作品タイトル不明
妹想いの良いお姉ちゃんね
ユニバンス王国・王都王城内地下封印倉庫
「と言う訳でポーラ」
「はい」
「今からここの掃除をしなさい」
「はい」
ノイエを呼びだし開いてもらった倉庫の扉を潜り、僕は我が家の最終兵器を庫内に送り込んだ。
別名刻印の魔女だ。この世界の術式の生みの親にして魔道具だって数多く作った人物だ。彼女以外にこの場所の探索……掃除に適した人物はいない。
「持ち出すのは良いけど、何を持って来たのかはちゃんとリストアップして報告してね」
「え~」
あからさまにポーラらしからぬ返事が。あれを釣るには魔道具があれば十分と言うことか。
「報告書を書けばある程度の持ち出しは許可されるから」
「ぶーぶー」
文句を言いつつも早速作業に突入して……掃除はあれがひと通り全部見てからだろうな。
掃除はついでなんだけどさ。
「そうだノイエ。ノイエ?」
仕事に戻って貰おうと声を掛けたノイエの様子がおかしい。
ボーっと一点を見つめて……金色碧眼になっちゃった!
「ここにあるはずなのよね」
「お~い。グローディア?」
「煩い黙れ。逆らうなら引き抜いて食わす」
何を誰に!
余りの恐怖に内心内股になってしまった。
ビビッてちょっと身構えただけだから。
フラッと歩いて倉庫内を見渡した従姉様は、ある棚の前で立ち止まり手を伸ばした。
手にした物は……ネックレスに見えた。
「これよ」
「はい?」
「……本当に殺したくなるわね。この馬鹿は」
良し分かった。その喧嘩買ってやる。今度本体で出てきたらお前の鼻にゴボウを押し込んでやる。この世界のゴボウはニンジンほど太いがな!
こっちに向かい振り返った馬鹿が先ほど掴んだ物を差し出すように腕を伸ばしてきた。
「愛していると言うのなら、ノイエに贈り物の1つでもしなさい。毎度あんな汚らわしい寝間着ばかりじゃなくてこういった物をよ」
「……」
握った手を緩めグローディアが僕の手にネックレスを落とす。
「ノイエは純粋なのだから、好きな人に贈り物をされれば凄く嬉しいのよ。本当に使えない馬鹿ね。早く死んで欲しいわ」
言いたい放題言って、グローディアが姿を消す。
元に戻ったノイエがアホ毛を揺らして僕を見た。
「ノイエ」
「はい」
「目を瞑って」
「はい」
言われるがままにノイエは目を閉じる。
物凄く釈然としないが、今回ばかりは相手の言葉が正しい。
そっと彼女の白い首にネックレスを付ける。
「開いて良いよ」
「はい」
パチッと目を開いたノイエは接近していた僕に気づいてまずキスをする。
それから自分の首に手を当てた。
「なに?」
「大好きなノイエに、ね」
「……」
クルンクルンとノイエがアホ毛を回し、何故か怒れる猫の尻尾のように膨らました。本当に器用だな。
「ありが……」
「なに?」
ノイエが言葉を切ってしまった。
少し俯いてネックレスに触れるノイエが改めて顔を上げた。
普段の無表情からでは想像できないほど微かにだけど表情が見えた。たぶん笑っている。
ネックレスから手を離しノイエが僕の首に手を回す。
「……大好き」
「うん」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
こんなに喜ばれるのならもっと贈り物をするぺぎだった。
今回ばかりは海より深く反省だ。
「へ~。珍しい」
『ししょう。あれは何ですか?』
「ん? あれは始祖の魔女が作った魔道具の1つよ」
適当に棚の1つを制圧していた魔女は、甘々な夫婦の様子から目を離した。
「あれは子供用のお守りなの」
『こどもよう?』
「そうよ」
始祖の魔女は本当に子どもたちを愛していた。自分の子供も他人の子供も愛していた。分け隔てなくと言うのは難しかったが、それでも他の子どもたちにも愛情をもって接していた。
その証拠があのネックレスだ。
「あれを身に着けている者は、一度だけ死に匹敵する一撃からその身を守って貰えるのよ。その名も『身代わり君』よ」
ネームセンスはあれだが、それでも優れた魔道具だ。
あれのおかげで腕白な子供たちが、馬車の前に飛び出し跳ねられて死ぬという出来事が激減したのだから。
「まあ死なない彼女には無用の長物よね」
『……』
「察しなさい。あれを持ち出すにはいい機会でしょう?」
たぶんあれは彼女の為に元お姫様が探し出したのではないと魔女は察した。
ただ日頃の関係から……色々と難しかったのだろう。
「妹想いの良いお姉ちゃんね」
『はい』
王城内・アルグスタ執務室
「で、私は思ったのよ。これほど無駄な1日があったものかと」
憤慨した馬鹿賢者がケーキをムシャムシャと食べている。フォークを突き刺して品の無い。
「僕に文句を言うな」
まさかの当たりゼロとは思いもしなかった。
厳密に言うと何個か持ち出している。持ち出しているがその全てが今回関係ない。全部馬鹿賢者が懐にしまっている。ちゃんとリストアップしてあるから問題は無いが、名前で書かれているので検索できる何かをください。
「ねえ馬鹿~」
「何だよ馬鹿?」
「ちょいと頼みたいことがあるのよ」
ケーキを食し終えソファーから立ち上がった妹が歩いて来る。手には白紙の紙だ。
「サインして」
「……」
「してよ」
「……」
「しなさいよ」
「……」
「脱ぐわよ?」
「酷い脅しだな!」
全力で無視したら酷い脅しがやって来た。
「いや待て。普通誰が白紙の紙にサインする?」
「心配無用よ。借用書にはしないから」
「マジで止めて」
「良いから書きなさいよ」
「……」
白紙の紙にサインするってつまり何でも作りたい放題なんだよな。
心の中で激しい抵抗があるが、何故かポーラの姿をした悪魔がメイド服のスカートに手を伸ばすのです。
逆らえばポーラの下着が晒される。別に見たくないわけではない。と言うか家族でお風呂が大好きなノイエのおかげで僕はポーラの体なら隅々まで見ている。不思議なことに隅々までだ。
「分かった。ならこの服を脱いでお城の中を一周して来る」
「止めて~。書くから止めて~」
メイド服を脱ぎながら出て行こうとするポーラに駆け寄り抱きしめる。
もう本当に好き勝手する奴だな。
「いや~ん。お兄様に襲われる~」
「襲わんよ」
「ノリの悪い」
腕を離して妹を解放し、席に戻って白紙の紙にサインをする。
「もちろん略称じゃなくて正式の奴ね」
「へいへい。変なことに使うなよ」
「使うに決まっているでしょう?」
「ならこれは、」
「脱ぐわよ?」
「酷すぎるだろう!」
相手の言葉に逆らえず、馬鹿が踊りながら僕の手の内の紙を回収していった。
「なら私は帝都に行くまでに少し準備して来るから」
「はい? っておい?」
何故かポーラの背中からスルスルと人の背丈ほどの箒が姿を現した。
あれは普段ポーラが座って空を飛んでいる……と、宙に浮かべた箒に腰かけポーラが横移動していく。
「なら少し出て来るから」
「お~い」
「ポーラ行きま~す!」
器用に窓を開いて行ってしまった。
恐ろしい速度でのロケットスタートでした。
ポーラが最近おかしくなってきたのって全てあの馬鹿が悪いんじゃないのか?
「まあ良いか」
窓を閉めに近寄ると太陽が西の空へと沈みだしている。
そろそろかな? 今日は途中で呼び出したから残業かな?
「ノイエ~。仕事が終わったら真っすぐここに来て~」
声に出してノイエに呼びかける。
閉める予定だった窓をそのままに、自分の席に戻って椅子に座って顔を上げたら……目が点になった。
「なに?」
若干普段着にしているワンピースを乱しているノイエが居た。
急いで来たのね。この子ったら……本当に可愛いや。
「ノイエ」
「はい」
「こっちに来て」
ポンポンと自分の太ももを叩いたら、ノイエが腰を掛けて来て僕に寄りかかる。
「アルグ様」
「ん?」
「……ありがとう」
そっと胸元に手を当ててノイエが僕を見つめて来る。
本当に嬉しかったらしい。
「今度もっと凄い物を送るからね」
「……要らない」
「はい?」
小さく首を傾げてノイエが口を開く。
「これがあるから良い」
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