軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

これはこれで悪くないか

「本当に困ったわね~」

「……」

最初は無かったはずのテーブルと椅子が気づけば置かれていた。

椅子にはローブ姿の女性が腰かけ、テーブルに肘をついて頬杖している。

それをガラス越しに全裸の少女が見つめていた。

「ししょう」

「何かしら?」

フラスコと呼ばれる瓶の中に居る弟子に呼ばれ、女性は顔を向ける。

いつもとは違いフードを外し素顔を晒していた。

女性は考え事をする時は、基本フードを外す。

何よりこの場には自分と弟子しかいない。記憶の改ざんをするのが簡単だから深く考えない。

「どうするんですか?」

「どうしようかしら?」

「なにもかんがえていないんですか?」

「失礼ね。考えてるわよ」

腕を組んでプイっと顔を背ける師に弟子は悟る。

間違いなく絶対に何も考えていない。

「その悟りを得たかのような生温かな視線は何よ?」

「きのせいです」

「絶対に私が何も考えてないとか思っているでしょう!」

「ひていはしません」

「しなさいよっ!」

弟子の態度にイラっとし、師である女性はパチッと指を鳴らす。

「ふにゃ~!」

フラスコの中から少女の悲鳴が木霊した。

全裸の少女にゼリー状の物体に纏わりついて蠢いている。

「全身清掃用のスライムは完成したんだけどね」

「ふなぁ~!」

「隅々まで掃除しようとするのが難点なのよね」

「そこはだめですっ! そこはっ! もごごっ!」

掃除する場所を求めて更なる場所を求めるスライムが少女を飲み込んでいく。

パチリと指を鳴らすとフラスコの中のスライムが消え、全身を痙攣させて横たわっていた。

「要改良ね。女性なら眼福だけど男性だと……これはこれで悪くないか」

性癖に難のある彼女はひとしきり頷いた。

弟子のお仕置きはこれぐらいにして、女性は改めて難問と向き合う。

やはり色々とやり過ぎた。総合的に判断するとこれしかない。

そもそも大量の魔力を扱えるのが悪い。

こんな楽しい状況を無視などできない。

だから頑張った。色々と遊ん……実験した。

魔眼に不具合が発生したのは積み重ねた実験の結果だ。

大量にゴミが積もって……掃除が面倒だ。

《不具合を解消しないと元に戻せない。この子を外に出さないと私が好き勝手に動けない。それはやはりダメよね》

となるとやはり掃除をし、不具合を解消し、そして全てを正す必要がある。

《左目の術式が問題よね。あの魔女が色々と……でも使える物が多いから全部消したくないし。あ~も~》

頭を抱えてワシワシと髪の毛をかき混ぜた女性は大きなため息を吐いた。

「分かったわよ。しますよ。掃除しますよ……全く」

覚悟を決めて女性は立ち上がった。

左目の住人達も外に居る人たちもしばらく休みに徹する感じだ。

これ幸いだ。ここで大掃除をしておけば後々しないで済むはずだ。

「何まだ寝ているのよ。起きて少しは手を貸しなさい」

「むりです……こしが……」

「情けないわね」

フラスコの中で腰を抜かして弛緩している弟子に女性はため息を吐く。

「そんな体たらくでお兄様に抱かれたいだなんて無理よ。諦めなさい」

「……」

歯を食いしばり立ち上がろうとする弟子に女性はクスクスと笑う。

本当に揶揄い甲斐のある……可愛らしい弟子だ。

「まあ立ち上がった所で貴女のやることは無いんだけどね」

「……ししょう?」

「何よ。また掃除されたい?」

笑いながら女性はその場を離れた。

ユニバンス王国・北西部新領地(旧アルーツ王国)

僕らがこの場所に逃げ込んで3日目を迎えた。

ようやくキシャーラのオッサンが戻って来たというので、客間で相手を出迎える。

立場が逆な気がするけど仕方ない。

だって護衛を買って出た先生が意地っ張りだからだ。

「……本当に居るとはな」

飛び込んできた鎧姿のオッサンが複雑な表情を浮かべる。

気持ちは分かる。自分がドラゴン退治に向かっていたら、本拠地が襲撃を受けたのだ。それは驚くことだろう。

「いや~。帝都の方で色々とやっちゃいましてね。王都に直帰できないんですよ」

照れ隠ししつつも頭を掻き、僕は座っていた椅子から立ち上がった。

続いて隣に座っていた無表情の先生も立ち上がる。

凄いぞ先生。さっきまであんなに震えていたのに。

「失礼。そちらの女性は?」

「ご紹介が遅れました。私はドラグナイト家所属の魔法使い。アイルローゼと言います」

「アイル……失礼だが、かの有名な魔女の名が確か?」

「はい。周りからは術式の魔女と呼ばれています」

驚いた様子でオッサンが近づいて来る。

先生を知る人のリアクションは大半がこれだ。

大戦時でも帝国から先生宛に魔道具の製作依頼が来ていたとか。きっとユニバンスが帝国に負けていたら先生はあの国で魔道具作りの道具になっていただろう。

握手やら何やらを済ませ、一応領主の顔を立て……相手の許可を得て椅子に座る。

問題は先生の足だ。退出するためのあと最低一回はあるであろう起立に耐えられるか? 若干両足がブルブルと震えているようにも見える。

「して避難だけではあるまい? 用件は?」

「はい」

掻い摘んで僕らは帝国での出来事を全て伝えた。

彼は元々帝国の大将軍だった人物だ。そして皇帝の弟でもある。

全てを知る権利はあるはずだ。問題は、

「兄の遺体は分からずか」

「はい。僕らも転移してから直ぐに戦闘になりましたからね」

間違ってはいない。仕掛けたのは僕らの方かもしれないが、戦闘が行われたのは事実だ。

「まあ死体など埋葬される方が珍しいですからね」

流石武人だ。大切にリグの叔母さんの骨を抱えて来た僕らとは違う感性だ。

「それでアルグスタ殿。私が戻ってるのを待っていたというのは言い訳で、本当は本国からの指示を受けているとか言い出しますか?」

「本国の?」

ごめんなさい。何も知りません。

「実は今までに何度かシュニット国王から帝国に戻り皇帝になることを勧められています」

「あ~。なるほどね」

納得だ。確かにそれは今後を見据えるとありかもしれない。

ただし帝都が吹き飛んでいなければが大前提だ。

「キシャーラ様は皇帝になりたくないと?」

「ここまで傾いてしまった国を誰が引き継ぐと?」

ですよね~。

「何より帝国は国を広げ過ぎました。自分も携わっていましたが武力によって無理矢理に」

「買い続けた反感は対処できない水域ですか?」

「ええ。事実ユニバンスに負けてからどの国も帝国に噛みついた。それが結論でしょう」

「なるほど、ね」

さてと。少しは頭を使うかな。

お兄様がオッサンを皇帝にしたがったのは、帝国という存在と仲良くしておきたいからだ。

この新領地という緩衝材があっても、いずれ帝国が力を取り戻せば大軍で攻めて来る。そうなればこの領地は奪われ、その大軍はユニバンスへと迫って来る。

僕らが現役ならばたぶん負けることはない。現役であればだ。

だがこのオッサンは皇帝になる気は無いらしい。

「1つ良いですか?」

「何でしょう」

僕の問いにオッサンが何処か優し気な目を向けて来る。

次の物語を期待している子供のような……実はこの状況を楽しんでいますか?

「この領地の周り……帝国領の領主との仲はどんな感じで?」

だったらこっちも変化球なんて使わない。直球でグイグイだ。

「……陛下よりも先に皇帝復帰を打診されています」

「でしょうね」

「だが全ての領主や貴族がそうではない。反対する者も多い」

「だと思います」

王族の僕ですら国元では嫌われ者ですから。

「だったら皇帝になるのなんて止めましょう」

「……ほう。ではこのまま領主を続けろと?」

「いいえ」

何より僕は、この領地に多大なる援助を約束していますからね。

「国王になりましょう」

「……」

「ここで国を興してしまうんです」

ほ~ら。これで解決だ。

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