軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

乙女の恥じらいっ!

ブロイドワン帝国・帝都ブロイドワン

「ようこそお出でくださいました。共和国の国家元首様」

「ああ」

馬車での長い旅を終え、彼は帝国の帝都に初めて訪れたセルスウィン共和国の国家元首となった。彼の名はハルツェン・ウム・セルスウィンと言う。『ウム』とは共和国の言葉で『選ばれた』を意味する。

一時はその頬を病的にこかしていたが、今ではだいぶ回復していた。と言うよりも元気ハツラツと言った感じで、生気に満ち溢れている。

本当に病的にまで自分を追い込んでいたのが嘘のようだ。

「この度は先代皇帝の葬儀にご足労頂き」

「構わんよ。マリスアン」

共和国側の目を気にしてか、それとも何かしらの企みがあるのか……新皇帝となった魔女マリスアンは深々と頭を下げていた。

それを制しハルツェンは相手に顔を向ける。

作られたようにすら見えるその表情は、昔と変わらずに美しい。むしろ若返りより美しさに磨きがかかったようにすら見える。けれど彼女のその顔は作り物だ。

本当の……現状の顔を、彼女の顔を見れば誰もが恐怖する。

「ハルツェン様。せっかくの機会です。お話でも」

「そうだな」

皇帝である彼女の案内を受けハルツェンは歩き出す。

けれど彼の部下たちは周りの異形な様子に背筋を凍らせ震えだす。

皇帝の住まい……帝宮には生きた兵など居ない。誰もが人と何かが雑じりあった異形な姿をし、その異形が立って控えているのだ。

その異常な状況を見てもハルツェンは動じない。

共和国に魔女が姿を現し、2人で会話をしてから……彼は全く動じなくなった。

寝る時間も惜しんで仕事をし、今回の遠征の準備を完璧に整えたのだ。

国家元首の指示で共和国の最精鋭が此度参列している。

それもこれも全てはマリスアンの指示だ。

この地でユニバンスの……自分をこけにした夫婦を完全に殺害するために彼女は準備を進めているのだった。

ユニバンス王国・北部ドラグナイト家別荘

「ポーラ様。お湯加減はどうですか?」

「ん~。良い感じです」

「それは良かった」

物陰に隠れた場所で、先輩後輩の声が聞こえて来る。ウチのポーラとミネルバさんだ。

ただ片方は偽物だ。体は本物だが中身が違う。その正体は刻印の魔女と言う化け物だ。

その化け物はミネルバさんに甘えている。

全裸でプカプカと湯に浮かび……好き勝手している。

対するミネルバさんはやはりメイドだ。

と言うか本当に着ていた。コリーさんの新作を。

あれをポーラが作らせて僕の執務室に持って来た時は、ある種の電気がメイドさんたちに走った。噂を聞きつけ叔母様が僕の執務室に突撃してきたほどだ。

メイドランドのご主人様はそれを確認すると、何故か僕に対し『専売契約』を求めて来た。

優遇することで独占は阻止したが、ハルムント家から大量注文が来て、僕がオーナーを務める古着屋さんはフル回転で製作に没頭している。

前振りが長くなったが……その画期的な服とは、メイド服を模した湯着だ。湯浴着とも言う。

本来はお風呂などで肌を隠す白装束の着衣だが、それをメイド服風に作ったのだ。

メイド服は意外と丈夫に作られていて生地が厚い。あのままお風呂に入ると乾かすのが大変なのだ。だが発想の転換から生じた薄手の生地で作った湯着は干しておけば一晩で乾く。何よりメイドとしての矜持を保てる。

結果としてあれがユニバンス王国を席巻するのは時間の問題なのだ。

「ポーラ様?」

「ん~。今日は先輩に甘える日です。これは命令です」

「はい。ご主人様」

ドラグナイト家の令嬢としてメイドに命じるポーラの言葉にミネルバさんは逆らえない。

だからって背後から抱きしめて甲斐甲斐しく飲み物を口に運ぶミネルバさんは……幸せそうだから放置で良い。君たちも勝手に温泉を楽しんでいなさい。

「あ~。旦那君。ワインは?」

「ほれ」

「お~」

ポーラがミネルバさんを独占しているので、現在メイドさんの手が足らない。

屋敷から連れて来たメイドさんたちは一斉に本日使用する部屋の掃除をしているのだ。

だから僕は彼女の命令に従い、ワインの瓶を取って来た、

受け取ったワインをグラスに注いで、レニーラがグラスを煽る。一気だ。一気飲みだ。

「くあ~! この一杯で生き返る」

「何処の親父だ?」

「うわ酷い。こんな若々しい私を捕まえて」

何故に胸を寄せて強調して来る? ノイエさん。それは悪い見本だから真似をしないの。

「見なさい。このお湯を弾く肌を」

自分の二の腕を掌で擦ってから、レニーラはその個所をまた濡らす。

肌に弾かれた湯が二の腕を伝い落ちていく。

「どうよ?」

「はいはい」

「感動が薄いな!」

「だって……ね?」

君は隣に居る存在が見えないのかね?

ちょっと頭を上に振ってノイエに起立を求めると、彼女は音もなく立ち上がった。

傷1つ、染み1つ無い奇麗な肌の上を湯が転がり落ちていく。もう無駄な抵抗は避けて一斉にだ。

「なに?」

「ノイエが凄いなって話」

「はい」

クルンとアホ毛を回して彼女はまた湯に戻る。

代わりにレニーラが立ち上がり……皆まで語る必要はない。

「何でよ!」

「ふっ……ノイエが若いから」

「乙女の恥じらいっ!」

「ぐほっ」

レニーラの奇麗な蹴りが見事に決まった。

軽く吹き飛ばされて……背後に先回りしたノイエがギュッと抱きしめて支えてくれる。

「何処の世に恥じらいで夫を蹴り飛ばす乙女が居る?」

「居る。ここに!」

踏ん反り返ってレニーラが胸を張る。形の良い大きな胸が弾むように動いた。

「と言うか……少しは隠せ」

「え~? だって旦那君、もう隈なく見てるでしょう?」

否定はしない。だって男の子だから。

「だからってまだ明るい時間なのに」

「え~? だって旦那君、ランプを片手に隈なく見てたじゃん?」

否定はしない。あの頃は、冒険に憧れる子供心を宿していた時なのだよ。

今はもう冒険心はどこかに旅立った。僕に残っているのは安心安全だ。

「それにこうして好きな人に見られることで女は奇麗になるんだよ?」

「言ってて恥ずかしくなることを言うな」

「恥ずかしくないもん。ちょっと酔っただけだから」

顔を真っ赤にしたレニーラが湯の中に沈んでいく。こっちも恥ずかしいんだけどね。

「アルグ様」

「ほい?」

ずっと僕を背後から抱きしめていたノイエが手を離し回り込んで来る。

「見て」

「……」

「もっと」

「……」

「全部」

穴が開くほどノイエの裸体を凝視する。

出会った頃よりか確実に胸が大きくなった。それと若干ウエストが締まったか? お尻も大きくなった気がする。

もしかして女性はこうして妖艶さが増していくのか? なんて恐ろしい。

「旦那君!」

「はい?」

「私も見てよ!」

何故かレニーラが復活してノイエの横に立つ。

2人してポージング合戦が始まった。

系統の違う美人が2人で誘惑して来るのは宜しくない。大変に宜しくない。

「アルグ様?」

「旦那君?」

「……」

競っていた2人が僕の一部を凝視してから、視線を顔に向けて来た。

見るな。見つめるな。恥ずかしいだろうが!

「もう上るから」

「逃がさない」

「ノイ、えっ?」

お嫁さんに捕まり湯の中へと引きずり込まれる。

知らない間に温泉が底なし沼にクラスチェンジしていたかっ!

必死に藻掻くがそこにレニーラが加わって来る。

ダメだ。最強師弟だ。逃げられない。

底なしの沼かと思ったら実はアリ地獄だったとは!

「ダメ。そこは……」

「大丈夫」

「はい?」

無表情のノイエが湯の中から顔を出した。

「小さな子が居るから掃除の心配は要らない」

「ノイエさ~ん!」

「あ~。先輩?」

「はい。ご主人様」

「ちょっと耳と目を塞いでいて」

「はい」

言われるがままにミネルバは従う。

呆れた様子でポーラは手を動かし魔法を綴る。

とりあえず防音しておけば問題は無いはずだ。

今のところは。

(C) 2021 甲斐八雲