軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

決死の覚悟でお願いします

ユニバンス王国・北東部街道

「……吐く」

「イーリナ。あっちでお願い」

「……」

馬車の上から降りて来たローブ姿の何かが口元を押さえて駆けて行った。

先に花を摘みに行ったエレイーナが向かった方向だが問題は無いはずだ。

少ししてから女性2人の悲鳴が聞こえてきたが。

響き渡った悲鳴など全く気にした様子もなく長身の女性は火にかけた鍋の中身をかき混ぜる。

簡単なスープだ。具から何から全てが保存食の簡易的な物だ。

「美味しくはないけれど」

「十分だ。日々食べている物よりも上等だとも」

スープを満たした皿を受け取り、リディはスプーンで中身を掬う。

暖かいというだけで美味しく感じる。

「国軍の食事はそんなにも酷いのですか?」

「ちゃんと作って食べる者たちも居るな。ただ自分は面倒に感じてな……保存食をそのまま齧っておしまいだ」

「それは物足らないと言うか何と言うか」

「あはは。食にこだわりが無いんだよ」

自ら認めていることなのでリディは特にそのことを何とも思っていない。

食事など腹を満たして栄養が取れれば十分だと思っているのだ。

「その考えは体に良くないかと」

「周りからもそう言われるな。だが面倒だ」

受け取った皿を空にし、リディは腰にぶら下げている水筒を掴んだ。

いつも持ち歩いているワインだ。それを口へと運ぶ。

「お飲みになるのですが?」

「ああ。好きでは無いんだけどね」

ワインを口にしたリディの素直な感想がそれだ。

「でも自分が憧れた女性騎士は、大層な大酒のみだったらしい」

「大酒のみですか……」

大酒のみで有名な女性騎士は『串刺し』だ。

前の大戦で殺しすぎたぐらいに敵を屠った女性騎士の2つ名だ。

「あはは。これを言うとみんな嫌な顔をしてその名を口にするんだよな」

「彼女は咎人ですから」

「でも陛下が彼女たちの罪を許したと?」

「……」

不意に話し相手の雰囲気が変わり、リディは相手に目を向けた。

静かに鍋の中身が焦げない様にかき混ぜる自分の手をレイザは見つめていた。

「リディ様はあの日?」

「運よく難を逃れた。自分が住んでいた場所は結構な田舎だったしな」

「そうですか」

「……レイザは?」

「御覧の通りです」

スッと頭が回りレイザの顔がリディを見る。

人形のような無機質……人形の顔がリディを見た。

「この体を作り出したのが咎人の1人です」

「……何をされた?」

「簡単な話です」

淡々とレイザからその声が聞こえて来る。

「彼女が狂って私の体をこうした。何処にでもある話です」

「そうか」

「ただ幸運だったのは私にこれを与えてくれた人物が居たことです」

「これとはその人形か?」

「はい」

熱々に熱せられているであろう鍋の取っ手を直接掴んで、レイザはそれを地面に置く。

中にゴミなど入らない様に蓋をし、彼女は静かに胸元を開いた。

「その人は自分のことを『旅人』と名乗ったそうです。私の傷の手当てをし、それからこの体を与えてくれました」

「その人形は何なのだ?」

「はい。何でも昔に三大魔女が作ったメイド人形そのものだとか。それを旅人と名乗った人物が私専用に加工してくれたのです」

「そうか」

そんな貴重な物を良く手に入れられたものだとリディは思った。

三大魔女が作った魔道具はどの国でも高値が付き取引される。品物によっては国家が破綻しかねないほどの金銭を積み上げることもあるらしい。

それほどに三大魔女が作った物をどの国も欲するのだ。

「そうです。事実この価値を知ってから王国から是非とも買い取りたいと申し出がありました」

「それは……応じたのか?」

「応じられません。リディ様は自分の手足を売りますか?」

「売れないな」

「私もです。だからお断りしたのですが、だったらと言うことでお城で働くこととなりまして」

ようやくリディの中で何かが繋がったような気がした。

「それで王妃様の専属を?」

「いいえ。それは王弟様からのご指示で」

「では近衛の所属か?」

「実は違います」

繋がった気がしただけだった。むしろ分からなくなる。

そんなリディを察してか、胴体から顔を覗かせるレイザがクスクスと笑った。

「私の正式な所属は宮廷魔術師団です」

「……魔術師団って実在したのか?」

「しています。活動が特殊ですが」

クスクスと笑いレイザは一度視線を巡らせる。

とは言っても首から上をクルっと一周させたものだが。

御者は馬車の傍に居る。イーリナとエレイーナは近くの小川に居る。

ここでの声が届く距離でも無いし問題無いとレイザは判断した。

「王家からの指示で動く私たちは普段別の仕事に付いているのです。

唯一表立って宮廷魔術師として相談役などをしているケインズ様ですが、あくまで彼は王家からの依頼を受ける人物です。引き受け必要な人物を召喚し活動する準備を整えるのが彼の仕事です」

「そうなのか」

全く知らない話にリディとしては頷き聞き入るしかできなかった。

「はい。ただしこの話は他言無用の国家機密です」

「……」

「もし誰かに話そうものなら、ユニバンス王家が抱える暗殺者が上から順番に貴女の元を訪れると思ってくださいね?」

「……そうか」

内心冷や汗を浮かべリディは深いため息を吐きだした。

「つまりレイザは魔法使いなのか?」

「所属の上ではそうなっていますが……私の場合は少し特別な魔法を行使しますので」

「特殊?」

「はい」

広げていた胸元を閉じレイザは立ち上がる仕草を見せる。

茂みに居たはずの2人が戻ってくる気配をリディは感じた。

「ここから先は僅かな人しか知らない話です。ですからリディ様にもまだお教えできません」

「知りたかったらネルネを相手するような覚悟で挑めと?」

「いいえ」

無表情な人形の顔がリディを見た。

「決死の覚悟でお願いします」

「怖い話だな。本当に」

軽くお道化てリディはその気がないとレイザに示した。

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