作品タイトル不明
お姉ちゃん面倒臭い
ユニバンス王国・王都郊外北側
「ほう……これは凄い」
「です~」
青空の下、本日は突貫工事でどうにか形にした門の前に国王陛下夫妻を迎えた。
徹夜続きで燃え尽きた学院関係者は端に退かしてウチのメイドさんを並べて見えないようにしている。折り重なった野郎共など見ていても楽しくない。
「それでアイルローゼ」
「はい陛下」
「少し説明を受けたいのだが良いか?」
「はい陛下」
門に触れ色々と確認していた陛下が手を放し、振り返ってアイルローゼから説明を受けだす。
ぶっちゃけポーズだ。日々ちゃんと進捗状況を報告していた。ポーラが復帰してからは彼女が報告書を書いて、それを様子を見に来る騎士に渡して陛下に届けて貰っていた。
ちなみに僕が担当している施設の方もポーラが報告書を書いてくれた。
出来る妹と言う存在はとても有難い。何故世の中には出来る妹や弟を嫌う兄や姉が居るのだろう? 仕事を丸投げにしても健気に全部やってくれるのだ。だったらご褒美にケーキを渡して……これって請け負っている妹や弟の性格によっては僕って殺される対象じゃない?
「ポーラさん」
「はい」
「……いつもありがとうね」
「はい?」
僕の感謝が妹様に通じないだと? もしやストレスが溜まり過ぎて天元突破していますか?
「今度一緒に買い物に行こうね」
「はい?」
また首を傾げたぞ?
「ほらポーラって贅沢しないしね。だからたまには存分に贅沢をして貴族らしく振る舞っても良いんだよ。と言うことでポーラの服とかドレスとか装飾品とか買いに行きます」
「えっと……とくにいらな」
「行きます」
「……はい」
コクンと頷いたポーラがまた首を傾げている。
やはりポーラも色々と我慢しているのかもしれない。
普通この年齢の子供は我が儘言いたい放題だ。玩具屋さんの前で『買って買って』とジタバタと暴れている方が普通だ。それなのにポーラさんはそんな素振りを見せもしない。
我慢は良くない。ここらで息抜きをさせて……僕の身の安全を確保しなければ。
僕とポーラが買い物の約束をしている間に先生の説明が終わっていた。次いで質疑応答だ。
陛下とチビ姫が色々と質問してからたぶん馬鹿な貴族たちが無い知恵を絞って質問する。その前に陛下たちが専門的なことを質問しているので馬鹿貴族たちが質問する意味なんて無いんだけどね。
だったら無駄なことなんてしないで……と視線を向けたら馬鹿共はやはり馬鹿だった。
本日のアイルローゼは足を見せる衣装に戻っています。何故ならば僕が見たかったからです。
まあ冗談だけど何故か先生がそれを着て来たからです。
陛下は先生の足に反応しないけど、取り巻きの馬鹿貴族たちほぼ全員の視線がスラリとした生足を見つめている。ちなみにおぱーい命の近衛団長は、先生の胸を一瞥してからとても静かだ。まるで背後に立つ愛妾兼二代目メイド長を恐れているかのように静かだ。
何となくフレアさんが馬鹿兄貴の尻を抓っているように見えるが気のせいだ。
尻に敷かれるとあのような苦難が待っているらしい。
「ふむ。当初の計画通りと言うことで良いのか?」
「いいえ。違います陛下」
「ほう。何があった?」
「実は……」
学院関係者が屍と化した理由を先生が語りだす。
門に対して過去の魔法使いたちが施した『改良』と言う名の『改悪』の取り外しの件だ。完璧主義者のアイルローゼが『許せないのよ!』と改悪に激怒した結果、ほぼ全てが外された。改良されていた部分は僅かで、それすらアイルローゼは『児戯ね』と切り捨てた。
毅然とした姿に作業場内に居た女性魔法使いたちがアイルローゼにハートマークな視線を向ける。けれど僕だけがとても冷静な視線を向けていた。
テント内は熱気がこもり暑かったこともあり、その日のアイルローゼは上半身ビキニで下半身はパレオを巻いた感じで過ごしていた。腰の所に布を巻くのってパレオであってるよね?
時折パラオとごっちゃになるんです。
ここはプールサイドですか? と言いたくなるほど夏な格好をしていた先生がどんなに格好の良い言葉を口にしても説得力は無かったと思う。でも女性たちはその目をハートにしていた。
魔女の肩書が偉大なのか……そう思っておこう。どうもあの学院の倫理観に難がある気がする。
先生の説明が終わり、陛下がうんうんと頷いている。
彼女の説明が正しければ、この門は前に比べるとかなり良い稼働状態に戻ったらしい。厳密に言うと魔力の変換能力がある程度戻ったとのことだ。
本来なら10の魔力を注げば、10の魔力で稼働するのが普通だ。
でも改悪のおかげで10ではなく6の魔力で稼働していたらしい。何処に消えてしまったの4よ?
それを先生は余計な物を外して8にまで回復させた。で、どこに行ったの2よ?
消える2が未だ発見できない先生は大変ご立腹だ。
陛下の相手をしている先生はあんなにシュッとしているのに、昨夜はノイエを抱きしめて『見つからないのよ! もう本当に誰が何処を弄ったのよ!』と憤慨し、ずっと妹であるノイエに頭を撫でられ続けていた。
ノイエは頑張った。本当に頑張った。
妹よりも先に眠るおかげで『お姉ちゃん面倒臭い』と言う妹の愚痴を聞いていないアイルローゼは幸せ者だろう。僕はその後ノイエのストレス発散に付き合わされて搾られるのだから……このストレスはアイルローゼが魔眼に戻る前に一括で精算だな。容赦はしない。
「だが魔力効率は良くなったのであろう?」
「はい。ですが今後も調査をするように学院関係者たちに命じてあります」
「うむ。そうだな」
アイルローゼの無茶振りを陛下が許してしまった。
並んでいる女性魔法使いたちの顔色がほぼ全員悪くなるのを僕は見逃さなかったよ。可哀そうに。
「では実際に動くのかを見せて貰えるか?」
「はい」
陛下の指示で門を動かすための魔力が専用の魔道具に注がれる。
魔力を注ぐ魔法使いたちは、元帝国や共和国に所属していた人たちだ。両国に色々とあってからはユニバンス王国が彼らに給金を支払い門を運用していた。ので今回の引っ越しに際し、彼ら彼女らもこっちに来ていただいた。宿泊施設などは建築中だけどね。
ついでに護衛の兵たちもそのまま移動して来た。人によっては帰国を望んだ人も居たが7割ぐらいはユニバンスへの移動に承諾した。国元から家族を呼び寄せて移住してきた人もいる。
何でもユニバンスはドラゴン被害が少ないからと言う理由だ。確かにドラゴンの被害は少ない。少ないが地震頻発地帯でもある。主な理由はウチのノイエだけどね。
魔力が注がれるまでの間は暇なので、辺りの様子を見ることにした。
先生が失敗するとは露ほども思っていないので、僕としては本気で暇な時間を過ごすこととする。
「アルグスタ殿」
「おっまだ居たの?」
「……本当に貴方と云う人は」
呆れながら頭を掻くのは、この度独立することが決まった北西部分の新領地の領主様であるキシャーラのオッサンだ。
「次期国王陛下が僕に何の御用で?」
「……国王になるのであれば敬語は不要か」
「アンタは時折敬語を忘れていたでしょうに?」
「それを言えばお前もだろう?」
「だって敬語って苦手なんですもの」
「……俺もだよ」
着ている礼服の首元を緩めてオッサンが笑う。
このオッサンが僕寄りの性格なのは知っている。敬語とか面倒で、出来れば相手とタメ口で会話して居たい根っからの軍人だ。
戦場だと生きるか死ぬかの瀬戸際なので敬語なんてどこかに飛んで行ってしまうらしいけどね。
僕としてはそっちの方が楽だから好きです。
「これでも気を付けて敬語を使おうと頑張っては来たんだが……どこかの元王子は俺以上にいい加減だから困る。ついその語りに引き寄せられて敬語を忘れてしまう」
「それって僕のせい?」
「俺のせいだな」
お互いに笑い合い、とりあえず隅に移動して一杯飲むことにした。
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