軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

この魔眼がフラスコなのよ

ブロイドワン帝国・旧フグラルブ王国領

気持ちの良い話では無いらしいのでお姉ちゃんは詳しいコメントを避けた。

『出来たら詳しく……』と言葉にしたら、ノイエの顔に浮かべてはいけない凶悪な目で睨み返されました。ただお姉ちゃんはあの魔女にいつの日か復讐をすると固く誓っていたので、僕も必ず手伝おうと思います。

で、本題だ。知ったのは鎮魂祭の当日らしい。

「知りえたホムンクルスの知識が正しいのか多方面から確認したかったのだけどね……ロボが事細かに教えてくれたしね」

「あ~うん。たぶんロボの答えで合ってるはずだよ」

それ以上に僕が答えられるとしたら、あの馬鹿悪魔が何の漫画を題材にしてホムンクルスを作成したかと言う部分ぐらいだろう。

あの漫画は女性に大人気だったという。たぶん腐敗臭のするあの悪魔はあっちの世界の人たちだ。僕には理解できない世界だ。

魂が作れないのは……知識が漫画に偏りすぎてて無理なんだろう。かく言う僕だって一度読んだだけで魂の錬成とか無理です。何をどうしたら良いのか分かりません。

「ん?」

「どうしたのアルグちゃん」

色々思い出していたら何かが引っかかる。

スリスリと腕に頬を擦り付けて来るホリーの愛らしさはそのままで良い。可愛いから癒しになる。

「何かを忘れている気がする」

「何かって?」

「何だろう?」

ん~。あの漫画のホムンクルスは外に出てたな。だったらリグたちが外に出れて当然なわけだ。わけなんだけど……そうすると『お父さま』と呼ばれたお方を真似ていないことになる。

やっぱり変だ。あの悪魔は意外と完璧主義者だ。そして愉快犯だ。何気に嘘つきだ。

「お姉ちゃんから見て魔眼ってどんな感じ?」

「魔眼?」

腕から頬を離してホリーが僕を見る。

「しいて言うなれば私たちを閉じ込めている檻ね」

そう前置きをしてホリーが語り出した。

「私たちはあの日カミューに騙され魔眼に飲み込まれた。騙されたという部分は人それぞれの意見になるから難しい所だけどね。そして気づけば魔眼の中に居たのよ。今なら詳しく言えるけど私たちはノイエの左目の中で目を覚ました」

そして混乱が起きた。

死を覚悟して魔眼に飲み込まれた彼女たちは、何処か分からない場所に放り出されたのだ。

大半の者が『カミューに騙され別の施設に送り込まれた』と勘違いしたらしい。

結果そんな状態は精神的にも良くないわけで……始まったのは喧嘩からの殺し合いだった。

「しばらく殺し合って気づいたのよ。私たちが死なない体になっているってね」

それからは殺し合いも収まり、グローディアとアイルローゼが仕切る形で治安維持が始まった。

レニーラやシュシュは殺し合いに参加せず逃げ回っていた部類なので反感が少なかった。だから魔眼の中を見回り仲間たちが何処に居るのかを把握する役目を得たという。

今と同じだ。と言うかあの2人はフリーダムだから好き勝手している気がする。

「しばらくすると魔眼の深部、中間、中枢と留まる人たちに分かれるようになった。時折暴れる者も居たけど、その場合はアイルローゼが鎮圧しに向かったしね」

当時のアイルローゼが狙っていた主なターゲットは4人。

エウリンカ。ニキーナ。ファナッテ。ミジュリだと言う。

特にニキーナとファナッテは全力での駆除対象だった。

出会い頭に問答無用で腐海をぶち込む程度の過剰戦力による迎撃だ。ちょっと相手に同情する。

「私は誰とも係わる気が無かったから中間に居た。リグもそうだったわよね?」

「深部は危ないし、中枢は煩い。寝るなら中間」

ブレない奴だな。そんなブレない子でも僕がちゃんと抱きしめてより一層動かないようにしよう。

「……それ以上はダメだからね」

「分かってます」

度を越えなければリグは許してくれるっぽい。何事も限度があるのです。

「で、色々とあってノイエの環境が変わった。詳しい説明は必要かしら?」

「は~い。僕が愛らしいノイエの夫で~す」

軽くお道化たらホリーの拳が僕の脇腹を軽く殴って来た。

僕と結婚してからのノイエの変わり様は半端ない。それに釣られて姉たちの自由度が増した気がする。と言うか全員本性を思い出して好き勝手やっているような気がする。

それならそれで良い。僕は強制や強要なんて家族には求めない。自分がしたいことを自分が取れる責任の範囲ですれば良い。

もし限度を超えた行動をしたいのなら、その時は家族全員に要相談だ。それで良い。

「で、お姉ちゃん」

「なに?」

「魔眼とホムンクルスの関係性って?」

「……正直分からないわ。ずっと悩んでいる」

そりゃそうだ。お姉ちゃんはあの漫画のホムンクルスの別名を知らない。

なるほどなるほど。今の僕は冴えている。さあホリーとリグから尊敬されよう。

「ロボよ」

「兄さん何ですか?」

黙々と焚火の準備をし、何処からか食材まで運んで来たロボは真面目だ。

問題はその食材……素材そのままだよね? 丸焼きにするの? どう見ても猫ほどの大きさなワニにしか見えないよ? ドラゴンじゃないよね?

「ホムンクルスってフラスコの外だと36時間しか活動出来ないんだよね?」

「そうです。そう作られてます」

なるほどね。

「リグたちは魔力の都合で約1日しか外に出れない。それは何故だ?」

「兄さん。今自分で魔力の都合って」

「そこ。今はツッコミ入れるタイミングじゃありません。スルーです。泳がせないとダメです」

「勉強になります」

ひとしきり頷くロボも立派に成長してくれるようだ。

「帰らないと体が腐るから……腐るの?」

「腐るとは違います。固まっている砂団子がボロボロと崩れる感じです」

「最後を語るな。見たくもない」

この腕の中のリグがボロボロと崩れるとは耐えられません。

ギュッと抱きしめると、リグが顔を向けて来たが何も言わなかった。

「つまり僕らは『魔力の都合』と言う言葉に惑わされ、リグたちが1日で帰ることを受け入れていた。が、本当は違う。それ以上魔眼の外に居ると活動できなくなるからだ」

「おお~」

感嘆の声を上げるのはロボだけだ。

何故? どうしてホリーもリグも感動しないの?

「アルグちゃん」

「はい」

とても穏やかな表情でホリーが勉強を教えている弟にでも向けるような視線を向けて来た。

「つい最近セシリーンが長いこと出ていたわよね?」

「そうでした~!」

忘れてた。うっかりだ。根底から覆された。酷い話だ。

「僕の理論が……」

「良し良し。頑張った頑張った」

「お姉ちゃん!」

頭を撫でてくれるホリーに縋りついて甘える。

が、やっぱり鎧が硬い。この辺は安全っぽいし脱がない?

「でもきっとアルグちゃんの考えは間違っていないと思うのよ」

「はい?」

僕を撫でるホリーはいつも通りの表情になっていた。

ノイエ特有の無表情だ。感情を感じさせない。

スッと手を動かしホリーが自分の左目を、瞼の上から触れた。

「きっとこの魔眼がフラスコだったかしら? それなのだと思う」

「はい?」

何を言ってますか?

「だからこの魔眼がフラスコなのよ。そして私たちはその中で生きている」

「……」

腑に落ちたとはこのことか。

ホリーの言葉がしっくりきた。納得できた。

「ならお姉ちゃんたちは?」

「基本はこの魔眼の中でホムンクルスの体に宿る存在ね」

良く分からないが腹の奥底が冷たくなった。

納得いかない。だってそれを認めたらお姉ちゃんたちは死んでいることになる。

魂と肉体があっても……それを生きていることと言えるのだろうか?

「で」

今にも泣きだしそうな僕にホリーが指を立ててクスリと笑う。

「たぶん右目に私たちの肉体が封じられているのよ。そう考えれば辻褄が合う」

「はい?」

僕の涙が一気に引いた。

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