軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

よくも私を舐めたな?

ユニバンス王国・北東部新領地(旧共和国リーデヘル地方)

ディギッド・ハートはそれを見ていた。

彼女が何もない腰の剣を抜いて振り払う様子を。

そして何もないはずの剣が横に一閃し、全てを薙ぎ払い断ち切る様子を。

その場に居た8人の弟子であり部下たちは、横に振り払われた一撃によって胴から上下に分かち地面に崩れ落ちた。

「この本気は凄く疲れるから嫌いなのだ」

「……ふざけるな! なんだその力は!」

「ただ馬鹿な師に剣を学んで身につけた技術だ」

立ち上がりリディは振り返ると、そっと何も握っていない右手を相手へと向けた。

まるで剣の切っ先を向けるようにだ。

「噂では本国にこれに似た技を使うドラゴンスレイヤーが居ると聞く。きっと師であるあの馬鹿者がその一族の流れを受けているのかもしれないが……会いに行こうとしていたのをすっかり忘れていた。

決して初見の人にどう尋ねれば良いのか分からなかったということは無い。どう質問すれば波風が立たないのか知りたくもあるが?」

若干『教えてください』と言いたげな相手にディギッド・ハートは両肩を怒りに振るわせる。

「余裕かね?」

「現状自分の本気はそこそこ強いと思うが?」

「それを余裕と言うのだよ。娘よ」

腰の曲刀を抜いて老人は構えた。

「降ることは無いのか?」

「無いな。暗殺者として請け負った仕事を投げ出すことは死を意味する」

「そうか」

腰に手を戻しリディもまた構える。

《急くな》

唇を舐めて老人は相手を見る。

《長い剣だと思えば良いのだ》

証拠に彼女の背後には、真横に振り払った斬撃の跡が残っている。

《迷うな》

「いざ」

リディは見えざる剣を抜いてそれを横に振り払う。

ディギッド・ハートは全身の筋力をフル活動してその場から上へと飛んだ。

勝負だった。斬撃を飛び越えれば相手は攻撃の手段を失う。だが問題は多い。相手が振るう武器の形状が分からない。自分の跳躍が完全にその一撃を飛び越えられるか分からない。

だから彼は全身が悲鳴を上げるほど真上に飛んだ。高く高く真上に飛んだ。

言いようの無い気配が自分の下を過ぎる。

ディギッド・ハートは勝利を確信し、着地次第相手に飛び掛かろうと身構えた。

「なに?」

娘と呼んでいた人物の“左手”が動いていた。

上から下へ何かを振り下ろすかのようにだ。

自分の体の中を頭から股間へと……何かが通り過ぎるのをディギッド・ハートは感じた。

「済まん。自分は双剣使いだ」

「……酷い話だ、な……」

左右に分かれて老人は地面に伏した。

それを見て大きく息を吐いたリディは、芝生の上へと倒れ込む。

「どうにも疲れる技だな」

子供の頃にこれを山奥で教えてくれた師は、最後に『一度に9回攻撃をしろ。兎に角それを目指せ。俺には出来んがお前はやるんだ。それが我が剣の奥義となる!』とか言っていた。

正直無理だ。今の時差式での双剣が限界だ。

「頂は高いな」

手を空に向かい伸ばし、リディは何かを握ろうとした。

「それよりも、だ」

体を起こし脱力感に襲われる全身に、頬を叩いて活を入れる。

「どこに行ってもユニバンスの最強は串刺しなのだな」

リディとしてもその強さは認める。だが“双剣使い”の自分としては、串刺しよりも憧れている人物が居る。

「自分は破壊魔の方が強いのだと思うのだが」

両手に棍棒を持って振るったという存在にリディは憧れていた。

故に周りから『変わっている』と言われ、忌避されていることを彼女は気づいていない。

「お~」

感嘆の類に匹敵する声を上げ、イーリナは相手の魔法に囚われていた。

人だ。人型だ。生き血を人の形にして支配する馬鹿げた魔法だ。

ただ全ての血液を魔法に使用するわけではない。よく見れば空気を多く取り込んで血液を膜のようにして形作っていた。

そんな血の色をした存在に捕まり拘束されながらもイーリナはつぶさに魔法を見続ける。

「どうだ……我が一族の秘匿魔法は?」

多くの血を使用するこの魔法はあまり良く出来たものではない。けれどその見た目の恐怖から相手の心を砕くことに長けている。

そのはずなのだが……何故か捕らえられた芋虫は嬉しそうに笑っていた。

「凄い。自分の血をこんな風に……でも痛いのは嫌だな。やはり痛いのか?」

「……」

「実は慣れてしまって何も感じないとか? それはそれで嫌だな」

「煩いわっ!」

「キャッ!」

全力で振るった彼の右手が相手の顔を捕らえた。

パンッと大きな音がし、興奮気味に声を発していた芋虫から女性らしい声が響いた。

「囚われておきながら偉そうに!」

彼はようやくその事実を思い出した。

相手は囚われの身であり、自分は今間違いなく勝っているのだ。

そうなると勝者としての余裕がボルズンドを動かす。

ローブのフードを掴んでそれを強引に退ける。

「何だ。子供か」

「……見るな」

ジロリと自分の童顔を嫌うイーリナの目が相手を見る。

だがボルズンドはその声を弱者の遠吠えだと勘違いした。

もう一度無礼な小娘の頬を叩き、魔法の行使で散らばった室内を歩いて回る。

護身用の短剣を見つけ戻って来た彼は、その刃を鞘から解き放った。

「どう料理してやろうか?」

「邪魔をするな」

「邪魔だと?」

クツクツと喉の奥で笑い彼は相手のローブに手をかける。

「良し。全裸に剥いて犯し尽くしてから焼き殺してやろう」

「……」

「穴という穴から炎を押し込んでお前を炭にしてやる!」

笑いながらボルズンドはローブを引っ張っては短剣の刃を立ててそれを引き裂く。

何度も何度もそれを繰り返し……相手が下着姿となった所で手を止めた。

「何だ。楽しめるぐらいに成長しているじゃないか?」

「……」

「何か言え!」

今一度相手の頬を叩き、ボルズンドは彼女の髪を掴んで無理矢理頭を持ち上げた。

「今からお前を犯し尽くしてやる。良いな?」

料理を前に舌なめずりする感覚でボルズンドは彼女の頬を舐めた。

その行為が彼の死を確定した。

「舐めたな?」

「なに?」

ジロリと向けられた目は、何の感情も感じさせないガラス玉の様にも見えた。

一瞬たじろいだボルズンドは掴んでいた彼女の髪から手を離す。

一歩二歩と後退し……三歩四歩と続かなかった。

「何だ?」

「もう良い。この魔法も目新しくなかった」

「なに?」

自分の足に向けかけた視線を彼は囚われの敵へと向ける。

事実を知りボルズンドは愕然とした。

自分の魔法が彼の意志とは関係なく解除され、弾けた血液が床へ落ちて染みを作ったのだ。

静かに床の上に立つイーリナは、冷ややかな目で相手を眺めた。

「どうせもう死ぬのだから静かに待っていれば良かったのに」

「……」

「よくも私を舐めたな? 変態が!」

「何がっ!」

彼女が振るった拳が彼の股間に炸裂する。

ただしボルズンドが思いもしないことが起きた。

石を纏った相手の拳を、これまた石を纏った自分の股間が防いだのだ。

ただ防いだのは直撃であり、その衝撃は石を伝ってボルズンドを襲う。男にしか分からない激痛に彼は全身をガクガクと震わせた。

「私の魔法は手垢まみれの物だ」

軽く腕を回し、イーリナは全身に石を纏っていく。

対するボルズンドもまた全身に石を纏いだしていた。

「今日は巨大化する必要もない。ただ自分と相手の身を覆うくらいの石なら、それなりの時間魔法を維持できる」

「……何をする気だ?」

股間の激痛と囚われた恐怖から、ボルズンドは集中できずにいた。

普段の彼なら何の苦も無く魔法を使えるはずなのに……相手の殺気にあてられ正常ではいられないのだ。

「気晴らしだ」

「なに?」

「私が今からお前を殴り続ける。で、お前は死ぬまで殴られる……それだけだ」

冷たく言い捨てられた言葉にボルズンドは絶叫した。

けれど彼の顔を石が覆い……それからイーリナは自分の気が済むまで相手を殴り続けた。

石像と化したボルズンドが撲殺されるまで長い時間を要しない。

腕を振るうイーリナもそれに気づかず、ただ気が晴れるまで殴り続けていたという。

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