軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔法の呪文

ランプを消して月明りが差し込む寝室でスヤスヤと寝ている相手の姿は、普段通りのノイエのはずだ。たぶん。

前々からノイエの寝相が悪い時があるのが不思議だった。普段の彼女は寝入った姿勢でピクリとも動かないのに、たまに何をどうしたのか分からない場所で寝ている時があった。

勝手に動いたのか……夢遊病か。色々と考えたが、先日のあの一件で謎が解けた。

今夜目を覚ませたのは、相手が僕の腕の中から逃れたおかげだ。流石に起きる。

案の定ノイエらしくない動きをしていた。

だから確信した。ノイエの中にはやはり……喪った仲間たちが居るのだと。

HDDの中にデータが残っている感じなのかな? それとも魂的な物が入っている感じなのかな? 専門の人に聞きたくなるけど、そんなことをしたら間違いなく大騒ぎだ。だったら僕は誰にも言わない。

それと一応約束したからノイエにも言えない。

あれ? 気づいたらとんでもない秘密をまた一つ抱え込んだだけなのでは?

この~。プニプニほっぺをツンツンして気晴らししてやる。

どうだ? このプニプニめっ! ここか? これが良いのか?

ツンツンしていたらパチッとノイエの目が開いた。

「あはは……あはは……」

「ごめんなさい。君は正直トラウマだから出て来て欲しくないです」

悪戯してたらとんでもないのが出て来たよっ!

前回のトンデモ魔法を使いまくった人ですか? 確か"血みどろファシー"だったよね?

軟体動物……タコが動き出したような感じで彼女が僕に抱き付いて来た。

「あはは……はは……」

「ん?」

ギュッと抱き付いて来る彼女は嗤い続けている。それでも魔法は飛んで来ない。

何だろう? 何か前回と雰囲気と言うか、気配と言うか……そっか。

抱きしめ返して背中を優しく撫でてあげる。

「大丈夫。寂しくない。怖くないよ」

「……」

微かに吐息のように笑い声が聞こえて来るが、彼女は抱き付いたままだ。

「うん良いよ。寝るまでこうして居るから……気が済むまで、眠くなるまでこうしてようね」

「……」

キュッと強く抱かれるが、あくまで少女の力でだ。

悪い夢でも見て甘えて来る娘とかってこんな感じなのかな?

そう思うと自然と優しい気持ちになれるから不思議だ。

「……おはよう」

「……」

目を覚まして最初に視界に入ったのは、真っ赤な顔をしたノイエだった。

怒っているような、恥ずかしがっているような……どっちつかずの微妙な雰囲気を発している。

まあ仕方ない。原因は僕にある。

そっと彼女の寝間着を見つけて着せてあげると、強めに抱き付いて来た。

「アルグ様」

「はい」

「寝てる時は嫌」

「はい?」

「……するなら起きてる時」

「ごめんなさい」

体を離して甘える感じでこっちを見つめて来たから、そっとキスをして彼女に許して貰った。

「アルグ様?」

「ん」

「お城は?」

「今日は眠いからお休みです」

「良いの?」

良くは無いだろうね。

定刻までに僕とノイエがお城に来てなければ護衛の騎士がこの屋敷に来る。

その時メイドさんから『本日は具合が悪いので自宅にて休養するそうです』と告げて貰えば、たぶん明日怒ったクレアから小言を言われる程度で済むはずだ。2日分の書類仕事なら1日真面目にやれば、ね。

私服のワンピース姿のノイエを椅子に座らせて、鏡を持って彼女の前に立つ。

小首を傾げてこちらを見る彼女に鏡を向ける。

「ノイエ」

「はい」

「その姿……どう?」

「……小さい頃の」

「だね」

良く分かっていない彼女がますます首を傾げる。

正直あまり使いたくなかった手なんだけどね……昨日ファシーが教えてくれた。

『"仲間たち"はノイエの目からちゃんと世間を見ている』と。その言葉で確信を得た。きっとこの方法が一番の劇薬だ。

色々と話をしていたら甘えて来る彼女が、つかノイエの姿が余りにも可愛すぎて暴走してしまったが。

「前の姿は好き?」

「?」

「白銀の髪と赤黒い瞳」

「……はい」

コクンと頷いた彼女は、やっぱりな返事だった。

「好きなんだ。でもごめんね……もう戻れないらしいよ」

告げた言葉にノイエが固まった。

完全にフリーズして……ボロッと涙がその目から溢れる。

堰を切ったようにボロボロと溢れ流れるその涙が、泣く姿が鏡に映る。

「嫌だ。アルグ様……戻りたい」

「ごめん。無理なんだって」

「嫌っ! あれは……あの目は……」

ボロボロと溢れる涙に、込み上がって来た何かに、ノイエの言葉が詰まった。

分かっている。色々とあってだいぶ理解した。

きっとあの目や髪の色は、ノイエにとっての宝物なんだ。

彼女が普段あまり物に対して執着しないのは、一番大切な物を普段から持ち歩いているから。

椅子から転げるように崩れ落ち、彼女は僕の方へとやって来る。

鏡を床に置いて、膝を床に着いて両腕を広げて彼女を迎い入れる。

ギュッと抱き付いて来たノイエを優しく撫でる。

「あの髪も目も……ノイエの宝物なんだよね?」

「……はい」

優しく背中を撫でると、涙に染まった顔が僕を見る。

幼い分柔らかな表情だが、その顔に感情での動きはほぼほぼ無い。

それでも彼女には見えないだけで、喜怒哀楽は存在している。

今は"哀"が強く出ている。

「だからもう良いでしょ?」

「?」

「魔法の呪文だよ」

彼女の濡れた頬を両手で挟んで顔を起こすと、そっとその唇にキスをする。

「……苦しい」

「服を脱がしてからにして欲しかったね」

キスしている間にノイエが元に戻っていた。

白銀の髪に赤黒い瞳。そして元に戻った体に幼い頃の服が食い込んでいた。

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