軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

これは買収ではありません

ブロイドワン帝国・帝都帝宮内

何の因果か偶然か……たぶん僕は不幸な何かに愛されているのかもしれない。

そうじゃ無ければ向こうからこんなに厄介ごとが舞い込んでくるわけがない。

本気で嫌がらせか? この恨みは厄介ごとを持って来た馬鹿に向けよう。

「おいこの売れ残り」

「何さ?」

最近何かを悟ったのか『売れ残り』に対してのリアクションが薄まったな。

「リグは小さくて大きいで有名な医者だ。こんな場所で医者の世話になるような姿で居る訳がない。これは君の巨乳に対する嫉妬か何かか?」

「その喧嘩、買ってやろうか?」

「ハリセンボンバー」

「みぎゃあ~!」

残念な売れ残りが両腕を抱えて悶えた。

悪と売れ残りは滅びる運命なのです。

新しいタオルを準備してゆっくりと横たわっている女性に近づく。

血肉で汚れているから確信は持てないが、その顔立ちは“リグ”に似ているとも言える。

そっと腕の血を拭うと褐色の肌が見えた。フグラルブ王国の出身者か?

僕が知る限り褐色の肌を持つ人種はあの国にしか知らない。

もしかすれば探せば他に居るのかもしれないが、現時点では知らない。

「だれ、ですか?」

薄っすらと目を開いた女性がこっちを見た。

「ああ気にしないで。通りがかりの運の悪い人間です」

「……こんな場所に?」

「運が悪いんで」

告げてせっせと相手の顔を拭く。

うん。大人って感じのリグに見える。

ただこっちの方が身長は高い。そして薄い。

「あの……何処を見ているんでしょうか?」

「薄いなと思いまして」

「私の故郷ではこれが普通なんです! これでも大きい方で、ゴホッゴホッ」

「無理はしない方が良いと思います。何より嘘はいけないと思います」

「嘘では、ゴホッ」

咳き込み苦しそうにする女性の腕を拭くと、褐色の肌に青痣が見えた。

「無理をすると、また咳き込みますよ」

「……失礼なことを言う人が悪いと思うのですが?」

「そうですか」

クスリと笑って僕は相手に向かい片膝を着く。

「これは大変なご無礼を。フグラルブ王国の王女リリアンナ様」

「……」

薄っすらと開いていた目をさらに広げ、相手がこちらを見つめて来る。

「どうしてその名を?」

「あ~。色々と厄介なんで、とりあえず今後その名前を名乗ってくれますか? そうしてくれるのなら質問に答えますよ」

「……私に王女様の名を偽れと?」

「誰も知らない王女様の存在なんて大した問題にならないでしょうに」

震える手を伸ばし僕を掴もうとする“リリアンナ”の腕を掴む。

そんなに強く握っていないが彼女はその顔を大きく顰めた。

「それに問題は無いでしょう? 貴女は彼女の従姉だ」

「……」

大きく震え僕を見た彼女は、息を深く吐いた。

「貴方がミシュさんの上司だった人かしら?」

「あら不思議。どうしてそれに気づくかな?」

「今日まで色々と話したから」

「なら納得だ」

何より僕のことを話した売れ残りには罰が必要だと思います。

再びのハリセンボンバーで売れ残りに天誅を食らわす。

両腕を抱えてミシュが芋虫のように悶えて転がった。

「貴方なら王女様の居所を知っているとも聞いたわ」

必死に手を伸ばし僕を掴もうとする彼女の腕を改めて掴んで黙らせる。

「これ以上はユニバンス王国の最重要な秘密事項です。“王女”様」

「……」

「だから黙って居てくださいよ。王女様」

と言うか女性に対して暴力的なことをさせないでいただきたいのです。

ずっと掴んでいた相手の腕から力が抜けた。

「……ならお願いがあるの」

「何でしょうか?」

痛みが辛くなったのか彼女は静かにこちらを見る。

「“リグ”に会わせて」

「どうして?」

「……私は彼女を見捨てて逃げたから」

何かを我慢するように彼女はジッと僕を見る。

「だから会って謝りたいの。彼女が許してくれるかは分からないけれど、それでも私は謝りたいのよ」

「そうっすか」

つまり彼女はそれだけの為にこの場所に居るということか。

「おい売れ残り」

「何よ?」

「お前から見て彼女はどう見えた?」

「馬鹿な姉」

即答だった。

言い切って両腕を摩るミシュがどうにか自分の手でタオルを掴んで血肉を拭っていた。

「絶望に溺れて希望を見出し生きる意味を見つけた……そんな馬鹿な存在よ」

「意外と舌が回る売れ残りだこと」

「喧嘩売ってるの? そろそろ本気で」

「ハリセン」

「済みませんでしたっ!」

全力で売れ残りが頭を下げて来たので許すこととする。

まあ馬鹿の方はどうでも良い。

けれど“王女様”の方は……無視できないか。

「僕は貴女のことを許せません。貴女がリグにしたことは酷いことです」

「……はい」

「でもリグがユニバンスに来たからこそ色々な人の人生が変化しました。良くも悪くもね」

そう。良くも悪くもだ。

「だから貴女の処分はリグが決めます。よって今から勝手に死ぬことも許しません。生きてリグに会って彼女の許しを請うこと。了解?」

「……分かりました」

この王女様を僕が勝手に裁く訳にはいかないよな。

何よりリグの身代わりが見つかった。これで今回の騒ぎが終わった時に、フグラルブ王国の報告と一緒にこのまま従姉さんを突き出せば万事解決だ。

面倒ごと? 厄介ごと? 頭痛の種? それ以外にもありそうだけど、お兄様と馬鹿兄貴が大喜びするお土産だな。フグラルブ王国では貴重な魔道具の発見とか出来なかったしな。

このお土産なら喜んでくれるだろう。睨まれる気もするが。

「そんな訳でミシュよ」

「何さ?」

「彼女が元フグラルブ王国の王女様だから」

「……従姉って自己紹介を受けたけど?」

僕が王女様を指さしているとミシュがジト目でこっちを見て来た。

「馬鹿だな~。他国の人に事実を語るわけないじゃん」

「で、他国のアルグスタ様がどうしてその事実を知っているのよ?」

「僕はリグと仲が良いからね。それにここに来る前にフグラルブ王国の廃墟にも寄って情報収集をしてきました。勤勉なのよ」

「へ~」

冷めきった声を出し、ミシュは静かに両手を突き出してきた。

掌を上にして何かを頂戴と言いたげにだ。

「で」

「で?」

「ん」

「はい?」

「ん~ん」

「……」

一国の騎士が露骨に何かを求めるこの行為は許されるのか?

それも元上司に袖の下を求めるとは……僕はそんな態度に対し、毅然として対処しよう。

「……で、幾ら必要なのかね」

「この両手いっぱいの金貨かな?」

毅然とした態度で胸を張り質問する僕に対し、どこぞの馬鹿は生温いことを言った。

『ふざけるな!』だ。

「生温いな。金貨などいう単位は我が家には存在せん。延べ棒をその両手の上に一本置いてやる。確り腕を治しておけ」

「ははぁ~」

深々と頭を下げるミシュは全てを理解してくれた様子だ。

やはり交渉とは毅然とした態度で誠意ある回答が必要なのである。

「あの~」

「何でしょうか?」

僕とミシュの会話を伺っていたリリアンナ女史が何とも言えない表情でこっちを見つめていた。

「それって買収なので、」

「違います」

「……」

「違います」

これは買収ではありません。

ドラグナイト家の当主として毅然とした態度で相手と交渉をしたのです。

結果としてこの交渉を円滑に終えるためには金銭の授受が一番だと“相互”で認め合い、確認し合いそれを実行する。つまりこれは買収ではない。ウインウインな状況です。

「これにて一件落着」

「ふ~ん」

呆れ果てた様子の声に、視線を向けたらシュシュが何とも言えない目で僕を見ていた。

君も『買収ダメ。絶対』とか言うつもりか?

「旦那君」

「何でしょう?」

「新手が来てるぞ~」

「新手?」

ちょいちょいとシュシュが指さす方に目を向けたら納得だ。

あれは何でしょうか?

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