軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

聞こえますか?

旧フグラルブ王国領・地下室内

『聞こえますか?』

同じ感じでもう一度声が響いた。優しい女性の声だ。

母親が子供に言い聞かせるようなそんな感じに聞こえる。

ただ音が止まった。

不審に思ったノイエが包んでいた手を解いて自分の掌を見ている。

「まっ丁度良かったかもね」

悪魔はそう言うとその場でクルっとターンを決めた。パチパチッと指を鳴らす音が響くと椅子にテーブル。ソファーまでもが姿を現した。

流石にチート過ぎると思います。

「ただの格納魔法よ。異空間に格納した物を取り出すってヤツ。取り出した物は人体に影響は無いから安心なさい」

僕の無言の視線に言い訳をし、悪魔は1人椅子に腰かける。

と言うか取り出した物は安全って……安全じゃない状況があるんですか?

質問するか悩んでいると、悪魔がエプロンの裏からお菓子箱やらティーセットを取り出しお茶の準備を進める。

「そっちのソファーでも使って。どうせ話を聞くだけだろうから主導権を変えるわ」

右目の模様が消えポーラが元に戻る。

「にいさま。ねえさまたちもすわってください」

元に戻るとメイドになってしまうのが我が家の妹様だ。

案内されつつもソファーに座る。

何故か並びがリグ。僕。ノイエだ。

挟まれてしまった。何かあったら逃げられない。

「にいさま」

「はい?」

「ねえさまのおかしです」

エプロンの裏からポーラが大量の菓子箱を……僕はもうあのエプロンに対してツッコミを入れないと誓ったからスルーだ。どうせ裏側に格納魔法の術式とか……あれ? 実はエプロンにプレートとか埋め込まれているのか? ツッコミを入れる気は無いが興味は深々だぞ?

「あの……にいさま。そんなにみつめられるとはずかしいです」

「ダメ」

「……」

ノイエの手が伸びて来て恥ずかしがるポーラの姿が隠れた。無言でわき腹を抓るリグもお怒りのようだ。

だが待って欲しい。僕はただ妹のエプロンを見ていただけだ。決して嘘ではない。

しかし僕は言い訳などしない。したところでノイエは理解してくれないし、リグは増々怒りそうだ。

「ごめん。見るならノイエだよね?」

「はい」

『さあ見て』と言わんばかりにノイエのアホ毛がクルンと回る。と同時にまた脇腹を狙いに来たリグの手を掴んで恋人握りをした。

何度かギュッギュッと握ったり放したりを繰り返しリグが怒った感じを漂わせていたが、その抵抗が止まると僕に寄りかかって甘えだした。と言うか絶対に眠くなっている気がする。

完璧に2人の対応を済ませていると、ポーラが紅茶の準備を終えていた。

あのポットってどんな原理でお湯を沸かしているのだろう? 何気にあの悪魔って色々とアイテムを隠しているよな。

「ごほん。それではノイエさん」

「あむっ?」

片手で宝石を持ちもう片方を高速移動させているノイエの口が止まらない。

君は夕飯に大盛りご飯を食べていませんでしたか? ご飯は飲み物なのですか?

「その宝石を包むように持って」

「ダメ」

「何故に?」

「残すのは失礼」

誰に対しての何の責任感ですか?

封を切ったお菓子の箱を無事に空にしたノイエさんは、流れる動作で次の箱を開けた。

止める間もないとはこのことか? 結果5箱空にして紅茶を飲み干す。

「ノイエは大食漢だね」

「大食漢で片付けて良いのか?」

「良いと思うよ。昔からノイエの胃袋は底なしだし」

呆れた様子で寄りかかるリグが、しみじみとそんなことを言うのです。

「アルグ様」

「ほい」

「こう?」

上下で挟むようにノイエが宝石を手で包む。

覚えてくれていたようだ。ノイエだってやれば出来る時もある。

『聞こえますか?』

また最初から言葉が流れ出した。

『聞こえますか?

誰かが聞いてくれていると信じ私はここに言葉を残そうと思います。

私の不注意から病気となり早や数か月……夫と王家との間には深すぎる溝が存在しています。ですが私にはそれを取り除くことが出来ません。仕方ないのです。

王家はずっと夫たちの一族を敵視して来ました。ちゃんと研究成果を提出しているのにもかかわらず、大臣たちの声に抗えずに王家はずっと研究所に更なる魔道具が隠されていると信じ込んでしまったのです。

少しでもその不仲を解消するべく私は穏健派の人たちから乞われ夫と結婚しました。

研究所を手伝いながら、不正はない。隠している物はないと……どれほど声を上げても信じてはもらえません。

大臣たちはただ敵が欲しかったのです。自分たちの悪事を隠すために、王家の目が別の所へと向くようにと……だからずっと攻撃対象を求めていたのです』

軽い咳払いが響き、声がまた始まる。

『ごめんなさいね。これを聞いている人が私たちのことを知っている人とは限らないことを失念していました。

私の名前はリーナ・イーツン・フーラー。フグラルブ王国魔法研究所所長のバイゼンの妻です』

ピクリとリグはその体を震わせた。

『でもここに入って来れるのは少なくとも王家の血を引く者か研究所の秘密を知る人のはず。もしそれ以外の人がこれを聞いているのなら、フグラルブ王国は滅び去り遺跡として発掘でもされているのでしょうね。なら昔話とでも思って聞いてください』

少しの間を取り……また声が響いてくる。

冷たい感じのする人を突き放すような声音に変化した。

『この国には多くの魔道具が眠っています。ですがそれらを持ち出すことなくこの場所に安置しておいてください。これはお願いではなく警告です』

スウッと息を吸う音がし、軽くせき込む音が響いた。

『この地に封じられている魔道具は、全て三大魔女が廃棄した物です。大半が正常に動くことはなくそして動く物の中には人の世に出してはいけない物が多く存在しています。

そう聞けば逆に興味を覚えましたか? ですがその好奇心はこれを聞く人たちを死に追いやるものです』

また声が止まる。

静かな時間が数秒続き……言葉が再開する。

『ごめんなさい。病気でもう長く無くて……喋ることしか出来ないけれど、それでもとても辛いので』

また咳き込んだ。

『もしこれを聞く人たちが興味本位でここに来ているというのなら、今すぐお帰りください。この地は呪われた場所。三大魔女が見限った土地。そしてすべての最悪が封ぜられた墓所なのです。

ですからどうかこれ以上墓を漁らずにお戻り下さい。その好奇心がこの地を、この大陸を亡ぼすかもしれません』

警告が終わり、また静寂が訪れる。

『外部の人には以上で良いかしら? なら次からは……もしこれを聞いている人が私の知る人だと思って言葉を残そうと思います』

一転、また声音が穏やかな物になった。

『これを聞いているのはどちらかしら? 私以外でここに来れるのは王女様とリグだけのはずだから……どちらかだったら嬉しいわ。それか2人一緒なら幸いね。少しは王家と研究所の仲が、関係が回復したのだと思いたいから』

震えるリグをアルグスタは黙って抱きしめた。

背中に手を回し、ポンポンと優しく叩く。

『私の大好きなリグ。私の可愛い娘……ちゃんとお姉ちゃんをしていますか? 貴女は何があっても王女様を守らなければダメよ? 王女様の為に生きることが貴女の使命なのだから。

だからもし王女様に何かがあれば貴女が彼女の代わりとなりなさい』

不意に言葉が止まり、すすり泣く声が響いた。

『ごめんなさい。今のは私の我が儘。立場ばかり考えた酷い母親の言葉よね?

本当はリグに生きて欲しい。もし自分と王女様の命を天秤にかけるようなことになったら、貴女は自分の命を選びなさい。

私も酷い娘だから……王家からの命令を無視した。王女様の証である模様を貴女に入れなかった。王女様と同じように貴女の足の付け根に何かしらの模様のホクロを付けるようにと命じられたのに入れなかった。

だから貴女がどんなに王女様の振りをしても逃れられる。貴女は王女様じゃないのだから』

切々と伝わる言葉に……ソファーに座るリグはゆっくりと、確認をするように足を開く。

足の付け根には刺青は無い。ただ一か所を除いて。

彼女の右足の付け根には小さな星型のホクロが存在していた。

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