軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

アルグ様が悪い

ブロイドワン帝国・帝都帝宮内

「お~い。お姉ちゃ~ん?」

何故だ。何故出て来ない? ほらお姉ちゃんが大好きな弟さんが呼びかけていますよ?

出て来て僕に知恵の実……じゃなくて知恵を授けてくださいな。プリーズ!

「出て来てよ! ホリー!」

「……煩い」

「何故っ!」

突如としてノイエに頬を叩かれた。親父にも殴られたことは無いのにっ!

まあ蚊でも仕留める程度の緩い一撃だ。パンッて感じの物だった。

色が変わりノイエが金髪碧眼となる。コイツは僕の敵だ。

「どの面下げて出て来た。この馬鹿?」

「あん? 引き千切って投げ捨てるわよ? この屑」

正面から睨み合って……何故かシュシュが僕らの間に入って制する。

「落ち着いて旦那君」

「これは僕の敵です」

「……で、何で出て来たんだぞ?」

何故かシュシュが抱き着いて来て僕を制する。ギュッと抱きしめられるのは嫌じゃ無い。

けれどシュシュの顔はグローディアを見つめて動かない。ジッと見ている。

「伝令よ。外に出れる人間が少ないの」

「……何だぞ?」

「ホリーはこれからの対応に関して知恵を働かせる。『出来るだけ時間を稼いで欲しい』と」

「共和国の方はどうするんだぞ?」

「オーガが突進して蹴散らしている。殲滅できるかは分からないけれど数は減らせる」

「その間にホリーが退却する方法を考えるのかだぞ?」

「一応その予定よ。ノイエの魔力が万全なら転移の魔法も使えたんだけど、数が増えたからもう使えない。

当初はその馬鹿をローロムが抱えて逃げる。後はノイエが抱えていく。シュシュはオーガの為に魔力が切れるまで時間を稼いで、その隙にオーガが休息を取って自力で逃げる。

この方法をホリーは実行する気でいたのだけれど……きっと無理でしょうね。どこかの馬鹿が『全員』って言うに決まっているから」

呆れ果てて肩を竦める馬鹿にイラっとする。

当たり前だ。全員で逃げるに決まっている。

「誰かを犠牲にして逃げるなんてことは僕が許さない」

「……上に立つ者は時に残酷な結論を出すこと必要なのよ」

「だったら僕は上になんか立たないよ。簡単なことだ」

人に、家族に、犠牲を求めるのなら僕は底辺でも良い。

好きな人とその好きな人が愛する家族を守れればそれで良い。

「僕もノイエも家族を見捨てるぐらいなら生きてこの場に残って共に戦うよ」

「……本当に嫌な奴。この馬鹿は」

色を消してノイエは元に戻る。

キョロキョロと辺りを見渡し、何故かノイエが僕に抱き着いて来た。

シュシュが抱き着いているからって君まで抱き着かなくて良いと思います。

「はい。2人とも離れなさい」

「ノイエから」

「お姉ちゃんから」

「「……」」

どうして2人して力を強めるのですか?

「こっちを見て状況を把握できないリグのお姉ちゃんも居ることですし、離れなさい」

「「……」」

渋々といった様子で2人が離れた。

「さてと。とりあえず全員で逃げられるように協力しようかね」

僕らが気に掛けるのは、それこそが最優先だと思います。

「と言うか旦那さん」

「何でしょう?」

「ノイエに突撃してもらえば良いんだぞ」

「……」

このシュシュという生物は、ポーラの話を聞いていなかったのか?

「シュシュさんや」

「何だぞ?」

「ポーラが言ってたよね? あの鎧は魔法を弾くって」

「言ってたぞ」

おひ。

「それだとノイエの得意な打撃も無効なのでは?」

何でもノイエは基本魔法が使えないと言う。

魔法語を発声できないので、普段は魔力を拳に纏わりつかせて……ふむ。なるほど。

「つまり魔力だから魔法では無いと?」

「だぞ~」

フワフワを思い出したシュシュが揺れる。何故かノイエが真似して一緒に揺れ出した。

可愛いから放置する方向で良いと思います。

「僕は魔法使いの分類に属しているらしいけど、そこまで専門家じゃありませんが……普通魔法を弾くのなら魔力も弾くんじゃないの?」

「どうしてだぞ?」

「だって魔法の本体と言うか正体が魔力じゃないの?」

「違うぞ~。魔力は魔力であって魔法の発現に対する切っ掛けなんだぞ~」

長文だったからか、真面目な話だからか、シュシュが揺れるのを止めた。

ただノイエは調子よく揺れているからそのままで。

「ん? 切っ掛けと言うことは弾かれるんじゃないの?」

「弾かれないぞ~」

「なんかおかしくない?」

「どうしてだぞ~?」

僕が間違っているのか?

「だって……ならこのシュシュの壁には魔力はもう宿ってないの? 宿ってるよね?」

「宿っているぞ~」

「ならあの鎧が触れたら弾かれる危険が高いよね?」

「だぞ~」

指を向けた先にはかなり接近した鎧の集団が。

あれがこの壁に抱き着いたら弾かれるわけだ。弾かれるというか消滅する感じかな?

「分かったぞ~」

自分なりに考えていると、シュシュがノイエの手を取ってクルっと一周した。

「旦那君は勘違いをしているんだぞ~」

「ほほう」

あくまで僕が間違っていると言うのだね。

「もう一度言うぞ~。魔力は切っ掛けであって魔法はその結果なんだぞ~」

「で、その理論だとこの壁にどうして魔力が宿っているの?」

自分の言葉と自分の魔法の矛盾を説明しなさい。

もし理論が崩壊しようものなら、君の温泉旅行は恥辱にまみれたことになるぞ。

「封印魔法は常に発動し続ける魔法なんだぞ~。だからこうして維持しているだけでも魔力が減っていくんだぞ~」

「……」

あれ? 何か納得している僕が居る。

「分かりやすく言うと、アイルローゼの腐海は一度発動すると指定した範囲を腐らせるぞ~。でもそれは魔力で切っ掛けを与えて発動した現象なんだぞ~。だから最初に必要魔力を消費するんだぞ~」

「ふむふむ」

「腐っている間はずっと魔力を消費するとかしないんだぞ~」

「なるほど」

「旦那ちゃんもあの丸いのを出したら消えるまで魔力を消費するのかだぞ?」

「しないね」

「だぞ~。だから魔力はあくまで切っ掛けなんだぞ~」

「ふむふむ」

一つだけ分かったことがある。

「言ってることは何となく分かるんだけど、言葉が間延びしているから良く分からん」

「何でだぞ~!」

それに言葉が足らない気もする。シュシュが感覚で説明しているからだろう。

「シュシュは先生に向いてないね」

「にゃ~。今更過去の傷を抉られたぞ~!」

そう言われればシュシュは魔法学院に在籍していたが先生はしていなかったらしい。

教員不足になっても選ばれなかったのは、シュシュの説明力不足が原因だろう。決して僕の理解力不足ではない。これがアイルローゼなら僕は理解しているはずだ。

最悪彼女に頭を踏まれて物理的に叩き込まれるからだ。

「まあ詳しいことは後日先生にでも聞こう。で、シュシュ的には魔力で殴ることに問題は無いという持論なのだね?」

「……それで良いぞ~」

色々と面倒臭くなったのかシュシュがあっさりと頷いて来た。無責任な。

「と言うか僕らは馬鹿だな」

「どうしてだぞ~?」

百聞は一見に如かずと言うヤツだ。

「ノイエに実際やって貰えば謎は解ける」

「だぞ~」

簡単なロジックでした。

「という訳でノイエ」

「ん~」

何故かフワフワし続けているノイエは気分が良さそうだ。

「ちょっとあそこの鎧を殴って来て」

「はい」

迷わずそのまま出て行こうとしてノイエが壁にぶつかる。

クルっと振り返った彼女の恨めしそうな雰囲気に、僕とシュシュは同時に互いを指さし合った。

「シュシュが悪い」

「旦那様が悪い」

「……」

「「ごめんなさい」」

ノイエの無言の圧に屈して、2人揃って頭を下げる。

「と言うかノイエさん」

「はい」

「あそこの穴から出れば良いでしょうに」

「……」

自分が入って来た穴の存在を忘れていたらしいノイエがクルっとアホ毛を回した。

「分かった。アルグ様が悪い」

「何故にっ!」

相手のミスを指摘した僕が一番の悪になってしまった。

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