軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

正しいツッコミを求む!

ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸

『大丈夫よ。今日と言う日の為に完璧に仕上げて来た貴女は負けない』

「……」

『自分を信じて全力を発揮するのよ!』

「……」

『聞いてる?』

「はい」

小さく欠伸をし、まだ太陽も昇っていない東の空をベッドから抜け出した少女が見つめる。

たぶん今日も良い天気になりそうだ。

それに曇ろうものなら強制的に晴れにすると聞いた。どんな魔道具なのか知りたくもなったが、別に知った所で天候を操作できる訳でもないので少女は諦めた。

「ししょう」

『なに?』

「このからだでおおけがをしたら?」

『大丈夫。その体は最新の最も人に近いホムンクルスだから血も涙も出るし、股も濡れるわ』

「……いたいんですか?」

『痛覚が無いと人は何処までも馬鹿をしてしまうのよ。だからちゃんと痛む』

「わかりました」

痛いのは嫌だが諦めるしかないらしい。

少女は軽くため息を吐いて急いでメイド服に着替える。

今日の為に準備した真新しい服に袖を通し、姿見の前に立って具合を確認した。

大丈夫だ。完璧だ。いつも通りに不具合は無い。

『大丈夫?』

「はい」

返事をし少女はもう一度鏡の前に立つ。

今回の参加者で自分は下から数えた方が速い実力だと理解している。

純粋に挑戦だ。どこまで戦えるのかを確認して、今後の鍛錬の糧にするのだ。

何より師である魔女から課せられた試練は、新しい“ホムンクルス”と呼ばれる人造的な人の体の確認だ。動作確認と魔女は言っていた。

『弟子よ』

「はい」

クスリと師である魔女が笑う様子が感じられた。

『……存分に楽しんできなさい』

「はい」

ユニバンス王国・王都下町内舞台脇

「お姉ちゃん」

「何よ」

昼からの開始に向け会場には人が入りだしている。

その様子を特別観覧席から見つめていたアイルローゼは、フラフラと歩いているノイエに声をかけられた。

今日のノイエはいつも通りの装備だ。

プラチナの鎧を装備し、その姿は“白”を思わせる。初雪を思わせる儚さと美しさを醸し出しているが、胸に抱え込んだ紙袋が色々と台無しにしている。どうやら中身は肉を揚げた物らしい。

「お姉ちゃんどこ?」

「……ああ」

合点がいった。

ずっとフラフラと歩いていたのは、彼女が“姉”を探していたからだ。

「そろそろ出て来るはずよ」

「どこ?」

「……分かったわよ」

出来るだけ彼の傍に居たくなかったから見世物になる覚悟で特別観覧席に居たアイルローゼだが、妹が甘えてくれば話は別だ。

そっと彼女の手を取りゆっくりと歩き出し運営者控室と銘打たれた小さな建物に入ると、そこでは宝玉が2つ地面に置かれ、椅子に腰かけている彼が何やら鋏で紙を切っていた。

「ノイエを放置して何してるのよ?」

「……お腹空いたって出て行ったんですけど?」

「ノイエ?」

「お姉ちゃんは?」

色々な何かを忘れているノイエは室内でキョロキョロと視線を巡らせている。

一瞬イラっとしたが、アイルローゼは色々な感情を飲み込んでため息を吐いた。

「で、何してるの?」

「抽選のクジ作り」

「クジ?」

「そう」

頷きながら彼……アルグスタは空の箱から名前の書かれた紙を取り出す。

「陛下がこの中から紙に書かれた名前を引いて対戦相手が決まります」

「……仕込まないの?」

「仕込みたいんだけどね~」

どうやら彼は仕込む気満々らしい。

確かにそっちの方が運営する方としては盛り上がるし、観客も楽しめる。

「先生。何か良い魔法は?」

「私が引くなら可能だけど?」

「使えない手法です」

肩を竦めながら彼は最後の紙を切って箱の中に入れた。

「アルグ様。お姉ちゃんは?」

「そろそろ出て来て欲しいんだけどね。セシリーン。2人を急がせて~」

迷うことなく彼は声を出して魔眼の中に助けを求める。

「で、このクジをどうするか?」

「その手のことでお困りな方は、刻印の魔女ちゃんまでご連絡くださ~い」

不意に姿を現し小柄なメイドが怪しげなポーズを決めた。

「呼んだ?」

「呼んでないけど丁度いい。ちょっとこれを細工して」

「ふむ」

腕を組んでユラユラと揺れるメイドは、ピタリと動きを止めた。

「で、組み合わせは?」

「「……」」

その問いにアルグスタとアイルローゼは顔を見合わせ、一時的に部屋の隅に移動した。

「久しぶりの外か」

「ふん」

出て来た2人は面倒臭そうに頭を掻いたりしている。

長身のイケメン宝塚系のカミーラと、長身でグラマラスなワイルド系の美女のジャルス。

並んで立っていると映画か何かの一場面にも見えるが……美形って存在自体がチートな気がします。

「早速で悪いんだけどお2人さん」

「あん?」

「ん?」

「これに着替えていただけますか?」

それぞれ準備した着替えを差し出す。

まあ準備をしたのはポーラの姿をした悪魔だ。ここぞとばかりに趣味丸出しで新作を準備した。

作ったコリーさんはまた徹夜しまくりで燃え尽きたりしていないだろうな?

これが終わったら一度お店の方に顔を出そう。

「で、馬鹿王子」

「ほい」

カミーラの方は問題ない。上は白いシャツで下は黒いスラックスとかチノパンとか呼ばれるような形をしている。たぶん完成形は男性ダンサーの類に見えるだろう。

で、文句を言って来たのはジャルスだ。

彼女の着替えは……ぶっちゃけビキニだ。あの伝説のビキニアーマーだ。

「これを着ろと?」

「僕に文句を言われましても……作ったのはその辺でタコ踊りを披露していた我が家の妹様の姿をした魔女なので……」

「あれか」

呆れた感じでジャルスがビキニアーマーを投げ捨てる。

まあこんなものを着る馬鹿は居ないよな。うん。

ちょっと見たい気もしましたが……これは後に再利用しよう。

こっそりと回収している間に、姿を消していた馬鹿が再度湧いてジャルスに何かを手渡した。

「……まだこっちの方がマシか」

どうやらマシらしい。服装は分からないけど。

女性陣が着替えとなったので僕は目を閉じて2人の着替えが終わるのを待つ。

薄目を開いて確認とかはしない。僕だってやるべき相手は選ぶ。本音としてはここで死にたくない。

「動きやすいが……これって男の格好じゃないか」

「はん。アンタにはお似合いだろう?」

「そう言うお前も良く似合っているぞ。少なくとも見た限りは女だな」

「あん?」

混ぜるな危険らしいカミーラとジャルスの距離が縮まって離れた。

離れた理由は真ん中に立ったノイエだ。両腕を左右に伸ばして2人の接近を阻んでいる。

「ノイエって本当にお姉ちゃん想いなんだね」

「あれを見てそう解釈する貴方も大概だけど」

「褒めないでよ」

アイルローゼが心底呆れた感じで苦笑いを浮かべた。

「喧嘩はダメ」

「はいはい」

「ふん」

適当な返事をしながらノイエから離れたカミーラが辺りを見渡す。

「ノイエの旦那」

「はい?」

「預けた槍は何処だ」

「……」

頑張って思い出せ。槍って何だっけ?

……ああ。帝国の馬鹿軍師の時にコッペルのオッサン経由で届いたあれか。あれってどうしたっけ? 屋敷の宝物庫か?

「あるわよ?」

何故かポーラのエプロンの裏から長い槍が出て来る。

スルスルと……もうマジックの一種化と思うほどのビジュアルだ。

「これでしょう?」

「ああそうだ」

ポーラからカミーラに槍が手渡される。確かに綺麗な槍だ。

「魔剣は多く存在するんだけど魔槍ってあまり作られていないから珍しいのよね」

「そうなの?」

「そうよ。だから貴方の隣の魔女の目が」

「アイルローゼ。ちょっと落ち着こうか?」

知らない間にアイルローゼが魔槍に吸い寄せられていた。

ああもう忙しい。暴れるな。手を伸ばすな。こんな時だけ密着しても気にしないのね。

「刻印の」

「ほ~い」

こっちのトラブルを無視して悪魔がジャルスの元へ。

「カミーラに武器を出して私に無いのはどういう了見だ?」

「ふむ。一理ある」

無いから。

僕の気持ちをスルーして、どこかの悪魔はエプロンの裏をゴソゴソと。

「魔棍棒~」

「正しいツッコミを求む!」

魔を付けた意味は? 棍棒ですよね? 誰が作ったの? ねぇ?

「だからアイルローゼ。あれはジャルスのだから!」

もしかしたら世界に1つしかない棍棒を目にして、アイルローゼの暴走が止まりません。

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