作品タイトル不明
踊れるの?
「あ~」
自宅に帰って踊りの練習とか……こんな宿題染みたことは本当に久しぶりだな。
でもパートナーが居ないと踊りの練習って傍から見ると馬鹿っぽく見えない? とは言ってもね~。
ベッドの上でノイエが膝を抱いてこっちを見ている。なんか不機嫌オーラが見える気がする。
「ノイエ?」
「……」
アホ毛が不機嫌に揺れている。
何故に? 本日何かミスしたっけかな?
「ノイエは踊れるの?」
「……はい」
「そっか」
どこで学んだのか知らないけど踊れるとか本当に羨ましいな。
「あ~。もうあれだ。やっぱ明日もう一度フレアさんに習おう」
「……」
「もうさっさと寝て明日だ明日」
教えてくれる人が居ないんだから練習しても良く分からん。
早々に諦めてベッドの上に登る。
プイッとそっぽを向いたノイエがコロッと横になって目を閉じた。
むっ? 『おやすみなさい』も無いのは寂しいぞ?
「ん~。んっ?」
胸に凄い圧迫感を覚えて目を覚ますと……ノイエが馬乗りで座っていた。
ただ彼女の色が違う。朱色の髪と黄色い瞳だ。
「……どちら様でしょうか?」
「あはは。お嫁さんに馬乗りされてどうしてそんな声出すかな~」
一瞬の笑い声にビクッとなったけどファシーじゃない。色が違うし笑い方が違う。
何と言うかファシーは暗めの『あはは……↓』だけど、こっちは明るい感じの『あはは~↑』だ。
明るい感じに見えるだけあってノイエの表情がっ! まさかの笑顔だとっ!
「ちょっと旦那君? 何々……私に欲情しちゃった?」
「ごめん。笑顔のノイエが余りにも魅力的過ぎて」
「あはは。ノイエは昔っからすまし顔だしね~。本当に可愛いんだけど」
抱き付いて全力ハグしていたのに、相手は体を軽く振ると僕の腕から逃げ出した。スルッと綺麗に逃げられてしまったよ。
ベッドから降りて床に立った彼女は、その場で軽く自分の体を確認する様に手足を見つめている。
「あんな小さかったノイエが、もう本当に女性よね。胸なんて……あれ? 私より大きくなってる?」
「あの~。そんな所でムニュムニュと揉まないでくれますか?」
「あれれ? お嫁さんの痴態を見て興奮しちゃった? あはは。旦那君はスケベだな~。お嫁さんにこんな寝間着を着せてさ」
「それはうちのメイドさんの趣味です」
「でも止めさせないから好きなんでしょ?」
否定は出来ませんな。ああ好きですとも。
ノリの軽い彼女は、その場で軽くクルッと回ると……何故か僕に対して手を伸ばして来た。
「あはは。ダメだよ旦那君。女性がお誘いしているんだから軽く手を取って応じないと」
「はい?」
「こんなマナーも習って無いの?」
「何のマナーでしょうか?」
「踊りよ踊り」
ガシッと手を掴まれて彼女に引っ張られる。
ベッドを降りて床に立つと、フワッと優しくノイエが抱き付いて来た。
「良い? 踊りなんて型通りするから嫌になるの」
「……」
「相手が上手いのなら相手に任せれば良いの」
「どうやって?」
「それを教えるために出て来たんだから感謝してよね。お礼は後で貰うけど」
クスクスと笑うその表情が~っ! 笑顔が~っ!
「旦那君? 抱き付かれると踊れないよ?」
「ごめんなさい。その笑顔は反則です」
「あはは。本当にノイエにぞっこんなんだね」
皆まで言うな。惚れているがな。
「はいはい。ならお嫁さんが恥をかかないように確りと練習しないとね」
「ノイエが恥?」
「そうでしょう? 舞踏会の最後に踊る相手は最も親しい人か、意中の人が相場だよ。ノイエ以外の人と踊ったりしたら……明日の夜グローディアに殺されるよ?」
「……」
知らなかったよそんなルール。
「あはは。まあ私が出て来たのはそんなグローディアの指示なんだけどね」
「はい?」
「『ノイエが恥をかきそうだから行って半人前程度にして来なさい』って……お願いじゃなくて脅迫で」
「何かすいません」
「あはは。お蔭で出れたしね……2年振りかな~。表に出たの」
抱き付いて来る彼女の重心移動に従い足を動かし居ると、何となく踊っているようにも見えるかな?
「私たちはグローディアたちと違って魔力が余り無いから表に出にくいんだよね」
「そうなの?」
「ええ。比較的簡単に出れるのはグローディアとファシーかな。シュシュも出やすいんだけど、出てもやること無いから飽きて直ぐに戻っちゃう。ノイエが変な場所で寝てたら犯人は彼女」
「へ~」
「あと何人かたぶん出れる人も居ると思うんだけど、『出るのが面倒臭い』とか『することが無い』とか『女の体で何をしろ?』とか不満ばかり言って出て来ないのよね。あ~勿体無い」
何か物凄い発言が混ざっていたような?
「その中って『男性』も居るの?」
「居るよ~。何人かね。でも恋人同士で中に居る人たちは、比較的自分たちの時間を過ごして居るから……まあきっとこんな風に出て来ることは無いかな。話し合いの時に顔を出すくらいかも」
「話し合い?」
「ん~。秘密。あはは……結構言い過ぎてるから帰ったら危ないかも」
「大丈夫?」
「ま~ね。たぶんアイルローゼ辺りに半殺しにされるかな? 彼女真面目過ぎるから危ないんだよね~」
ゆっくりとした動きで一応踊りながら、彼女の話に耳を傾ける。
もしかして今……物凄く幸せな時間を過ごして居るかも。
笑顔のノイエと踊るだなんて、全く想像もしていなかった。
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