軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

信じるなよ人を

《さて……》

今一度ローブとフードの具合を確認し、女性は椅子に腰かけ直した。

《面倒臭いことは1回で終わらせないとね》

クスリと笑い、女性……刻印の魔女は顔を上げた。

「あの猫~!」

「だぞ~!」

ノイエの目を通し外を見る2人が騒いでいる。

猫ことファシーに先を越されたことに対し、怒り狂うのはレニーラとシュシュだ。

2人で拳を天井に向けて振り上げ、怒りを体現している。

その様子にセシリーンは特に何とも思わない。

騒いで不満を発散している方が遥かに可愛い。

問題は宝玉で外に出るために使用する台座の如き平石の傍に座っているホリーだ。

膝を抱え、ブツブツと呟いて座っいる彼女を怒れる2人ですら視線を向けない。

『まず首を刎ねる。それから四肢を引き千切って、内臓を引きずり出す。それから……』

もう何度目か分からない殺人計画を最初から再確認している。

戻ってきた瞬間にホリーはあの猫を殺す気でいるのだ。

ただファシーとて馬鹿ではない。

何より静かな殺意に飲まれているホリーは気づいていない。

そっとセシリーンは座り慣れていない場所で軽く尻を浮かした。

この場所を指定したのはファシーだ。

戻ってきた瞬間に魔法を放つから『そこに座って居て』とお願いされた。

何でもこの場所は魔法を放つ角度の都合で、刃が重ならないと言う。

つまり重ならないが飛んでは来る。その数が極端に少ないから……酷い怪我にはならないと言うことらしい。

それが嫌なら一時的にこの場所……魔眼の中枢から逃げることを勧められた。

軽くため息を吐いてセシリーンは閉じた目を、ノイエの視界があるであろう方に向ける。

『大丈夫よ。ファシーは優しい子だから……お母さんを傷つけないって信じているもの』とだけ告げ、この場所であの子の帰りを待つことにした。

正直自分の母親の振りに呆れてしまうが、その言葉を聞いたファシーの心がじわじわと温かくなる音を聞いていたら、告げてしまったことに対する後悔の念は失せた。

《本当にファシーが自分の子供みたいに思えてきて仕方ないわね》

クスクスと歌姫は胸の中で笑う。

自分の足を枕にする人物は他にリグが居る。けれどあの子はちゃんと自立した女性だ。

下手をすればこの魔眼の中で一番成熟した女性なのかもしれない。普段寝てばかりだが。

《ホリーももう少し大人しくすればみんなと一緒に話とか出来るのに》

怒れる2人が特殊なのか魔眼の中には1人を好む人が者が多い。かく言うセシリーンも普段は1人で過ごすことが多い。

しかしそれには理由がある。

自身の耳をよりよく発揮するには近くの雑音が少ない方が良いからだ。

耳を使わないで良い場所に彼が移動してくれれば……それこそ気が済むまでファシーを撫でていたい。

ジジ……

《何かしら?》

不意に響いた音にセシリーンは耳を澄ませる。

『お久しぶりね。私に負けた馬鹿な者たちよ!』

響いた声に歌姫は自分の心の何かを閉ざす。

静かだった魔眼の“中”に最低最悪の人物である魔女の声が響いたのだ。

『現在ちょっとした問題が生じているのは全員理解していると思う。簡単に言うと……ずっと魔眼に課せて来た負荷が原因なんだけどね』

ようやくホリーが反応し顔を上げた。

「だからノイエの体を使い外に出れないの?」

『正解と言いたいけどちょっと違うかな~? あれはあの魔女の魔法だから』

「そう言うことね」

ため息を吐いて立ち上がった殺人鬼に、怒り狂っていた2人がサッとその場を退いて場所を譲る。

もう呆れを通り越して感心してしまうほどの迷いのない動きだ。

「どう言う理屈なの?」

『難しくないと思うけど……何となく分かっているでしょう?』

「……アイルローゼの本体が触媒になっている」

『正解。流石は魔眼の中で最高の知恵者だ。ちなみにこれから出す私の問題に多く答えられたらご褒美をあげる。そうね~』

クスリと笑い声が響いた。

『今の貴女たちの体についての答えとかどう?』

「却下よ。別の物を求めるわ」

あっさりとホリーは魔女の提案を蹴飛ばした。

『あらら~。もう目星は立っているのかしら?』

「ええ。ある程度は」

『それだと確かに他のご褒美が良さそうだけど……正解ならってことで』

返事を促す言葉にホリーはゆっくりと口を開いた。

「私は右目と呼ばれている場所に安置されている自分たちの肉体を見た。でも……ホムンクルスと呼ばれる人工的な体は見ていない。あくまで私はね」

『あはは~。なら答えは?』

「簡単よ。ホムンクルスと呼ばれる体は数体しか存在していない。一番分かりやすいのはファシーが外で使っている体でしょう?」

『大正解。殺人鬼ちゃんがご褒美に近づきました』

ケラケラと笑う魔女は、不意に声を止めた。

『これって結構危ない技術なのよ。だから余り外には出したくない。魔眼の中に存在しているホムンクルスは3体ほど。1つは現在あの猫ちゃんが使っている。もう1つは私が。残りの1つはフラスコの中で眠っているわ』

告げる魔女にホリーは軽く頭を掻いた。

「それで魔女?」

『何かしら?』

「他にあと何体存在しているの?」

確信をもって訪ねたのであろうホリーの言葉に魔女は直ぐには答えない。

しばらくすると軽い口調で言葉が返って来た。

『それはご褒美に該当するから秘密』

「そう。ならもう1つ聞いても良いかしら?」

『ご褒美に該当しない言葉なら、ね』

「それはそっちの匙加減でしょう?」

表情を正しホリーはただ何んとなくノイエが見ている外の世界に目を向けた。

元気にドラゴンを狩っている妹は、今日も絶好調だ。

「私たちの体は……本当に右目に在るの?」

そしてホリーの問いかけは容赦なく絶好調だ。

『あは~。何を言ってるのかな? 貴女たちの体は右目に在って』

「それを貴女はどうやって私たちに説明してくれるの? ノイエの右目を裂いて中から体を取り出してくれるの? 出来ないでしょう?」

『……』

「重ねてもう1つ質問があるの」

ニヤリと笑ってホリーは口を開いた。

「そもそも貴女は本当に“刻印の魔女”なの?」

『それは本当です。この目に輝く~』

「それだって貴女ほどの魔法が使えるなら自作できるでしょう?」

『うっわ~。万能すぎる私にとんでもない逆襲が~』

お道化て見せる魔女にホリーはイライラを募らせる。

落ち着いて考えれば、自分たちは最初から騙されていた。

相手の目に模様が浮かんでいるから……その模様が有名だったから、誰もが相手を“刻印の魔女”だと信じた。信じてしまった。信じた理由は先入観からだ。

「誰も……当たり前だけど、過去の人物である刻印の魔女と出会ったことがない。その存在は何百年も前に消えているのだから」

『へいへい。殺人鬼ちゃん。君の頭はお飾りかい?』

相手の声にホリーは自身の頭を働かせる。

猫に対する復讐プランを一度放棄し、自身の頭脳をフル稼働して思考を巡らせる。

「そもそも刻印の魔女は実在していたの?」

『してたんじゃないの? 歴史書に名前は残っているしね~』

「……そう言うことね」

『はい正解』

ケタケタと笑う醜悪な存在にホリーは眉をしかめる。

『信じるなよ人を』

偉そうな声が響き渡った。

『歴史書だってそう。誰かが書き残せばその時に居ない人でも実在したことになる。つまり歴史を改ざんするのって意外と簡単なんだよね~』

プププと笑い声が響いた。

『不老不死の存在であれば、だけど』

(C) 2021 甲斐八雲