軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ケーキを食べさせてくれないです~

ブロイドワン帝国・旧フグラルブ王国王都郊外

「……暇だな」

燦燦と照り付ける太陽を見上げ、巨躯の女性は砂の上で大の字になっていた。

色々と飽きてしまった。具体的に言うと食べ物に選択肢が無いのだ。

ワニのような獣しか食せる生き物が居ない。後はドラゴンだ。不味くて食えない。

飲み水はワニの生き血でどうにかなる。どんな劣悪な環境でも生きられるのがオーガの強みでもある。

問題はとにかく暇なのだ。

「……暇だな」

頭を横に向けると、ぐでっと伸びているリスが居た。

纏っている毛皮のせいで体温が上昇しているのだ。

「……剥くか?」

「……」

身の危険を感じたらしいリスが這うように逃げ出そうとする。

だが相手が悪い。その太く長い腕が伸びて来て……あっさりとリスは捕まってしまった。

「あちち……これはたまらんな」

手にしただけでオーガは眉間に眉を寄せた。

このままでは間違いなく死んでしまうだろう。そうなれば飯の足しにするだけだが。

身を起こしてオーガは砂を掘り出す。30cmも掘ると地盤が固くなった。

脱ぎ捨てた鎧を砂除けにしながら地盤を軽く掘り下げる。水が出ることは無いが、若干の湿り気はある。それで十分だ。

掬うように持ち上げたリスを掘った穴に入れた。

何も分からず首を傾げるリスがオーガを見上げる。

彼女は何も言わずにゴロリと横になると、穴の中に日差しが射し込まないよう自分の体を壁とした。

「全く……アタシは暴れたいんだけどね」

『ふんっ』と鼻で笑い、オーガはまた新たなる獲物が飛び掛かって来るまでその場で待機するのであった。

ユニバンス王国・王城内

「シュニット陛下」

「何か?」

また小うるさいハエがやって来たと思いつつも、国王たるシュニットは表情を正した。

「何でも昨日、帝国に出向いたはずの陛下の弟君がこの王都に居たとか。それは事実ですかな?」

「それは事実では無いな」

また同じ質問だ。本当に成長の少ない馬鹿たちだ。

「居たのは彼の妻であり私の義理の妹でもあるノイエだ」

「ですが弟君はあのドラゴンスレイヤーと共に帝国に向かったと伺いましたが?」

「それは事実である」

そのはずなのだが、昨日王都上空を移動するノイエの姿が広く目撃された。

弟であるアルグスタは妻であるノイエを溺愛している。別れて行動することは考えにくく、たぶん彼も一緒にこの国に居ると思われているのだ。

「何でも皇帝の葬儀に参列するために出向いたとか? それなのにどうして弟君はこの国に、この王都に居るのでしょうか?」

「……分からんな」

正直に告げてシュニットは肩まで竦めてやる。

「分からないと? 陛下は分からないと申されるのですか?」

「ああ分からんよ」

「これは酷い怠慢ですな。陛下ともあろうお方が弟1人の行動を把握できないとは」

過剰に声を荒げる相手を冷ややかに見つめ、シュニットは内心で笑う。

「私も暇ではないのでな。臣下の行動を全て把握などできんよ」

「何を仰いますか陛下! 弟君は帝国に向かうと言う大変名誉ある指示を陛下より賜り、」

「貴殿は暇そうであるな?」

「……はっ?」

話の腰を折られ貴族の男は間の抜けた声を発した。

「宜しい。ならば貴殿に対し国王たる私が命じよう」

「……何をでしょうか?」

「簡単な仕事だ」

ニヤリと笑いシュニットは何度目かの言葉を口にした。

「今すぐにアルグスタを見つけ私の前に連れて来ることだ。簡単であろう?」

「……自分は……別に仕事が……」

「何を言うか? 帝国に向かうことは大変重要な仕事なのであろう? ならば何を置いてもアルグスタを見つけ出すことは最重要であろう? 違うか?」

「……」

言葉を失った貴族の表情から血の気が一気に失われて行く。

「再度命じよう。急いで」

とシュニットは言葉を止めた。相手が白目を剥いて卒倒したからだ。

《アルグスタ……と言うよりもノイエと敵対するのが恐ろしいのならばわざわざ相手に噛みつこうとしなければよいものを》

それでも噛みつこうとするのが貴族なのかもしれない。

半ば呆れつつシュニットは倒れた貴族の処置をメイドたちに命じた。

これ以上馬鹿な貴族たちと会いたくもないのでシュニットは急ぎ自分の仕事場へと向かう。

「陛下」

「何か?」

スッと小走りでやって来たメイドが半歩後ろにやって来た。

「近衛団長様からですが、屋敷に出入りしている気配は無いと」

「だろうな。ならば北の別荘か?」

「そう思われますがドラゴン退治の都合」

「騎士を派遣し確認するわけにも行けないか……仕方あるまい」

無理をして騎士たちを派遣したとしても弟夫婦が逃げ出している可能性もある。

あの夫婦はその手の勝手をすることに躊躇いが無い。天然で嫌がらせをすることの天才なのだ。

「彼らが王都で何を買い込んだのかの調査は?」

「はい。大半が食料でした。後はワインや服なども含まれているようですが」

「……兵站の確保とも考えられるな」

彼らの最大の武器は転移魔法だ。その気になれば一時的にこの国に逃げて来ることもできる。

ただ勝手に別の場所に転移先を作られていたのは困りものである。それか中庭に置いて居る転移先に問題が発生した時の対策なのか。

「戻ってきたらまた話し合わねばならんらしい」

何より貴族たちが徒党を組んで突き上げるはずだ。

本当にあれは敵を作ることに関しても天才なのかもしれない。

《何より味方を作る天才でもあるがな》

苦笑し仕事部屋でもある政務室に雪崩れ込んだシュニットは、そこで待ち構えていた人物を見て……ため息を吐きだした。

「シュニット様」

「何事か? キャミリー」

小柄で愛らしい少女の様な王妃は、何故かメイドの腕によって抱えられていた。

荷物のように扱われているのだが、そのことに関しては不満が無いようにも見える。

「おにーちゃんたちが戻ったと聞いたです~。早くこの冗談が通じないメイドを返品するです~」

「……戻ってはいるらしいが、姿を消している」

「北の別荘に居るです。確実です」

「そうか」

間違いなく王妃は祝福を授かった者を探す要領で彼らの現在位置を確認したのだろう。

「だがアルグスタたちには転移魔法がある。騎士が来れば逃げるかもしれんぞ?」

「むが~です~。せめてこのメイドを変えて欲しいです~」

ジタバタと暴れる王妃を抱えるメイドは、ドラグナイト家から借り受けているメイド長秘蔵の弟子だ。

ただ今日は……と言うか、借り受けて来てから彼女の表情は死んだままだ。

最愛の人と生き別れたのかと思わせるほど表情が死んでいる。

「冗談が通じないです~。ケーキを食べさせてくれないです~」

「……王妃様。仕事をしましょう」

「嫌です~。私はケーキが食べたいんです~」

勝手に話が終わったと判断したのか、王妃を抱えるメイドがそのまま部屋を出て行った。

「アルグスタの店にケーキの注文を頼む」

哀れを通り越して笑ってしまう王妃の姿にシュニットは控えているメイドに声を掛けた。

「宜しいのですか?」

「ああ」

苦笑し椅子に腰かけたシュニットは、深々とため息を吐いた。

「あれがへそを曲げると色々と厄介なのだよ。アルグスタと同じでな」

「畏まりました」

メイドとしてではなく護衛として待機している人物は主の命令に従うこととした。

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