族たちが僕に逆恨みして……と言うのが現状?」

「それも若干違うんだよな」

まだ複雑な何かがあるのか?

「ヘイヘイ馬鹿兄貴。全部語りなさい」

「聞きたいなら語ってやるが、馬鹿貴族たちとしては恨み半分程度らしい」

「つまり残りの半分は?」

「お前を狙うことで貴族の意地を見せるってことだな」

「何よそれ?」

意地で命を狙われる僕の身にもなれと言いたい。

「だからお前に負けたままだと自分たちの存在価値がなくなる。そしてお前が下の貴族を持ち上げれば貴族の入れ替えで全てが終わってしまう。その流れを作ることは許されないんだとさ」

「ほほう。つまり僕が自分の息のかかった貴族たちを上級貴族にして一大勢力を築いて……長々と回りに回ってそこに着地するわけね」

納得した。

「で、そんな噂を流したのがアンタらで、僕に全ての矛先が向くようにしたわけだ」

「……国内外のめぼしい暗殺者を狩り尽くしていたから大丈夫だと思ったんだがな~」

挙句認めるか。これを。

「計算外を語ることを許そう」

「まさか西部が虎の子の祝福持ちたちを全員動員するとは思わなかったんだよ」

「ほほう」

それは面白く無いですな。

「チビ姫が出立前に3人程度王都に侵入していることを確認している。それを現在洗い出しているんだが、ここまで市井に溶け込むとは想定していなかった。中々優秀な手駒らしい」

「そろそろお嫁さんを呼んでも良いか?」

ちょっと本気のノイエパンチを食らわせてやろうか? エクレアが片親無しになってしまうが……大丈夫。ちゃんと支援して立派に育てるから。

何かを察したらしい馬鹿兄貴が軽くお道化て見せた。

「呼ぶな。だからお前の周りを責任もって近衛の護衛で固めている。感謝しろ? この暗殺者の捜索で忙しい中結構な数を配置してやってるんだからな」

「おうおう。誰が原因だ?」

「……計算外って結構起こるんだよな」

「認めるな。そしてどうにかしろ」

どうにかしろと言いたい。

「……心配するなって」

「その心は?」

「暗殺を仕事にしている者たち全員で考えを持ち寄って話し合ったが……お前の暗殺は不可能だと言う結論が出た。もちろんノイエもだ」

「ほほう。それで安心できるかいっ!」

卓袱台を求む。求む卓袱台だ!

「テーブルを掴んで暴れるな。そのテーブルは見た目より重いぞ」

「……そのようで」

ひっくり返すのを諦めた。

「だからお前は普段通り隙を見せずに生活していろ」

「……だから」

ソファーに座り直して改めて相手を睨む。

「誰を狙うのか聞いている」

「そんなの決まっているだろう?」

馬鹿兄貴はチラリと資料の整理を終えたポーラに視線を向けた。

「お前が暗殺されたら心を抉るほど衝撃を受けるであろう人物だよ。こればかりは相手の趣味趣向だから的が絞り切れない」

「おい」

ちょっと待て。それは笑えんぞ?

「まあこっちもやり過ぎた部分もあるが、そもそもお前の悪名に便乗しただけだ」

若干前のめりなって馬鹿兄貴が睨み返してきた。

「無茶をすればこんな風に返って来ることも理解しておけ」

「……」

真っ直ぐ威圧的な目が僕を見る。

「お前は貴族の矜持を軽んじすぎたんだ」

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