軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

延期できない?

ユニバンス王国・王都郊外北側

「これは改良じゃなくて改悪よ!」

二度目の声に僕は入り口にかかる布を捲ってテントの中を覗き込む。

物が飛んでいないからまだ安全だ。流石に魔法は飛ばさない。

入り口の姿隠しが徹底しているのは、ここが女性以外基本立ち入り禁止だからだ。

中は女性の園だ。

何かあればポーラが突入することが今朝方決定したが、それまでは僕の担当となっていた。だから僕が覗き込んでも物の類は飛んで来ない。

仕事で行き詰まり不機嫌になったアイルローゼがスパークすると、周りの人は誰も止められない。

魔法学院でも有名であり、同年代で学んでいた人や教師だった人も未だ現役でいるので……その方々は術式の魔女の恐ろしさを知っているらしい。

冗談で『先生って現役時代にどんな悪行していたの?』と尋ねたら、同年代だった人たちは全員が顔色を悪くしてガタガタと震えだす。教師の人たちは遥か彼方を見つめて言葉を濁す。

追求しようとすれば先生が僕の背後に立って頭を掴んで『溶ける?』と優しい一言が。

本当にアイルローゼは現役時代に何をしていたのだろうか?

それはさて置き短気を起こした先生の対処だ。

ここはポーラに正しい先生の取り扱い方を教えておいた方が良い。

もう何日とテントの中に突入しているので、中の女性陣も油断が無くなっていた。

門の移設を開始してから数日、先生がスパークしたからテントに突入したら……油断しきった女性魔法使いたちが下着姿でお仕事をしていたのだ。

元王子で良かったです。下手な地位に居たら逆さ十字に釣らされて火あぶりに遭っていたかもしれません。ちなみに逆さ十字までは事実起きたことです。何処にも女性の園を覗きたがる馬鹿者が居るのです。主な原因は先生と言う存在のせいでしょうが。

サーカスでも出来そうな大型のテントの中では、薄着姿の女性たちが忙しなく動き回っている。

最初は先生がスパークする度に震え上がっていたのに……何処の世も女性は逞しいらしい。もう気にもしないで自分の仕事に徹しているよ。試運転を行う期日が近いから仕方ないのだけれど。

下着を透けさせた走り回る女性たちの間を抜け……ポーラが腰に抱き着いたままだから物凄く歩き難いのだけど、根性で前進していくと一番奥に女王陛下がいらっしゃる。

術式の魔女アイルローゼが不機嫌そうにメモ帳代わりの小さな黒板を眺めていた。

「せ~んせい」

「あん?」

ご機嫌斜めだ。また行き詰ったのかな?

「美人がそんな姿で怒っていると色々と台無しですよ」

「……煩いわね」

抱いていた片膝を解放し椅子に座り直した先生が穿いているスカートを正す。

ちなみに今の先生の姿は、上が白地のTシャツっぽく見えるシャツをお腹の所で縛り、下はひらひらの長いスカートだ。ミニではないので足は見えない。

ただ彼女の特権で、自作の冷風を生み出す魔道具が近くに置かれている。だからここだけはほのかに涼しい。

「それでまた愚痴ですか?」

「……悪かったわね」

プンスコ怒る先生は、手に持つ黒板を机の上に置いた。

「私はね弟子。この門は誰も手を加えて居ない物だと信じていたのよ」

「はい」

「でも外から余計な術式を……」

今にも爪を噛んでイライラしそうな先生に対し、僕は腰に張り付いているポーラに冷たい飲み物と甘いお菓子を持って来るようにお願いする。

もう何度目の不満だろう?

現在では共同管理され手出し無用な門だけれど、過去はその時代の権力者に支配されていたこともある。だから勝手に魔改造されていたりするのは仕方のないことだ。

でも先生としてはその魔改造が許せないらしい。おかげで余計なオプションと化している術式を読み解いては外すという作業が追加され……不機嫌が止まらない。

作業場でこの状態だが、屋敷に戻ってからも不満が止まらない。

ここ数日はノイエを抱いて精神の安定を保っいる。アイルローゼがノイエを溺愛しているという言葉の意味を、僕が垣間見た瞬間でもある。

先生の愚痴を聞いているとポーラが飲み物と甘い砂糖菓子を持って来た。

急ぎ机の上に置いてポーラが子犬のような顔で先生を見つめると……怒れるアイルローゼが深いため息を吐いて可愛らしい小柄なメイドの頭を撫でた。

小動物系はこんな時最強だ。

昨日までは先生が不満を吐ききるまで僕は延々とその声を聴かされていた。

何故なら昨日までポーラは現場に来なかった。原因は彼女の中の悪魔だ。

『はあ? 門を運んで来た私に働けと? 幼女虐待で訴えるわよ? 暴力で』

暴力で訴えるのは根底から何かを間違っている証拠だ。でもあの悪魔は本気で暴力で訴える類の屑なので、大人しく屋敷で待機させた。

「ねえ馬鹿弟子」

「はい」

「……延期できない?」

また締めくくりの言葉を頂きました。

「先生? 無理だって知っているでしょう?」

「でも」

「期日を守ることが陛下が出した最低条件ですよ?」

「分かっているわよ」

分かっているけど完璧な仕事を求めてしまうアイルローゼの不満が止まらないだけだ。

もう見慣れた。好きなだけ不満を吐けば良い。

ノイエの変わりにポーラを愛でることで精神の安定を図った先生は、軽い休憩を終えてまた作業へと戻る。

僕らも邪魔にならないようにテントの外に出て、また炎天下の中……ロープで建築予定の建物の線引きをしている工事の状況を眺める。

ユニバンス王都は不思議と地震が多いので、基礎工事は重要なのだ。コンクリートが無いから石を敷き詰めて地盤を固めてと大仕事になる。

それを監督しているのが現在僕の仕事だ。ぶっちゃけお城に居たくないからこっちに来ている。先生も居るしね。

馬鹿貴族がやって来て先生の逆鱗に触れ溶かされるのを回避する為でもある。

それにしても先生の完璧主義には参る。

陛下と交わした約束だから期日は先延ばしに出来ない。最低でも試運転をし、転移できるようにしておかないと大問題になる。

国際的な観点から見ての大問題だ。僕個人の問題で済むなら先生の好きにさせる。

何より陛下と交わした最低条件の中には、『先生がポケットにしまい込んだ魔道具に関して不問に処す』と言う文面が含まれている。これも明るみに出ると大問題になるので、期日を守ることは口止めの意味も含まれている。もちろん裏工作で僕が頑張った結果だ。

頑張って僕は陛下と交渉しましたよ。

先生が4割。あの悪魔が3割ほどポケットに入れた結果、残りの3割と悪魔が提供した過去の遺物(使用不可)を加えて陛下に提出した。

『ノイエが適当に回収したんでこんな感じです。壊れた物は……魔道具の価値を知らないノイエの行いですから』と必死に弁明したが、ゴミの中に有名な魔道具の部品は無く、動く物も大半が無名な魔道具ばかりだったので無理がありました。

こちらの行いは初見で露呈し、後は重箱の隅を突っつくような交渉の日々。

途中で陛下が過労で倒れ2日ほど休みを得たが、それも姿を現したシュシュにより温泉旅行で消え失せた。まあ良い。あれは本当にいい旅であった。

重ねて言おう。あれは実にいい旅でした。

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