軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

私に触れるな

ユニバンス王国・王都王城内アルグスタ執務室

「ふぅもぉ~~~~~~!」

猿ぐつわを噛ませたチビ姫がボロボロと泣きながら大絶叫している。

僕はその様子に心を痛めて見つめていた。そもそも君が悪いのだよ。

今日のウチは半休とし、2人の部下たちを早々に帰宅させた。

理由はある。あのチビ姫に対する躾を敢行するためだ。

『新作ケーキの試食するんだけど食べるか?』と隠し扉の向こう側に声を掛けたら迷うことなく全力で駆けて来たから、あっさりと馬鹿を捕獲した。

そして流れる動作でドレスを引っ剥がし、下着姿にしてから手足を拘束して樽の中に叩き込んだ。醜悪な存在が蠢く混沌とした樽の中にだ。

うむ。これはやはり醜悪な拷問なのだな。

余りにも凄惨な様子に待機しているメイドさんたちが口を押さえて退出していく。我慢して立っているのはミネルバさんぐらいだ。それだって顔色は悪い。真っ青だ。

ただどんな場所でも例外は居る。ウチのポーラだ。

「こぼれました」

樽の中から溢れた丸々と太った“ミミズ”を掴んでは中に戻す。

迷いがない。と言うか恐怖は無いのか?

「もぉみょお~~~~~~!」

大絶叫だ。チビ姫の悲鳴が止まらない。とても元気だ。

ただ悲惨な状況なのにチビ姫が相手だからかコメディにしか見えない。

流石ユニバンスが誇るギャグキャラ王妃だ。

「ふむ。これは中々に素晴らしい拷問だな。馬鹿兄貴に報告書でも上げておいて」

「はい」

笑顔でポーラが報告書を作り出す。

「にいさま」

「なに?」

「ほかにもあるのですか?」

「ふむ」

つまり我が家の妹様は、これに並ぶ拷問も一緒にプレゼンしようというのか? 勤勉だな。

「分かった。ならば……」

樽シリーズ第二弾として、その昔ミシュに使った皮膚に触れると痒くなる芋を使ったネタを披露する。摺り下ろして樽に満たしてその中にチビ姫をポイだ。モデルがチビ姫なのはご愛敬だ。

本当ならスライム的な物を扱いたいがこの世界には居ない。居ないが馬鹿賢者なら作れるかも?

芋の代案に関して『異世界のスライムでも可』と注意書きをポーラに入れさせた。一瞬彼女の目が怪しく光ったのは言うまでもない。

それから何個か『チビ姫危機一髪(仮)』と題した樽シリーズを捻り出す。ついでに純粋な拷問もリストアップした。

何かの映画で見たハチを使った物だ。皮袋にハチを複数入れて、それを対象者の頭にかぶせて逃げないように首の所で軽く縛る。暴れん坊のハチは袋の中で相手を刺しまくり……と言った内容だと思った。

「これでいいですか?」

「良いんじゃないの?」

どうせ冗談だしね。

「わかりました」

サラサラと報告書を書き上げ、ポーラはそれをミネルバさんに渡す。

『先輩。それを提出したらケーキを買ってきてください。私はその間にここを片付けるので』と告げていた。

地獄で天使を発見したかのようにパーっと表情を明るくさせて、ミネルバさんが軽い足取りで部屋を出て行った。

「で、チビ姫は?」

ポーラと2人で斬新嫌がらせ拷問の根正をしている間に静かになっていたチビ姫は……完全に気絶していた。だが許さん。今回の躾は徹底的にが合言葉だ。

ゆっくりと車椅子から立ち上がり、ペチペチとチビ姫頬を叩く。

薄っすらと目を開いた彼女は……哀願するような目を向けて来た。

「チビ姫」

「もふ」

「僕に逆らうとどうなるか分かったね?」

「もふ」

ブンブンと縦に首を動かしチビ姫が頷いて寄こす。

そうか。僕は話の分かる義姉を持って良かったと思うよ。

「なら折角準備したんだからもう少し楽しんで良いよ。大丈夫。最後にそのミミズは魚の餌や畑へと行き先が決まっているから心配しないで」

「もぉがぁ~~~~~~!」

『私の心配は?』と言いたげに吠えるチビ姫にはもう少し楽しんでもらおう。

しばらく放置したら……何故かチビ姫が突然笑いしたので、ドクターストップと言うことで今回の罰は終えることとした。

「もうダメです。私の体は隅々まで汚れました。一層のこと殺してください……です」

仕事を終えて夫婦寝室へとやって来たシュニットが見たのは、ベッドの上で手を組み今にも『永眠します』と言いたげな妻の姿であった。

「何でもアルグスタの玩具にされたとか?」

言い方に語弊があるが、報告を聞く限りある意味で『玩具』が正しい。

仲が良いというのか……立場を忘れ過ぎた悪友同士にしか思えない。

「あれは酷すぎます。私の色々な尊厳が崩れ去りました……です」

声が死んでいる。表情も死んでいる。それほど恐ろしい拷問を受けたらしい。

「それで何をされた?」

「……言えません。それを言うぐらいなら私は死を選びます……です」

「そうか」

本日最後に秘書官から手渡された報告書の存在を思い出し、シュニットは先に運ばれているであろうそれ探し出して目を通す。

「ミミズか」

「いや~! その名を口にしないでください!」

両手で耳を押さえてキャミリーは絶叫する。

「もう嫌です。あれは酷すぎます」

「……」

「あんなものを受けたら女性は心の根元から折れてしまいます」

「……そうか」

泣いて見せる相手にシュニットは手にしていた報告書を机に戻した。

「キャミリーよ」

「はい」

「……最後は楽し気に笑っていたという報告が?」

ガバッと身を起こしキャミリーは顔を真っ赤にした。

「違います。あれはおぞましい物で私の全身を隈なく 弄(まさぐ) って……弄って……」

自分の肩を抱いて若干俯いている妻の口元が、口角が上がっているのをシュニットは見逃さなかった。

「つまり感じ入ったのか?」

「違います。違いますから~!」

語尾の『です』を忘れて憤慨する相手にシュニットは表情を崩して笑う。

知らぬ間に妻も成長はしているらしい。背格好は全く変わっていなかったが。

「お~い。誰か~。居な~いの~」

フワフワと揺れるシュシュの声は、分厚い氷の壁に弾かれる。

通路を塞ぐように存在する壁は、やはり氷魔法で作られた物だった。

「お~い」

飛んだり跳ねたりフワフワしたり……必死にアピールしてみるが反応がない。

「ホリー」

「何よ」

「飽きた~」

フワフワと揺れてシュシュは帰ろうとする。

ガシッと後ろ首を掴んでホリーは馬鹿の逃走を引き留めた。

「逃げるな」

「だって~」

「簡単よ」

コキリと首を鳴らしてホリーは壁の前に立つ。

「私が10数える前にこの壁を溶かしなさい。もし拒否するならチミリをミャンの前に投げ捨てるわよ。10」

容赦なくカウントダウンが始まる。

数歩壁から下がったホリーは数えながら待った。

3で氷の壁の真ん中が泡立ち、ドロドロと融けて穴を作り出す。

数えるのを止めて待っていると、人ひとりが通れる穴が完成した。

「ふざけるなホリー。燃やし尽くすぞ?」

「相変わらず無駄に熱い野郎ね。ただこの壁が邪魔だっただけよ」

仁王立ちする相手の肩を押し、ホリーは中へと進む。

「ファナッテの毒から逃れたのってこれだけ?」

生き残りを数えてホリーは軽く絶望する。

選択肢がない。1人しかいないのだ。

「何をする気だホリー。俺たちを巻き込むな」

押し退けられた男性が呼び止めようとホリーの肩に手を置く。

スッと青い刃が動いてその手を手首から切り落とした。

「私に触れるな」

全てを拒絶するような冷たい声にその場に居る者たちが震えた。

死の指し手と呼ばれるホリーは魔眼の中でも上位に入る恐怖の象徴なのだ。

彼女に触れれば斬られる。

運よく返り討ちにしたとしても彼女は決して恨みを忘れない。後日復活したら必ず復讐を果たす。

斬られた手首を押さえて蹲る彼に、慌てて女性が駆け寄る。恋人のチミリだ。

ボタボタと脂汗を流し震える男性はロッジという。

そんな2人に冷ややかな視線を向け、ホリーは触られた辺りを軽く払ってからシュシュに命じた。

「獲物はあれよ。捕まえなさい」

「ほ~い」

フワっと上半身を震わせてシュシュが高等魔法をあっさりと構築して発現させる。

天才的と称されるシュシュの封印魔法に囚われた女性は、抵抗する間もなく捕まった。

「あとあれも」

「ほ~い」

ついでにもう1人、あっさりと捕まった。

「今日の所はこれで許してあげる」

何処の犯罪者かと思わせる言葉を残し、まずシュシュが捕獲した獲物を2人引きずっていく。

「それとファナッテの毒はミジュリが浄化したからもう大丈夫よ。それじゃあ」

冷たい声を残しホリーもその場から立ち去って行った。

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