軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第六試合1人目は

ユニバンス王国・王都内勝ち残りトーナメント会場

「あ~負けた」

「……」

腰に棍棒と……をぶら下げて戻った来たジャルスに視線が集まる。

負けたら僕等が居る特別観覧席に戻って来てとジャルスやカミーラには言ってある。馬鹿な貴族が勝手に動き出して問題を起こされると厄介だからだ。

ただやって来たジャルスを見た馬鹿兄貴が反応し、背後に立つフレアさんが黙って彼の首を絞めた。

流れるような動作で王弟の首を絞めるメイド長……この国だからこそ許される行いだろう。

「負け犬が」

「何だ魔女? 喧嘩なら買うぞ?」

腰の棍棒に手を乗せジャルスが椅子に座る先生に牙を剥く。

その豊かな胸を張って……そろそろその胸に抱きついたままのノイエを引き剥がした方が良いのでしょうか?

「ノイエさんノイエさん」

「あび?」

谷間からくぐもったノイエの声が響いて来た。

だからポーラは自分の胸を見つめて肩を落とさなくても良いんです。これはあれです。長身+巨乳だからできる曲芸です。たぶん。

「そろそろ離れなさい」

「……」

「ノイエ?」

「……」

気のせいかノイエのアホ毛がへんにゃりとして……寝た振りか?

「離れなさい」

「……」

「仕方ない」

ジャルスに対し正面から張り付いているノイエのお腹に手を回して引っ張る。

しかし離れない。何て抵抗だ。全身吸盤か?

「諦めろ馬鹿王子。こうなったノイエはしばらく離れない」

「って邪魔でしょう?」

「……慣れたよ。この頑固者の甘えにはな」

言ってジャルスは僕が使っていた椅子に腰かけ、ポーラに飲み物を頼む。

その状態でも離れないノイエは本当に凄い。

「あんな手抜きをして……破壊魔の名が泣くわよ」

「仕方ない。こんな場所じゃ暴れたくてもな」

アイルローゼの皮肉をジャルスは受け流す。

ポーラが入れた紅茶を啜り、カップをノイエのアホ毛の上へ置いた。

テーブル替わりを務めるノイエのアホ毛はやはり色々と狂っていると思います。

「私もカミーラも本気を出して暴れれば死人が出てしまう。それでも構わないというのならやるが?」

「すれば? その時は私の魔法でその頭を溶かしてあげるから」

「ほう。ならどっちが相手の頭を潰すのが速いか勝負でも、」

「ダメ」

不穏な空気を察してノイエが顔を上げる。

喧嘩腰の2人の姉を見てけん制している感じだ。

「喧嘩はダメ」

「……分かったわよ」

「ふんっ」

ノイエの仲裁で喧嘩は収まり、アイルローゼは本を読みだしジャルスはポーラに軽食を求める。そしてノイエはまた谷間に顔を埋めている。

それで良いのかノイエよ?

「おっ次の試合が始まるぞ」

首を絞められていた馬鹿兄貴が復活し、その声に僕らは視線を舞台へと向かう。

ノイエが出場しない試合で一番盛り上がりそうな組み合わせが来た。

串刺し対食人鬼の戦いだ。

「第六試合1人目は、トリスシア」

「おう」

今度は最初から金棒を出した状態でトリスシアは舞台に上がった。

これでもかと全身に力を滾らせ、筋肉が膨張している。

オーガの名に恥じない凄まじい気配に、観客席の者たちが自然と唾を飲みこんだ。

「2人目はカミーラ」

「ああ」

座って居た椅子から立ち上がり、カミーラは軽く首を鳴らすと舞台へと上る。

何度か靴の具合でも確かめるように左右の爪先を石畳に打ち……そして持って来た槍をクルっと回して脇に挟んだ。

「では2人とも始めなさい」

審判の号令に対峙した2人は動かない。

その性格から一直線に飛び掛かるものだと思っていたトリスシアが動かないのだ。

慎重に握りしめた金棒をカミーラに向けて構え、ジリジリと爪先だけを動かし間合いを確認する。

「つまらない戦いを選ぶのか? オーガ」

「ああ。つまらないな」

にじり寄っていたトリスシアは相手の言葉を素直に認めた。

だから足を止めてそのまま数歩後退する。

「強いなアンタ。化け物か?」

「化け物に化け物と呼ばれるのは心外だな」

「そうか。なら言葉を変えよう」

ニタリと笑いトリスシアは牙のような犬歯を見せる。

「本当に人間か?」

「……たぶんな」

その問いにカミーラは苦笑で答える。

「ただ不思議と私より強い人間に出会わないんで最近疑問には思っているが、少なくとも怪我をすれば血だって流れる」

「そうか」

「でもまあ……簡単には死なないらしい」

増々凶暴な笑みを浮かべトリスシアは笑う。

「なら全力を出しても良いんだね?」

「構わない」

カミーラもまた笑う。

戦場で恐れられた最強の死神は笑って槍を構えた。

それはさながら死神の鎌を思わせる。

「全力で来い!」

「言われなくても!」

笑いながら両者が全力で激突した。

「モミジさん。居ますか?」

運営の手伝いをしているメイドたちに声をかけ続け、少年のような容姿を持つアーネスはようやく婚約者の居る部屋へとたどり着いた。

彼が訪れた場所は今回の為にと借りられた選手控室の一室だ。

本来は宿屋として建設されていたが、オーナーの意向により各部屋に風呂が付けられ何故か一室しかない部屋には大きなベッドが置かれていた。

ぶっちゃければラブなホテルを連想させる間取りとも言える。

ちなみにこの宿のオーナーは上級貴族のドラグナイト家だ。

駆け寄ったベッドには誰かしらが横たわっていた。

判別できないのは頭から爪先まで白いシーツが掛けられていたからだ。

アーネスは慌ててベッドに駆け寄った。

シーツの下に居るであろう人物は震えていた。身を隠しているシーツが震えている。

『今回は絶対にトリスシア様にあっと言わせて勝利してみせます』と彼女は宣言していた。

幼い頃から育った場所では家族以外に負けたことが無く、『天才』と呼ばれていた彼女がこの国に来てからは連敗続きだ。普通なら挫けてしまいそうな環境でも彼女は挫けず腐らず鍛錬をし続けていることをアーネスは知っている。

《僕がちゃんと慰めてあげないと》

それが男の務めだと、握りしめていた手を解いてシーツを掴んだ。

「モミジさん。今回がダメでも……」

捲ったシーツに隠れていた彼女を見つめ、アーネスは動きを止めた。

モミジは泣いてなどいなかった。

雌の顔をして、着物を開けさせて、自分の指をして……慰めていた。

「止まりません。止まりません。止まりません……」

囁くような彼女の声はシーツによって隠されていたようだ。

ただ蓋を失い解放されてその声がアーネスの耳に届く。

ある意味でいつも通りのモミジだった。

「……アーネス様?」

全身を震わせて手を止めたモミジが薄目を開いて彼を見た。

「えっとモミジさん。大丈夫で、」

「ダメです!」

「うわぁ~!」

飛び掛かって来た相手に掴まれて一気にベッドへと引きずり込まれる。

正気を失った目で馬乗りして来る彼女に……アーネスは激しく恐怖した。

恐怖する。恐怖はするのだが……同じぐらいに興奮もした。

「火照りが収まりません。アーネス様」

「うん」

「申し訳ありません!」

言葉と行動が完全に別だ。

一方的な猛攻に……隣室で休んでいたリディは聞こえてくる叫び声に反応し、『場外乱闘か?』と仲裁の為にモミジたちが居る部屋へと駆け込んだ。

確認し、認識し、一瞬でリディ沸騰し……その場から逃げ出した。

後にアルグスタは馬鹿カップルが1日以上部屋から出て来なかった報告を受けることとなる。

それと部屋の掃除に高額の費用も掛かると知って……黙って変態娘の給料から天引きすることを部下へと命じたのだった。

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