軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最悪だ~

ブロイドワン帝国・帝都ブロイドワン

「これは遠路はるばるご苦労様です。ご使者様」

「あは~」

出迎えに出て来た人物を見て、ユニバンス王国の騎士である彼女……ミシュは自然と腰に差す短剣に手を伸ばした。

見覚えがあった。厳密に言えば死ぬところを見たような気がする。

「懐かしい顔と言うべきかな~?」

「ええ。その節はどうも」

妖艶に笑う相手……魔女マリスアンにミシュは神経を研ぎ澄まして逃げるべき方向を探る。下手に後方や左右に逃れるなら上空に逃れた方が無難な気がする。ただ相手が何かしらの罠を張り巡らせていたら終了だ。

意外と死とはこんな感じであっさりと訪れるのだと理解した。

クスリと笑う魔女は、片足を下げミシュに場所を譲るよう……先へ進むように促す姿勢を取る。

「ご安心ください。ここではまだ仕掛けませんので」

「つまりそれって?」

「はい」

笑う魔女は、三日月のように口を裂いて笑みを浮かべる。

「あの夫婦が揃った時に全力で殺しますので、その時まではどうぞごゆっくりと」

「……嫌な処刑宣言だね」

「そうですか?」

口を戻し、裂けた頬も元に戻して魔女は何もなかったように表情を正す。

「ただあの夫婦は帝国をそして共和国を敵に回しすぎたのですよ。だからこうしてあの2人を殺そうと戦力を集めています」

「うわ~。最悪だ~」

つまりそれは帝国の全戦力が帝都に集結していることを意味する。

下手をすれば共和国からの援軍も有りだ。

「あの夫婦はモテモテだね~」

「ええ。それはもう」

クスクスと笑いマリスアンはミシュを連れ帝宮の奥へと歩き出す。

「今すぐにでも殺したくて殺したくて……集められるだけの戦力を、集められるだけの魔道具を、集められるだけの全てを今も集めています」

「熱烈な歓迎の準備だね~」

皇帝の葬儀を餌に、敵はあの夫婦の殺害だけに全力を注いでいる。

あの2人が簡単に死ぬとも思えないし、下手をすれば返り討ちにもしそうだが……そうすれば間違いなく帝国は崩壊する。隣国が攻め入り帝国領はケーキを切り合い分け合う感じになるだろう。

本来なら大きな戦争になりかねないが、ドラゴンが居る限りは酷くはならないはずだ。

「あちらに見えるのがあの小娘にぶつけるゴーレム群です」

「……」

帝宮内を歩きながら魔女が色々と説明してくれる。

聞きながらミシュは胸の内で苦笑していた。はっきり言えば、それは手の内を晒す行為でしかない。ミシュは無意識で自分の意識を懐へと向ける。

筒状に丸められている紙に今見ている内容を記入すれば、もう片方の紙にその文字が転写される。異世界の魔道具だ。

ただ全てを見透かしているように魔女は視線をミシュへ向ける。

「今見ている物はあの夫婦に伝えて下さい」

「すっごい自信だね~」

「ええ。勿論隠している武器もありますが」

クスリと笑い魔女は中庭に鎮座している魔道具を指さした。

東屋かと思っていたそれが魔道具の類だと理解し、ミシュは全身を震わせた。

大型のドラゴンを思わせるほどに巨大だ。並んでいた人型のゴーレムが子供に思えるほどに大きい。

そんな規格外の存在が両膝を着き、両腕で上半身を支えるように鎮座していた。

「この様にドラゴンを頼らない武器を集めていますので」

「……それってつまり?」

「はい」

また口を裂いて三日月のような笑みを魔女は浮かべた。

「あの夫婦は“ドラゴンスレイヤー”だから恐ろしいのです。ならばその武器を奪えば良い」

「この場所にドラゴンは?」

「一匹たりとも居ません」

それが今回の最大の武器だった。

一匹たりともドラゴンを用いずにあの夫婦をこの場で迎え撃つ。

「転移魔法で訪れるあの夫婦は2人。その2人に対しこちらは10万にも届く兵と魔道具でお相手致しましょう」

「うわ~。最悪だ~」

絶望的だ。何をどうすれば、あの2人をしてもひっくり返すことが出来るのだろうか?

「報告したら逃げ帰っても良い?」

「構いませんよ」

また顔を元に戻し魔女は言う。

「私たちの狙いはあくまであの夫婦。そして」

一度言葉を切ってマリスアンは誇るように両腕を広げた。

「その後はこの大陸を征服し、人間どもを支配することとします」

逃げ出しても延命にしかならないと理解し、何よりあの糞王弟は『全部見て報告しろ。そうしてから死ね』と言うに決まっている。

「最悪だ~」

ミシュとしてはそう言うしかできなかった。

ユニバンス王国・王都王城内アルグスタ執務室

「アルグスタ様。邪魔です」

「何を言う?」

「退いてください」

車椅子を卒業し自力で歩きだした僕に優しさの欠片もない言葉を。

知らない間にクレアがどんどん毒を吐く子に育ってきた。これは宜しくない。具体的に言うとポーラが真似でもしたらどうしてくれようか?

色々と考える僕の横を書類の束を抱えたクレアが通り過ぎていく。

仕事をしている馬鹿者の邪魔をするのは僕の本意ではない。よって今日は大目に見てやろう。

「ん~」

「どうかしましたか? にいさま」

「……重い」

フルアーマーアルグスタと化した僕を鏡越しで確認する。

やはり僕に鉄の鎧は似合わない。と言うか重いから身動きが出来なくなる。

「やはり革だね」

「はい」

ポーラの手を借りてフルプレート的な鎧を脱いでいく。

「にいさま」

「なに?」

「これは……」

脱いで新しく身に着けた鎧に今度はポーラが微妙と言いたげな表情を浮かべる。

何か問題でも? 似合っているかと聞かれると微妙な気がするけどさ。

「もうすこしきたほうが?」

「重いから動けなくなります」

「……」

僕の言葉にポーラが首を傾げる。納得いかない様子だ。

何よりポーラなんてメイド服じゃん。ただし叔母様特注のビックリするほど高額なメイド服だけどね。下手な鎧よりも強固な……あら不思議? ちょっとあのメイド服が欲しくなって来たよ?

「後は腕とか脛とかを固めて十分でしょう?」

気づけば前回の装備に戻った。つまり僕はこれが限界らしい。

「どう?」

「……いいとおもいます」

妹様から苦渋の決断を垣間見たような返事を頂きました。

本当ならノイエのようにプラチナ製の鎧とか作りたいんだけどね。もう無理です。絶対に無理です。材料が集まらないし、何より金額がとんでもないことになります。

誰だよプラチナを買い漁っている金持ちは? は~い僕です。

プレートの材料として集めていますが何か?

「僕らにはノイエが居るから大丈夫でしょう」

今回はお葬式に行くのです。

戦争するわけじゃないから、鎧の上からマントを羽織って隠しておけば問題ないはずだ。

問題は暑い。この時期に厚着は辛い。

「アルグ~。居るか?」

「さっき帰った」

「居るだろうが」

呆れながら馬鹿兄貴がまたやって来た。コイツは暇なのか?

勝手にソファーに座ってポーラに紅茶を求めだす。

「帝国行きの衣装合わせか? せめてマントは黒にしろ」

「暑いから嫌なんだけどね」

色ではなくてマント自体がだけど。

「で、何よ? またサボりか?」

「サボりはついでだ」

認めるな。働け。

踏ん反り返ったソファーに座る馬鹿兄貴が懐から紙を取り出す。

何か見覚えのある紙だ。確かあれはグローディア指示でミシュに持って行かせたスクロールの片割れだな。

ただしミシュには『緊急時に使え』と伝えたはずだ。あの馬鹿はまた手抜きをしたな?

「ミシュが帝都に到着したの?」

「そうらしい。で」

「で?」

ピラピラと髪を振る馬鹿兄貴の様子から受け取れという空気が半端ない。

何故だろう? 物凄く嫌なフラグが見え隠れする。

「ポーラ」

「はい」

ワンクッション置くことにした。

まずポーラが受け取って迷うことなく彼女は紙の内容を確認する。お兄様の精神的に優しくない内容だった場合は表情に出るので覚悟を決められる。

そんな判断基準からポーラの様子を見つめていたら、何故か彼女は何度も読み返し……何故か泣き出した。

良し。帝国に行くのを止めよう。

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