軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

どこに行くのかな~?

ブロイドワン帝国・旧フグラルブ王国領

「ごめんなさいアルグちゃん。私だってこんなことはしたくないの……でも逆らえないのよ!」

『ハァハァ』とした息使いがBGMと化し、全裸のお姉ちゃんが僕を制する。

安定のマウントポジションだ。

あの悪魔はズルい。形勢不利と悟るとホリーに交渉を持ちかけた。

『そこの精神異常者! 妊娠実験の被験者にならない?』と。

あっさりとホリーは僕を捕まえ砂の上に押し倒した。

で、尻を叩かれ続けた悪魔はあっちで診察を受けている。砂の上でスカートを捲りリグにお尻を向けている。それを診察するリグは全裸だ。

「腫れてない?」

「大丈夫。冷やせば平気」

「しくしく。嫁入り前の大切な体がどんどん痛みに耐えられるようになってきたわ」

「大丈夫。そっちは慣れれば平気」

そろそろ誰かこのカオスな状況にツッコミを入れて欲しい。

何より君は医者だよね? リグさん。何を口走ってますか?

必死に向こうの様子を伺う僕の顔をホリーが両手で包みグイッと動かす。

正面に愛しのノイエの姿をしたお姉ちゃんだ。肉食獣だ。彼女の興奮は止まらない。

「大丈夫。実験が成功したら私がたくさんアルグちゃんとの子供を産むから!」

「落ち着いてお姉ちゃん。出来たらそろそろ服を着ようか?」

「心配いらないわ! ノイエの体なら病気にならないし!」

確かにね。食事があれば彼女は何度でも蘇る。

「ああ早くアルグちゃんとして……仕込まないと。そうすれば!」

感極まった様子でホリーが両手を天へと掲げた。

「アルグちゃんの長男長女は私が独占よ!」

何を叫んでいる。本気で落ち着け。

その理論だと男女が生まれるまでホリーだけが妊娠し続けることになる。

……僕の身になれ! 僕の身を案じろ!

「あっそれは無理」

「「えっ?」」

ホリーと一緒にその声に反応する。

スカートを戻しながら立ち上がった悪魔がこっちを見ていた。

「歌姫の中にもう宿っているから両方の独占は無理ね。どっちかは生まれてみないと分からないけど、片方しか残っていないはず」

「「「……」」」

とんでもない爆弾を投げ込まれた。

「今何と?」

「だぞ?」

「……」

外を見ていた2人の気配が変わり、セシリーンは静かに這うようにその場から移動を開始した。

凄く嬉しかった。告げられた時は心臓が止まりそうなくらいにドクッと飛び跳ねた。

言いようの無い感情が体の奥から湧き上がって来て、嬉しくて嬉しくて……逃走が出来なくなった。

「セシリーン……どこに行くのかな~?」

「だぁぞぅ~?」

「ひいっ」

スカートを踏まれ逃げられない。

それだったら服を脱いででもと必死に抵抗するが、悪鬼羅刹のような禍々しい気配を発する2人が見逃してくれない。

抵抗空しく歌姫は、床に磔にされるかのような体勢になった。

右の手と左の手……片方ずつをレニーラとシュシュが踏み強制的に仰向けにされる。

「ねえシュシュ」

「なんだぞ?」

「宿ったばかりだと……子宮を取り出しても、その中に居る旦那君の子供は見つけられないのかな?」

「見えるかもしれないぞ?」

「何をする気なの? 止めて……レニーラ」

こんな時ばかりは自分が盲目であることをセシリーンは呪った。

何も見えない。自分の手を踏みおどろおどろしい声を発する2人の様子が分からない。

と、冷たい何かがセシリーンのお腹に触れた。

「決まっているでしょう? このお腹を裂いて中身を取り出して私のお腹に入れるの。そうすれば旦那君の最初の子供を産むのは私になる」

「だぞう」

「落ち着いて2人とも!」

それは取り出した後に血で血を洗う恐ろしい戦いが待っている。子宮は1つしかないのだ。

らしくないほどヒステリックに叫んでセシリーンは抵抗する。

自分のお腹が裂かれて中身を持ち出される……それは、それだけは絶対に阻止したい。だって彼との子供だ。順番なんて関係ない。ただただ産みたい。産みたいのだ。

「お願い止めて。もしお腹の子が傷でも受けて死んでしまったらどうするの!」

「「……」」

「2人はアルグスタ様の子を殺すと言うの!」

それは本心だ。大切な人の子供を殺すだなんてセシリーンには出来ない。

「あ~。それだと旦那君が悲しむね」

「だぞ~」

両手に圧し掛かっていた圧が消えた。

良かった。2人とも正常に戻ってくれた……そう思うセシリーンの耳に静かな音が届いた。

「封印」

シュシュの魔法だ。

天才的な能力の持ち主であるシュシュの魔法を、魔法が使えない歌姫では回避できない。あっさりと捕縛され拘束された。

「止めて! 何をするの?」

「うん。だから傷をつけない練習」

「だぞ」

「れん……しゅう?」

言いようの無い冷たい汗がセシリーンの全身を濡らす。

2人の言葉の意味が分からない。分かりたくない。

「丁度あっちに腰を抜かせた変態が居るしね」

「だぞ~」

変態とは全身を痙攣させたままのエウリンカのことだろう。

それぐらいセシリーンにも分かる。

「ちょっとどうすれば奇麗に子宮を取り出せるか練習して来るね」

「待ってるんだぞ~」

「ひぃっ!」

本気だ。この2人は本気だ。

事実カラカラと何か硬い物を引きずるようにレニーラたちが震えるエウリンカに向かう足音が聞こえる。

鉄のような何かが床に触れる音か? 考えられる状況からして魔剣の切っ先か?

《誰か……そう。アイル!》

あの魔女は自分の性格を理解していないだけで、本当に不器用だが優しい存在だ。

きっと彼女とて彼の子供の身を案じて助けてくれる。そのはずだ。

「……アイル? 嘘よね?」

だが期待は裏切られた。

器用に何かしらの方法で音を発する魔女から伝わって来るその意思は、簡単かつ明確だ。

『許さない。絶対に』と……それだけが何度も何度も繰り返されている。

逃げ出したいのに逃げられない。助けて欲しいのに助けてくれる人は居ない。

グルグルと頭の中で真っ黒な思いが歌姫の精神を苛む。

「止めて~! お腹は……いやぁ~!」

響いて来たエウリンカの悲鳴に、プチっとセシリーンの頭の中で何かが切れた。

遂に耐えられなくなったセシリーンは何もかも忘れて全力で叫んでいた。

「いゃぁ~! 助けて~!」

「歌姫? 貴女は自分の能力を分かってる?」

吐くだけ吐いて戻って来たグローディアは、まだズキズキと痛む耳を押さえる。出血は止まった。

本当にあの歌姫の声は脅威だ。遠くに離れていても声だけで耳を壊されるのだから。

「聞いてるの? 歌ひ……ひぃっ!」

中を覗いたグローディアは余りにも凄惨すぎる状況に悲鳴を上げ、その場に座り込んだ。

何やらエウリンカの内臓を取り出していた様子のレニーラとシュシュは両耳から血と何かを溢れさせ絶命していた。腹を裂かれたエウリンカも同様に死んでいる。離れた場所ではバラバラのパーツと化した魔女が転がったままだ。生きているの死んでいるのか分からない。

そして犯人であろう人物は……膝を抱いて蹲り、壁の方を向いてブツブツと呟いていた。

『大丈夫。お母さんが守るから』とその言葉を延々と吐き出しているのだ。

「……教えて。何があったの?」

その元王女の質問に答える者は誰も居なかった。

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