軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

先生の足を愛でていたい

ユニバンス王国・王都郊外ドラグナイト邸

「どうぞポーラ様」

「ん~ご苦労」

「……」

金策に目途が立ち意気揚々と帰宅してくれば、我が家の妹様の姿をした馬鹿が居間で女王様をしていた。

椅子に腰かけ優雅に高々と足を組んで踏ん反り返っている。傍には飼い犬……ミネルバさんが待機しており何かあれば甲斐甲斐しく馬鹿の世話を焼いている。

はっきり言えばダメ人間の見本だ。

僕の肩越しに居間の様子を確認した先生は、さっさとお風呂へと向かい歩いて行く。

僕の横に居たノイエは迷うことなく食堂に向かった。

つまりこのカオスな状況を僕に丸投げなのか?

だがあえて言おう。甘いと。

黙って扉を閉じて僕も見なかったことにする。

何故僕だけが地雷原で踊らなくてはならない? 地雷原だと分かっているのなら華麗に回避するか、最初から足を踏み入れないことが正しい選択である。

あんな馬鹿など無視に限る。ミネルバさんのフォロー? 知るか。きっとあの人は今、夢の世界に居るのだから、後でポーラが戻ってきたらお祭りが終了したと納得してもらえば良い。

まずは着替えをしてからお風呂へ向かうことにする。

先生が居るはずだが気にしない。気にしてもしなくても先生が暴走するのは最近のパターンだ。だったら一緒に入って、恥らう先生が少しでもデレることを願うのみだ。

外出着を脱いで……と寝室へと向かう。

「お帰りなさ~い。旦那君。ちゅっ」

「……」

投げキッスが飛んで来た。僕の目が目が点になった。

扉を開けて寝室に入るとベッドの上に馬鹿が居た。

レニーラとか言う馬鹿だ。悪友だ。一応僕の公表できないお嫁さんの1人だ。その正体は舞姫と呼ばれる天才的な踊り子らしいが踊りを除くとただの馬鹿な子になる不思議生物だ。

そんな馬鹿がベッドの上で全裸になって僕に向かい手招きしている。

これはあれだ。その昔僕が農家のオッサンの家でこっそりと見せて貰った洋物のポルノ映画のようなひとコマだ。そんな風にしか見えない。

「……お風呂に入ってから夕飯だな」

見なかったことにして上着だけを脱いで部屋を出ようと、

「ちょっと待ていっ!」

ふわりと立ち上がった馬鹿が僕の前にやって来た。

ビックリするほどの軽い足取りで彼女は目の前に移動して来たのだ。

「どうして目を背けるかな? 見えないの? この形の良い胸が! くびれた腰が! プリップリのお尻が!」

「見えているが気にしなければどうと言うことはない」

「そんな正論など聞きたくない!」

とんでもないことを目の前の馬鹿が言い出したよ。

「普通この裸体を見たら欲情して襲い掛かって来るのが普通なの! もう一度機会をあげるからやり直させてあげるわ!」

「だが断る」

「どうしてよ!」

「今は先生の足を愛でていたい」

「この足も凄いから!」

片足を持ち上げて僕の目の前にレニーラの足が迫って来た。

踊りで鍛えられているレニーラの足は、アイルローゼと毛色が違って確かに美しい。

先生の足が芸術的な逸品だと言うのであれば、レニーラの足は魅力的で筋肉質な逸品だ。

「だが今はその足よりもあっちを求める!」

「どうしてよ! あんな白いだけの足!」

「白くて長くて美しい足です。訂正を求めます」

「努めて真面目な口調で訂正を求めて来た!」

プンスコと怒るレニーラだが、君は全裸で何をしているのだと聞きたい。

「で、何か用?」

「う~わ~! 旦那君の反応が冷たいよ!」

ショックを受けたらしい馬鹿が蹲って床を叩きだした。

「ご褒美! 私にご褒美を求む!」

「ご褒美? 何の?」

「帝都の一件で頑張ったでしょう!」

「誰が?」

帝都の一件で頑張ったのは、アイルローゼ。ホリー。シュシュの3人のはずだ。

間接的にいつも頑張って貰っているセシリーンもノミネートしても良いが。

リグは……判断に悩む。彼女は帝都では仕事をしていないし、故郷のことに関しては僕が勝手に行ったことなので、向こうから『手伝ったご褒美は?』と言われたら全力で支払うしかない。

たぶんリリアンナさんの今後を求められそうだが……彼女のことをお兄様に報告するの忘れてた。

長々と色々と考えて僕はようやく理解した。

「ふむ。レニーラよ」

「何よ?」

「君に対してご褒美を支払う義務を感じないのだが?」

「何でよ!」

吠えて来たよ。

「何もしてないやん」

「しました~」

「ほほう。何をした?」

「ホリーの指示を受けて中で頑張りました。凄く頑張りました」

「なるほど」

「だからご褒美をっ!」

飛び掛かって来たレニーラを横に移動して回避する。

彼女は気づいていなかったのだろうか? 僕の背後に……ああ。そうか。僕は部屋の入口の前に立っていた。つまり廊下からやって来る人物の姿を僕が壁となり、レニーラの視線を妨げる格好になったわけか。

結果としてレニーラは抱き着いた。僕ではない……アイルローゼにだ。

「どうしてここに舞姫が?」

冷ややかな声が部屋の中に響いた。

全裸で抱き着いて来た相手など視界に入っていないかのように静かで冷たい目が僕を見る。

たぶんお風呂に入ろうとして何かを察したのか、髪をアップにした彼女の衣服が若干乱れていた。慌てて服を着たのかもしれない。そう言うことにしておこう。

「褒美を寄こせと騒いでいます」

「……で、どうして全裸なの?」

「それは本人に聞いてください」

そ~っと逃げようとしたレニーラの頭をアイルローゼが掴んだ。

「ねえレニーラ?」

「あはは~」

「少し実験してみましょうか?」

「実験?」

冷気を思わせるほどの冷ややかな声にレニーラがブルブルと震えだした。

「ここで私が腐海を貴女に使ったらどうなるのか実験よ」

「……」

アイルローゼに頭を掴まれたままで、レニーラは静かに両膝を床に着けた。

「頭を下げて命乞いするのでその手を放していただけるでしょうか?」

「……」

呆れ果てた様子でアイルローゼがその手を放す。と、

「馬鹿め~! アイルローゼは頭が固いのよ!」

ダッシュで逃げ出そうとしたレニーラが、足をもつれさせて顔面から床にダイブした。

レニーラの足に蛇のように蠢いて動くタオルが巻き付いている。流石術式の魔女だ。あの馬鹿賢者と同じぐらいチートな存在だと思います。

「誰の頭が固いですって?」

「……」

床と友達になったレニーラの頭部をアイルローゼが踏みつける。

「なら貴女の頭がどれほど固いか確認してみようかしら?」

これはあれだ。レニーラは絶対にやってはいけないことをした。

「……アイルローゼ」

「呼び捨て?」

「……様」

レニーラが自分の立場を理解したご様子だ。

「今一度馬鹿な私に謝罪の機会を」

「もう無いわ」

「……」

ふみふみからのぐりぐりへとアイルローゼの足の動きが変化している。

情けと容赦は今のアイルローゼには存在して居ないらしい。

「このままこの頭を踏み潰すこともできる。試してみる?」

「……」

ブルブルと震えているレニーラが……本当にこの悪友は、どうしてこう馬鹿なことをしたがるのだろうか?

先生がまた拗ねるかもしれないが、この2人の間に溝が生じるのは宜しくない。

「せ、」

「お姉ちゃん」

僕が声を発しようとした瞬間、ニョキっと目の前に白銀のアホ毛が生えた。両手に料理の皿を持ったノイエだ。

ゆっくりと辺りを見渡したノイエは、何故か僕に料理を乗せた皿を押し付けて来る。

最初にアイルローゼの足を動かしレニーラを救うと、そのまま彼女を抱き上げた。

「みんなでお風呂」

そう言うとスタスタと歩き出す。と、足を止め一度振り返った。

「お姉ちゃんも」

「……分かったわよ」

妹に勝てないアイルローゼは、心底呆れた様子でため息を吐いていた。

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